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アフター・ワクチン ――君打ちたもうことなかれ――  作者: 星香典
第二章 死んだはずの弟
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第二章 死んだはずの弟 06

 真っ先に会わなければならないのは海津なのかも知れない。なのに、弟のスマホには海津の連絡先がない。


「兄貴、そう言えば、海津先輩ってどうしてる?」

「あいつ、先月日本に帰ってきて、今も研究三昧みたい。こんど結婚式来てくれる」

「へぇ。懐かしい。楽しみ。ところで、ワクチン打った」


 過去の僕は、裕二の死を受けて渋谷の接種会場で接種してしまっていた。裕二が死んでいないこの世界なら、僕はまだワクチンを打っていないはずだ。


「いや、まだ打ってないけど、予約したよ」

「あっそ。でも、気をつけた方がいいぜ。いろいろヤバい噂聞くし」

「なんだよ、ヤバい噂って」

「長期的には抗体依存性感染増強とかあるけど、短期的にはまず心筋炎とか。海津先輩にも聞いてみなよ。あの人科学者でしょ?」

「でも、海津は脳の研究してるから、ウイルスとか関係ないんじゃないかな。おまえの方こそ、打ったのか?」

「いや、打ってないよ」


 電話の向こうから、困惑のため息が聞こえてくる。


「打った方がいいぞ。罹ったヤツが打つと抗体がものすごい出来るって言うし。抗体カクテル療法とか受けたか?」

「いや、受けてない」

「抗体カクテル療法とか抗体薬を使用したら、少なくとも九十日あけたほういいんだって。ワクチン接種。おまえが罹ったから、いろいろ調べてみた」


 過去の僕は無駄な知識を増やしていた。へぇ、なるほど、などと曖昧な返事をした。


「ま、とにかく、打たない方がいい。手を洗う医者じゃないけど、とにかく、打つな。なんてね」

「おまえは罹って免疫ついたかも知れないけど、こっちは丸腰だし、会社でもまだ打ってないって言うと上司たちヒクからね。難しいわ」

「だよね。わかるよ」


 あの時代を経験した人たちはその気持ちが痛いほど分かる。打たない生きづらさは相当なものだ。どれだけ多くの人が、打ちたくもないワクチンを打ってきたのだろう。


「じゃ、次の日曜な。病み上がりだ。油断するなよ」

「うん。兄貴も気をつけて」


 入院中、免疫学の専門家や反ワクチン活動をしていた数人に、僕の知っている未来のことが役にてばとメールやDMを送った。


 電話を切ったあと、メールを確認してみる。宮川博士から返信が来ていた。宮川博士はワクチン接種法に反対し逮捕。強制接種前日に留置所内で服毒自殺をする。博士はこの時代から警鐘を鳴らし続けていた数少ない学者だった。メールの内容は以下の通りだった。



 メールありがとうございます。2031年のお話、あなたが「信じがたいと思いますが」と書かれた通り信じがたいです。しかし、興味深く拝読しました。なぜなら、その可能性はゼロではないからです。あのワクチンによって免疫系統の一部が損傷し、ドミノ的に免疫系統の崩壊が起これば、十年の内に死に至ることは十分あると考えられます。


 ガルシア長官が陰謀を認めて自殺、とのことですが、私は今回のコロナワクチンが陰謀によって行われているとは考えていません。むしろ、陰謀で行われているのなら、その悪を暴けば解決するので問題は易しい。今回起こっていることは、誰かが企てた陰謀というよりは、集団催眠に近いような気がします。


 ただ、集団催眠といっても完全な催眠状態ではないところがたちが悪い。マスコミの報道、政府の対策、世間の受け止め方、自分自身の対応、これらを何一つ疑わずに、全て違和感なく受け入れている人など、皆無でしょう。皆、今起きていることに違和感を覚え、不審を抱きつつ、狂った平衡感覚を騙し騙し暮らしています。正面から「王様は裸だ!」と叫んだところで、回りの人々は目を背けて裸の王様を見ようとはしない。その結果、王様は服を着ていることになってしまっています。


 合成の誤謬が起きています。一人一人が最適化を求め行動した結果、社会全体がおかしな方向へねじ曲がってしまった。ねじ曲がった方向に合わせて最適化をはかり、余計にねじ曲がってしまった状態です。


 あなたまで無理をして辛い目に合わないようにしてください。皆さんのご期待に応えられるように頑張ります。応援のメールありがとうございました。



 僕はどう博士に返信していいか分からなかった。博士は僕のメールを信じていないだろうが、ワクチンの危険性は信じて疑っていない。僕が伝えられることなどなにもない。博士が死ぬ前に知人に送った手紙の一節を、今もはっきり覚えている。



騙すのは悪いことだ

しかし、明らかな嘘を信じ

真実から目を背け、耳をふさぎ、

破滅へと突き進む人々に

私は同情しない

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