第三章 ワクチンで死んだ少女 06
この四連休に裕二がしていた仕事を覚えるべく、彼のPCを開いて、仕事に関係がありそうな資料を片っ端から開いていく。
息抜きにYAHOOニュースなどを見ると、ワクチンに関する喧伝が凄まじい。ただ、この時期ヤフコメなどではワクチンに対して否定的なコメントが大半を占めるようになってきたのも事実だ。しかし、日に日にワクチンの接種率は上がっていく。僕は多くの人を見殺しにしている。いたたまれない。
十年後の未来から、この時代に戻ってきたのは、なにか意味があるはずだ。的確に動けば、十年後の悲劇をなくせるかもしれない。2026年にワクチン接種法が改正されて、接種が中断されるまで、ブースター接種は行われ続け、多い人では十回。少なくとも、年二回の接種が義務づけられていたので、十回から十二回を接種してしまっている。
接種回数を減らせば、寿命を延ばせるかも知れない。本当は、接種前に止められればそれが一番いいのだけれども。
もう十年前に戻れれば……。そんな言葉が自然と漏れてしまう。
由奈から会社来ないのか、とラインがあったので、今週は休むと伝えた。
世界を救う方法を模索しながら、弟のファイルを片っ端から叩いて、ミニコミ誌会社の仕事の内容を学んだ。
暗くなってから、インターフォンが鳴った。
「生きてる? 御見舞に来て上げた」
会社の帰りだろうか。由奈は茶色のトートバックを肩から提げて、コージーコーナーの袋を手にしていた。門前払いするわけにもいかない。幸い、弟の部屋はある程度片付いていた。
「上がるか?」
「うん。差し入れ」
「狭いけど」
「へぇ。意外と片付いてるね」
その辺、適当に座ってて、と言う前に、由奈はベッドに腰掛けていた。
由奈のお土産はシュークリームとエクレアだった。お土産のお礼にインスタント珈琲を二杯入れた。彼女と向かい合わせで、ベッドの脇のデスクチェアに座った。
「元気そうで安心した。もともと、コロナは風邪以下だもんね。後遺症とかは大丈夫?」
僕は曖昧に返事をする。ノートPCを開いて、
「そう。後遺症で、仕事、なにしたらいいか忘れちゃって」
「それ、本気で言ってる?」
「あー、とにかく、なにをしたらいいか分からない。どうしたらいいか教えてくれると助かる」
由奈は考え込む風に、
「山沖さんが言ってた。裕二このまえパソコンの前でずっと止まってたって。ちょっと異様で声かけられなかったって。仕事以外の記憶は?」
「まぁ、ぼちぼち。覚えてたり? 忘れてたり?」
「アンタ、都合の悪いことだけ忘れちゃうんじゃない?」
「とにかく、月曜から僕がなにをしたらいいか、教えてくれ」
「……タダで?」
と彼女は値踏みするようにのぞき込む。
「飯、奢ろうか」




