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アフター・ワクチン ――君打ちたもうことなかれ――  作者: 星香典
第三章 ワクチンで死んだ少女
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第三章 ワクチンで死んだ少女 02

 会社を早退して、エレベーターで一階に降りると、帰社した由奈と出くわした。


「あれ、帰るの?」

「うん。お疲れ」


 本当はこの娘と話がしたかった。


「そう。お疲れ」


 彼女は僕が乗ってきたエレベーターに入る。彼女はいつも外で昼をとる。そんな記憶があった。


「おまえ、昼飯……」


 全部言い切る前に、エレベーターの扉は閉まった。そして、上昇を始めた。なぜワクチンを打たないのか、裕二のこと、などいろいろと聞きたいことがあった。隣のエレベーターで追いかけようか、とも考えたが、そこまでするのも気が引けた。


 ビルを出て歩いていると、由奈からラインが届いた。荷物置いてくるからちょっと待ってて! 僕は慌てて踵を返しビルに戻る。降りてきたエレベーターから由奈が出て来た。


 由奈は無言で僕の前に立っている。


「……昼飯でも、喰わないか?」

「入社して二年だけど、初めて裕二から誘われた」

「そう、だっけ?」

「そうだよ。バカ」


 弟がどうしてこの娘を苦手に感じていたか、なんか分かった気がした。


「なに喰う?」

「なんでもいいけど、ちょっと有楽町の方まで歩かない?」


 会社の人間と会いたくない、表情が語っていた。


 ほぼ有楽町の近くまで来て、ここでいい? と由奈は喫茶店を選んだ。僕たちはサンドイッチセットを頼んだ。ビジネスマンのためのせわしない食堂と違って、ネルドリップでゆっくりと一杯ずつ珈琲を入れてくれる。


「昼休み、間に合うのか?」

「広告主にばったり会って話し込んじゃったって言う。っていうか、裕二がわたしのこと誘ってくれたのって、やっぱりあの話、誰かから聞いたの?」


 由奈は遠慮なくサンドイッチにかぶりつきながら言う。


「あの話って、なんの話?」

「わたしが彼氏と別れたって話。アンタがコロナで休んでる間に」

「悪い、全然知らん」

「それで、わたしと付き合いたくて誘ってくれた」

「全く違う」

「くそう。期待して損した。地球始まって以来、わたしの交際申し出を断った男はアンタだけだから。いつか見返してやろうと思ってる」


 由奈は軽めに拳でどんとテーブルを叩いた。


 弟の好きな女性のタイプを教えてやりたかった。多分、由奈は弟のタイプとは真逆だ。


「で、なんで別れちゃったの?」

「ワクチン打ってないようなバイキン女とはキスできない、って言うんだよ」

「想像の斜め上だな」

「もちろん、もっと婉曲にだけどさ。なんか大事な取引があって、絶対にコロナに罹れなくて、どうも君はワクチンを打っていないらしいから、キスとかはまた今度ウンヌン、って、頭っきたから鞄に入ってたウチのタウン誌投げつけて別れてやった」


 この時期流行っていた表現を使うと、キス等したくない理由はワクチンが原因か因果関係の特定は困難、といったところか。僕は黙ってサンドイッチを食べた。

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!

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