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アフター・ワクチン ――君打ちたもうことなかれ――  作者: 星香典
第三章 ワクチンで死んだ少女
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第三章 ワクチンで死んだ少女 07

 エクレアとシュークリームをかじりながら、いろいろと教えてもらう。由奈は裕二が取り組んでいた仕事、プロジェクト、得意先、記事の分野、などPCのファイルを開きつつ丁寧に教えてくれた。僕は三杯も珈琲を飲んでしまった。


「サンキュー。月曜、どうにかなりそうな気がしてきた。腹減った。飯行こう、って八時すぎちゃったな」


 時計を見たら八時どころか九時を回っていた。


「やってるよ。ファミレスじゃなきゃ」


 僕たちはアメ横方面へ向かって歩いた。閉まっている店も多かったが、開いている店も確かにある。夜の東京は十分すぎるくらい人がいた。感染者は激減。明日から緊急事態宣言が解除される。


「緊急事態って言っても人流変わらないよな」

「だって、緊急事態ゴッコだもん」


 思わず笑ってしまったが、笑い事ではない。緊急事態ゴッコのために、多くの店が潰れて、自殺者が増えて、ワクチンが打ち込まれている。


 ヘイらっしゃい! と威勢のいい居酒屋に入った。店はごった返している。行政からなにを言われたところで、明日から解除だからどうってことはない。


 二人とも生。唐揚げやたこわさを頼む。由奈はスマホをいじくっていて、「ぎゃーっ」と妙な声を出す。


「どうした?」

「Uma先生の動画が消されてる」

「なに、Uma先生って?」

「知らないの? JPUmaDoctor。youtubeでワクチンの情報とかすっごく詳しく解説してる人」

「youtubeの検閲か」

「youtubeほんとひどすぎ。Uma先生はお医者でちゃんと論文とか読み込んで、それで解説してくれてた。『……たぶん二回打つとその効果が長く続く。……打つとたぶん感染もしない』とか思い込みでホラ吹いてるデマ太郎大臣の動画こそ消されるべき」


 由奈の怒りはもっともだ。だが、この時代、もっともな怒りを多くの人々は感じていない。そう。僕たちはこんな素人の、希望的憶測を述べる大臣を信じて、ワクチンを打ってしまったんだ。僕もスマホをいじくる。


「ほんとだ。登録しておいたいくつかの動画、削除されてる」

「アルファベットにはライフサイエンスって部門があって、そこがマイザーと協業してるんだよね。どこの世界もお金。『酷い殺しも金ゆえだ。恨みがあるなら金に言え』ってことかな」

「なにそれ?」

「村井長庵」

「だれ?」

「江戸時代の医師」


 医は算術なり、とはよく言ったものだ。


「金が目的ならまだいいんだけどね」


 僕は人々が次々と死んでいく未来を思い出して呟く。


「目的はお金じゃない?」


「由奈は知らないだろうけど」と僕は未来の話をする。「このあとまたナントカ株っていうのが流行初めて、首相はマイザーの新型コロナの経口治療剤とかいうのたくさん買って、また収まって、また流行って、ワクチン買って、薬買って、また収まって、また流行って。……結局、コロナ騒ぎが収まるのは、ワクチンの致死性が明らかになり、接種が中止されてから。接種が中止されたらコロナは嘘のようにピタリと消えた。結局、コロナのためのワクチンや経口治療剤じゃなくて、ワクチンや経口治療剤のためのコロナで――」


 店員がラストオーダーを伝えに来た。


 頼もうか、頼むまいかと迷うも由奈は、明日も会社だから、と終わりにした。お勘定を払う。明日から十月だ。夜風はひんやりと、酒でほてった体を冷ます。十一時近くなるとアメ横も人通りが減ってきた。


「明日台風でしょ。行きたくないな。裕二はいいね、四連休」



 由奈は帰るのだろうか。足は御徒町の駅に向かっていた。天気アプリを開いたり、お互いのツイッターのタイムラインを見せ合ったりしていたら、すぐに駅に着いてしまった。泊まっていく、と言われたらどうしようか、という心配は取り越し苦労だった。


「じゃな。今日はありがとう」

「ううん。ゴチになっちゃった」

「気をつけて帰れよ」


 彼女は改札に足を向けるのを躊躇っていて、


「ね、裕二。土曜は暇?」

「うん? 暇だけど」

「あー、えーと」と由奈は口ごもりつつ、「デモとか行かない?」

「ああ、いいね。行く」


 彼女は不思議そうに僕を見つめて、


「え、いいの? デモとか誘ったらどん引きされるかと思ったけど、裕二、ほんと変わったね」

「昔の僕ならどん引きしてた。っていうか、その前に、おまえの話にどん引きしてるだろ」


 じゃ、場所と時間、あとで送るから。と慌ただしく改札を抜けて手を振る彼女を、正直言って、可愛いと思った。彼女は普通の人をデモに誘ったらどん引きされる、と分かっている。自分が周りから白い目で見られていることを分かっている。生きにくさを感じている。人を選んで心の内を明かしている。僕は選ばれたうちの一人なのだろう。


「なぁ裕二。おまえがこの体に戻ったとき、彼女のことを悲しませないように。わかったか。頼むぞ」


 と帰り道、僕はどこにいるか分からない裕二の魂に告げた。

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