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3話:アミスラ村

「さてと……そういえばエミーリア、巡礼の旅とはどういった物なのだ? あと歩きにくいんだが……」


 草原の中にある小さな道を歩きながら、ミネルヴァは横で嬉しそうに腕に巻き付いてくるエミーリアへと話しかけた。


「神の力を補充しているのです! というのは冗談として、巡礼の旅と言うのは本来であれば、各地にある神々の遺跡や教会を巡るんですけど……最近は破壊が進んでいまして」

「破壊……か」


 致し方ないと思うミネルヴァだった。信仰を捧げても無駄と悟ればそういった施設は必要で無くなるだろう。まあ壊すまでしなくても良いのに、とちょっぴりは思うが。


「愚かですよほんと。仮に信仰出来なくなったとしても、そこにあった文化や技術、営みは否定しちゃダメなんです!」

「そうだな。エミーリアの言う通りだ」


 元、神である自分ですら感心してしまうほどだ。きっと沢山の人々がエミーリアの言葉にこれまで救われてきたのだろう。そうミネルヴァは感じてしまった。


「そんな訳であたしは無事な教会や遺跡があればそれを保護して、壊されていれば別所に小さな祭壇を作って祈りを捧げているんです。それ以外にも、行く先々で困っている人がいれば助けて、まあそのお礼に色々助けられたりしていますね。なんせお金……まったくないので!! すかんぴんです!」


 薄い胸を張って堂々とそういうエミーリアをミネルヴァは微笑ましく、見つめていた。なぜだろうか、全く似ていないのに、幼い頃の妹を見ているかのように錯角してしまった。


「ふむ。信仰を取り戻す旅……といったところか?」

「んーちょっと違いますね。別に、信仰は無くしたって良いんですよ。こういうのって押し付ける物ではなく個々で見いだす物ですから。そのお手伝いをするだけで、特に布教するとかそういうのは考えていません。そもそも、色んな神様がいすぎて統一するのは難しいですしね~」


 ミネルヴァの腕から離れたエミーリアが背の高い草を撫でながら先を歩いて行く。


「確かに。私は戦と都市守護の神だが、それ以外についてはさっぱりだしな」

「ミネルヴァ様は美しさだけで全知全能スーパーミラクルハイパー素敵神なので、全てを凌駕します。布教はしませんが洗脳は順次していくつもりですよ! 語尾はイエス・ミネルヴァ!」

「それだけは止めてくれ……」


 満面の笑みを浮かべるエミーリアは冗談ではなく本気でそう言ってそうで怖いと感じるミネルヴァだった。


「グラウも一緒に! イエス・ミネルヴァ……ってあれ? グラウは?」

「ああ……どうやら天界をこっそり見に行ったみたいだ。向こうの動きも気になるらしい。まあそのうち戻ってくるさ」


 グラウはミミズクであり、梟という概念上、そう言った偵察や聞き耳が得意だった。更に彼は彼なりに色々と危惧しており、どちらかと言えばわりと暢気でのんびり屋なミネルヴァに代わって、そういう危機管理を自分がしっかりとしないといけないと思っているのだ。


「なるほど。便利ですね使い魔!」

「使い魔というより友達だな私の場合は……よく妹に、しつけがなっていないと怒られたが」

「接し方はそれぞれですよ!」

「そうだな。それで、エミーリア。さっきの話の続きだが、当面の目標はどこになる?」

「すぐ近くに、狩猟と月の女神であるアーミス様を奉る古い神殿と村があるそうなんです。そこに行く途中で運悪く帝国騎士に見付かって、ああなった訳です」


 アーミスの教会か……ミネルヴァはアーミスという名前を聞いただけで胸がチクリと痛んだ。実の妹に裏切られたという実感がまだ無く、遅効性の毒のようにじわじわと心の中に広がっているのを彼女は感じていた。


「あの見えている村がそれのはずですよ! まずは帝国騎士がのさばってないか様子見て大丈夫そうなら村長さんに話を聞いて見ましょう。ミネルヴァ様については、とりあえず隠した方が良いですか?」


 エミーリアはミネルヴァの気持ちをくみ取ってそう発言した。


「そうだな。ミネルヴァという名前も隠した方が良いかもしれないな」

「あーどうでしょう? 神の名前を子に付けるのはわりとありふれているので、特に問題ないかと思います。それにちゃんと名前で呼ぶのって大事ですしね。愛称で呼び合いたい気持ちはありますが! それで信仰が歪んでも嫌ですし」

「そうか。ならミネルヴァのままで良い」

「はい! では行きましょうか。全員ミネルヴァ様大好き信仰に鞍替えさせたりますよ!」

「いやそれはしなくていいぞ……」


 ため息をつくミネルヴァと気合い十分といったエミーリアは、狩人の村【アミスラ】に辿り着いたのだった。



☆☆☆

 


「帝国騎士……はいないみたいです あいつらどこ行ったんだろう?」


 村のすぐ横は深い森になっており、その木陰からミネルヴァとエミーリアは村の様子を伺っていた。


「まあ、居ても問題はないが……」

「ですね! 今度こそ天罰を! 神に反した愚かな狼に、死の鉄槌を!」

「いや、死を与えるのは私の仕事ではない……他神の領分を侵すのは良くない」


 自分の冗談に真面目に答えるミネルヴァを見て、エミーリアは思わず笑ってしまう


「ふふふ……ミネルヴァ様は慈悲まで持ちあわせていらっしゃるのですね! メモしとかないと!」

「無用な殺生は私の好むところではない。ただですら血生臭い“戦”という概念を背負っているんだ。せめて私自身は……」

「はい。それは私も同じ気持ちです。では、行きましょうか!」

「ああ」


 エミーリアを先頭にアミスラの村へと入っていく。

 そこは辺境の村としては極々一般的な村であり、狩りで生計を立てている者が多い。その証拠に軒先には獣の肉や皮が干されていた。


 どうやらまだ銃はこの辺りでは普及しておらず弓やボーガンの練習台が置いてあり、子供達が練習している。


「良い村だ。だが、何かに怯えているな」

「ですね。大人達の顔色が悪いです。それにここ……アーミス信仰が盛んだったと聞いていましたが……イコンが一切ないです」


 イコンとはその神を示し象徴であり、また分かりやすい信仰の証である。例えばミネルヴァの場合は槍と盾がイコンなので、それらを組み合わせた小さなレリーフを窓や軒先など、空が見える場所に飾っておくと、自分はミネルヴァに信仰を捧げていますという証拠になる。

 

 そこから考えればアーミスのイコンである、三日月と矢のレリーフがこの村の家々にあってもおかしくはない。


 だが二人がいくら探せども、それらは見当たらない。


「ミネルヴァ様……見て下さい。あの広場の像……ひどい……」


 エミーリアが駆け寄った先には、ちょっとした広場があり、その真ん中に大きな石造りの像があった。しかしそれは地面へと倒されており、周りには炭と化した薪が散乱している。

 像の頭の部分は粉々に砕け、燃やされたのか表面が黒く変色していた。更にミネルヴァが良く見れば、その周りに無数の歪んだイコンが落ちてあった。


「これは……」

「……この村のイコンを全て集め、おそらくアーミス様をかたどった像を破壊し、一緒に燃やしたんでしょう。村人達がこんな事をするとは思えません。きっと……帝国の奴らの仕業です」


 エミーリアが眉間にしわを寄せていた。

 その表情は怒りというより悲しみの感情の方が多いようにミネルヴァには見えた。


「貴女達は……?」


 そんな二人の背後から話しかけてきたのは一人の老人だった。立派な髭を蓄えた白髪の老人で、杖をついているが、その眼光は鋭い。おそらく相当腕の良い弓士だったのだろうとミネルヴァは推測する。


「私はオルデン教会所属、巡礼執行官および聖女指定を受けているエミーリア・グラーツェフです。こちらは私の護衛である【戦神のミネルヴァ】です。貴方はこちらの村の責任者でしょうか?」


 エミーリアの雰囲気ががらりと変わり、ミネルヴァは内心驚いていた。

 更に何やらな自分に肩書きが付いているが……。老人はそれを二つ名か何かだと勘違いして特に自分の正体に気付いている様子はない。ホッとする反面、自分には神の威厳というものがあまりないのかもしれないと少し落ち込むミネルヴァだった。


「いかにも私がこの村の長をしております……まさか聖女様を生きているうちに拝める日が来るとは……ようこそ狩人の村アミスラへ……ですが……少し遅かったようですね」


 村長は深いため息をついて、倒されたアーミス像へと視線を向けた。


「先日帝国騎士団が現れて、安全と平和を引き換えにアーミス信仰を手放せと脅してきました。結果が……これです。ですが、村人に罪はありません。どうか、罰は村長である私だけにお与えください……聖女様、ミネルヴァ様」


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