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アフター・ワクチン ――君打ちたもうことなかれ――  作者: 星香典
第三章 ワクチンで死んだ少女
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第三章 ワクチンで死んだ少女 04

 有楽町から湯島まで、ちょっと距離はあったが、歩いて帰ることにした。銀座通りまで出て、日本橋、神田、秋葉原を歩く。昼間の東京は緊急事態宣言中にも関わらず人で溢れていた。2031年は緊急事態でもなんでもないが、東京は閑散としてしまっている。人が大勢いるということは、それだけで活気と賑わいだ。


 食堂は夜の8時で閉まるが、昼間は普通に開いている。餃子とビールが美味い店を覗くと、客のテーブルの上には、金色のジョッキが置いてあった。


 もうすぐ総選挙だ。秋葉原では野党が演説していた。ワクチンパスポートの反対を訴えているようだったので、僕は近づいてその話を聞いてみた。ロータリーの真ん中に停めた党車の屋根に数人が上がって演説していた。


「ワクチンパスポートで国民を差別することは明らかな憲法違反。すべて国民は、法の下に平等! 政治的、経済的又は社会的関係において、差別されないんです! パスポートなどを作って、打った人は割引、とか、GoToが使えるとか、まさに憲法違反じゃないですか。ワクチン接種のインセンティブ? 飴と鞭、ふざけるんじゃないと言いたい。国民は政府の飴と鞭によって行動を決められてしまう存在なのか、コントロールされてしまう存在なのか、いつから国民はサーカスの動物になったんですか。いつから政府は国民に芸をさせる調教師になったんですか。どうしてもワクチンパスポートをやりたいというなら、ちゃんと国会で法制化して義務化してからやらなければ、国民主権の法治国家は終わりです!」


 実にごもっともなことを演説されているが、法制化されて義務化された未来を知っている僕にとって、恐怖でしかなかった。


 演説はまだまだ続くようだったが、僕は線路沿いに北上。2k540を通って御徒町へ出る。御徒町はついこの前、未来での話だが来たばかりだった。理恵に結婚十周年のダイアモンドのトップが付いたネックレスを買った。その店は、十年後と佇まいを同じくして、目の前に現れた。結婚十周年の九日前に、理恵は死んでしまった。その首にネックレスを飾った。生きているうちに渡すことが出来なかった。死ぬ日は分かってたんだから、死ぬ前に渡して上げるべきだった。だけど、僕は理恵が死ぬことを認めたくなくて、渡すことが出来なかった。


 十年後の物と全く同じ物はなかったが、似ている物を選んで買った。日曜日には理恵も来ると言っていた。結婚祝い、過去の僕に時計をプレゼントするなら、過去の理恵にネックレスをプレゼントしても悪くはない。過去の僕は、十年後にダイヤの指輪でもあげればいいわけで。


 アメ横も賑わっていた。十年前はこんなに人がいた。まだ、日常の生活があった。これほどの人間が生活していたら、地球に負担がかかるのは確かだろう。だからって、人を減らすというのは短絡的すぎやしないだろうか。


 レミングが集団自殺する鼠だっていうのは嘘で、増えすぎた個体が食料を求めて川に飛び込み溺れる、というのが真相らしい。人間もそうなのだろうか。増えすぎた個体が生命を求めてワクチンを打ってその数を減らす。事情を知らない宇宙人が見たら、地球人は集団接種会場で注射を打って集団自殺をしているようにしか見えないだろう。


 サンドイッチだけでちょっと小腹が空いた僕は、肉を焼く香りに誘われて屋台の椅子に座った。中国人か台湾人か、若い女の子が注文を取りに来る。豚耳やら、饅頭やらを適当に注文した。テーブルの上にはジョッキ生三百円と書かれた紙がラミネートされて置いてあった。


「お酒、飲めるんですか?」

「はい。大丈夫よ」

「じゃ、これも」


 緊急事態の要請に随わない店があるというのは聞いていたが、思ったよりも堂々としていた。よく見れば、正面に座った韓国語で話している人たちも、手にジョッキを持っていた。運ばれてきたビールを飲む。ちゃんとアルコールが入っている。陽が高いうちから飲む酒は、グッと脳みそを揺らす。

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