栗と栗鼠&時々人間。 栗と栗鼠の贈り物。 栗鼠(くりねずみ)、リスと読まないで下さい。
万古: 遠い昔。また、遠い昔から現在まで。永遠。永久。千古。
(出典:『goo国語辞書』)
これは、万古。
万古も万古、かたえつたえる人々のきおくに ぼかしやモザイクがかかるくらい、あいまいになり、あまりの古さに発酵臭がするくらい、万古のお話です。
ある所に、つるぺたなひくい山が二つあり、その山の谷間に白い川がとうとうと流れくだり、それを下ったところに、こんもり盛り上がった つるつるの土手がありました。
そして、ぽかぽか日当たりのよい土手のまん中には亀裂がはしり、割れ目には、ぽっかり小さな穴と大きなあなが二つ開いていました。
ぽっかり開いたほら穴には、人間たちや、しっぽがふさふさのネズミ達が住んでおり、彼らはところどころに生えるクリを頼りにして暮らしていました。
有る時、しっぽのふさふさとしたネズミさんは、どこかでクリをみつけると、せっせとそれを運んでドテに埋めていました。
それを見た人間たちは、自分達の住処近くの 土手にクリを植えることを思いつきました。
人間たちは、ぷってりとして美味しそうなクリを選んでは、それだけを土手に植えていました。
一方のしっぽのふさふさしたネズミさんは、ぷってりした美味しそうなクリだけでなく、しなびた見た目の悪いクリや、色の悪いクリもせっせと運んでは地面に埋めていました。
その姿をみた人間たちは、そのネズミたちをみて思いました。「無駄な事をしている」、と。
そして彼らを あざ笑い、そして、自分達に邪魔になる分は、ネズミたちの埋めた木の実を捨てていました。
しかし、そのネズミたちは、そんな事も気にする様子もなく、形の悪いクリ、色の悪いクリ、果てはチーズの腐ったような激臭のする、誰も食べないようなクリですら、せっせと運び、地面に埋め続けました。
人々は捨てても捨てても、しっぽのふさふさしたネズミたちが、おろかにも変なクリまで埋め続けるその姿を見て、彼らを『くりねずみ』、と、あだ名をつけて あざわらいました。
けれども、くりネズミ達は、そんな事を気にする様子も無く、せっせと いろんなクリを埋め続けていきました。
そして、ながい時間が経ちました。
つるつるの土手は、ひとびとによって埋められたクリによって、もじゃもじゃの栗林になっており、毎年、みのりの秋には、おいしそうなクリの豊かな実りを約束してくれていました。
そのクリのお陰で、大きく広がったほら穴に住む人々や、近くに住むネズミ達は食べ物に困る事はなくなっていました。
しかし、有る年のことです。
熱い夏、日照りがおきてクリの実が殆んどなりませんでした。
更に悪い事は重なるもので、残ったおいしそうなクリにも 悪い虫が付いてしまいました。
人々は思いました。
たよりのクリが全滅した、これでこのムラもおしまい、だと。
みのりの秋になり、だれもが そう思った瞬間、 ごう、とチーズ臭い風がふきぬけていきました。
そして、がらがらがら、と悪臭と共に何かが落ちる音が聞えてきます。
次の瞬間、そこに有ったのは、万古、ネズミたちが埋めていた木の実でした。
それは、地面をドドメ色におおい尽くすほどの凄まじい量で、それ以上に鼻がひん曲がるほどの、ツンと刺激臭のする、見渡す限りのクリ、くり……、まさしく栗のうみでした。
そうです、ネズミたちによって埋められた、臭い木の実が立派に育ち、凄まじいスメルを放つのでどんな悪い虫も付かず、結局、無事だった激臭を放つ形の悪いクリの実が落ちてきたのでした。
そして、ちょこんと悪臭のするクリの山の上にすわり、立派なしっぽをふりふりしながら、クサい木の実を前足でもって、上手にカリカリかじって美味しそうに食事する くりねずみ。
クリとくりねずみを見て人々は思いました。
これはネズミたちの贈り物で、臭いクリでも我慢して食べれば生き延びられる。
これで、自分達は救われた、と。
そして、同時に思いました。
臭かろうが、形が悪かろうがクリはクリ、食べれば一緒。
クリに貴賎なし、とも。
間違っても、リスではありませんからねっ!
――あくまでも、クリネズミです。