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2話 運命には逆らえない




「あ。」




――シュザザザザーッ



 政宗が呟いた瞬間、葉を散らしながら突風と共に佐助が現れた。


「やっぱ佐助は見つけるのが早いな。さすがだわ。」

「いい加減にしてくださいよ!おれ、城3周はしたんですけど!?」

「寧ろ、この時間で3周もしたのかよ。」

「はぁ…――

は?……なんでこんな姫さんおびえてんの…?…あんた、まさか…!?」

 佐助が汚物でも見るかのような視線で政宗を見つめる。

「いや!俺なんもしてないからな!!なぁ!?」

 政宗が無実を主張し、証言を取ろうと徳を振り向くが、徳は先ほどの衝撃が強すぎて固まってしまっており、すぐに反応できない。

(なんで…?確かにここに来ちゃう前は力が暴れちゃったけど、ここに来てからは全く出てなかったはず…。)


 徳が敦賀城に帰って一番に頑張ったのは妖力のコントロールだった。もともと覚醒する前にガラス玉でうんと練習していた甲斐もあって、千代でも徳の居場所が分からなくなるほど力を抑え込むことができるようになったのだ。

(…なんで、どこで気づいたの…?)


「いやいやいや、姫さんが何もなくこんなに固まるわけない!」

「いや、マジだって!なぁ!大谷ちゃん!」

「!?…え?」

「大丈夫!?何されたの!?」

 佐助がしゃがんで心配そうに徳の顔を覗き込む。

「へ…?と…、特に、何も…。」

「本当に?…はぁ、良かった…。」

「だろ!?ってか、よかったって、信用ねぇな…。」

「当たり前じゃないですか。知り合って間もない子を勝手にどっか連れていくなんて。犯罪ですよ。犯罪。」

「犯罪って!ただ体調悪そうだったから連れ出しただけだろ…?」

「……はぁ…。…体調はどう?」

「あ、大丈夫です…。すいません。心配かけちゃって…。」

「姫さんが謝ることじゃないよ。体調がよくなったなら良かった。」

 そう言ってニコッと笑う佐助。心配かけてしまったようだ。徳は申し訳なく感じる。


「…はい。ありがとうございます。」

「体調が良くなったっていうから、城下を案内しようと思ってたんだよ。秀吉様の茶会も終わったし。」

「それなら、俺がするから政宗様帰っていいですよ。」

「はぁ?俺が大谷ちゃんと一緒に行きたいんだけど。」

「いや、むしろ帰ってください。お願いします。」
















◇◇◇◇◇


(――…どうしてこうなったのだろうか…。)


「ここが呉服屋でー、なかなか良い反物そろってるぜ。んで、ここが団子屋なんだけど、店の子が可愛いんだよなー。んで…――。」




 名護屋城の城下町。それはそれは大変賑わっており、普通に見て回るだけなら楽しかっただろう。普通に見て回るなら…。



「きゃー!伊達政宗様よ!」

「はぁ…今日もかっこいい…。」

「一緒にいらっしゃる殿方はどなたなんでしょう…。初めて見るけど、あの方も素敵…。」


「……。あの、二人とも離れてもらってもいいですか?」


 そう。注目度がすごいのだ。なんせ黒髪隻眼のおしゃれなイケメンと、自然派爽やかお兄さん系イケメンに囲まれている。以前佐助と市へ出かけた際は遠巻きに見られているという感じだったが、あれは徳の力がコントロール出来ていなかったため、恐る恐るといった恐怖心を含んだ視線だった。しかし、今回は種類が違う。色が付いた視線だ。それに加え、政宗、佐助、二人を見た後の女子らが徳を見た時の視線といったら…


(物騒。…ヤバイよ。めちゃくちゃ視線が物騒。

これに信繁様が加わりでもしたら…――)



「キャーッ!!!信繁様だわ!」

「お顔を隠さずに城下にいらっしゃるなんて!今日はなんて良い日なの!」

「ほら!みんな!早く外にっ!」

「待って、隣に居る女はだれ!?」





「……。」

(なに…?今日は厄日なの…?)




 もはや悲鳴に近い歓声を生み出しながら前方からやってくるのは信繁と、焦茶色の髪の少女。周りの女性陣の声が聞こえないのか、気にした様子もなく少女はかわいらしい無垢な笑顔で、元気に信繁に話をし、信繁も穏やかな顔で話を聞いている。


「へー、珍しいことは二度もあるんだな。あんなに緩みきってる信繁初めて見るわ。」

「……。」


 城下町を楽しそうに歩く2人は、まさしく『戦国恋記』で寄り添うように抱き合っていた2人そのものだ。幸村の謎は解けてはいないが、きっと信繁がその名に反応したということは、信繁で間違い無いのだろう。

(……やっぱり、小説の内容は変わらない、…か。)


 ズキリと胸が痛んだ気がしたが、徳は気づかないふりをして、自身に言い聞かせる。

(大丈夫。家族が出来たんだ。それだけで十分じゃない。…欲張っちゃいけない。大事なことを見失ってはいけない…。真田幸村に出会った私がやるべきこと。それは―――)


「…悪役令嬢にはならない…。」

「ん?姫さんなんか言った?」

「え!?いや、なんにも!」

「…そう?…おーい!主様ー!鈴ー!」

 佐助が信繁と少女に声をかける。二人は気づいたようで少女がこちらに笑顔で両手を振っている。


 その様子を見ていると政宗がふらっと近づき、徳へ耳打ちした。

「…気をつけろよ。若干出てるぞ、妖力…。」

「…っ!?」

 徳は焦って力を抑え込むが、出てたのか自身でも分からないほどの微かな量だった。しかし、気づく人には気づくのだろう。

「…ありがとう、ございます…。」

「いえいえ。」

「――うわぁ!」

 急に腕を引かれ、徳は変な声を出してしまう。


「おいおい。女の子に乱暴なんじゃないか?」

「あなたが近すぎるからでしょう。」

「別にいいじゃん、ちょっと近づくぐらい…。」

 腕を引いたのは信繁だった。いつの間にかこんなに近くまで来ていたのか。信繁と少女は3人の目の前にいた。


「…幸村さ、あ、…信繁様…、こちらの方は…?」

 少女が信繁の名前を言い換える。やはり信繁のことを幸村と呼んでいるようだ。信繁は一瞬鈴を見て、徳を見つめた。目が合うが、徳は居心地が悪く感じすぐにそらしてしまう。


「…大谷の姫、この子は俺の幼馴染の鈴だ。名護屋城の炊事担当として配属されたようだ。」

「え!?ひ、姫さま…!?も、申し訳ございません。鈴と申します。」

 信繁が紹介すると、なんと鈴は道端で跪き徳へ深々と頭を下げだした。

「ちょ!ちょっと、やめてください!」

 徳は焦り自身も地べたに膝を着き鈴を起こそうとする。

「そんな!姫様!汚いのでお立ちください!」

「いやいや!あなたもじゃあ立ってください!」

 鈴の腕を引っ張り徳は立たせようとするが、鈴はどうすれば良いの分からない様子であわあわと対応に困っている。すると、見かねた信繁が反対側の手を引き鈴を立ち上がらせた。


「鈴。大谷の姫が困っている…。」

「え!?ご、ごめんなさい…。私、お姫様とかお偉いさまと会ったことが今までなくって、どう対応すればいいのか…。」

「おい。俺だって大谷の姫と立場的には同じだ。」

「あ!ごめんなさい!そうなんだけど、だって、幸村さんは私に嘘ついてたじゃないですか…!」

 そう言って仲良さげに会話を始める信繁と鈴。会話をしながら信繁は鈴の小袖に付いた土を払ってあげている。

 徳はぼーっと二人の様子を無心で見ることしかできない。


(――小説通り、きっとこの2人は結ばれる。…私は邪魔者なんだ。

 私には守らなきゃならない家族や、妖たちがいる…。…悪役令嬢にならないためにも、私はこの二人の恋を応援しなくちゃ…。婚姻しても、二人の絆が壊れないように…。立場をわきまえる…。)


 徳が気持ちと頭を整理している間に信繁と鈴のいちゃつきは終わったようだ。信繁が鈴に向き直って徳を紹介しだす。


「…この方は越前国えちぜんのくに、大谷吉継殿の娘の大谷徳姫だ。俺の婚…――」

「ちょっ!ちょっ、ちょっと待ってください!信繁様!」


(――あっぶな!!え?今、言おうとしたよね?普通恋人(?)にこんなあっさり婚約者紹介する?いや、まだ付き合ってないのかな?それにしても…!)


 さらっと普通に徳を婚約者だと紹介しようとする信繁に、徳はどっと冷や汗が出た。徳は鈴をチラッと横目で見る。鈴の信繁を見る目は明らかに恋する乙女だ。信繁も信繁で鈴を見るときは目が柔らかくなる。どう見ても両想い。そんな中、婚約者が割って入る形で新登場というのは…。


(――完璧にアウト!これじゃあ、悪役令嬢ポジションまっしぐらじゃん…!!伝えるにしても、鈴ちゃんと信頼関係作ってからじゃなきゃ…!)



「ちょ、ちょっと信繁様借りますねー。」

 徳は鈴に一声かけ、信繁の手を引き皆のいる場所から離れた。


「信繁様、婚約していることは、今は伏せましょうっ!」

「…?なぜ?」

「なぜも糞もありません!これは重要なことです!」

「…っ。」

 姫としてこちらも完璧アウトな言葉づかいで徳は信繁に訴える。信繁は徳の勢いに押されて何も言えない。


「いいですね!お願いします!」

 徳が信繁に迫る勢いでお願いすると、信繁がのけぞる。視線を右往左往にしており、困った表情の信繁は珍しい。今朝信繁に見つめられ戸惑っていた徳と今度は立場が逆転している。

「わ、分かった。分かったからこれ以上近づかないでくれ。」

 両手を胸の位置まで上げ、降参ポーズをする信繁。徳はピーンときた。


(あっ!こんなに近づいたら鈴ちゃんに勘違いされちゃう!)


「ごめんなさい!」

「い、いや…。」

 徳は信繁から少し離れて、気持ちを落ち着ける。信繁はほっとした表情で気まずげだ。

「とりあえず、お願いしますね!」

「…分かった…。」









「…徳姫様と、幸村さんって仲がよろしいんですね。」

「まーね。なんだかんだ一緒にいた時間より、離れてた時間の方が長いんだけど、仲いいよねー。」

「…そうなんですね。」

 二人のやり取りを離れた位置から見ていた鈴が佐助に話しかけた。視線は二人にくぎ付けだ。それから鈴は、二人が戻ってくるまで何も発しなかった――。








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