表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/83

忍と人質と忘れ草(1)

ちょっと残酷な描写があります。読まなくても本章には差支え無いので、苦手な方はスキップしていただいても大丈夫です。

 木と木を飛ぶように走る少年。スキップのような軽やかな足取りで枝を蹴ると、小さな集落が目の前に広がった。



「佐助!今回もやったな!」

「ありがとー!」



 少年を見つけると大人たちが笑顔で褒めたたえるが、それを軽く流し少年は自宅へ走って帰る。

 大人たちからのお褒めの言葉よりもほしい言葉が佐助にはあった。




「千代!ただいま!!」

「さすけ兄さまー!!おかえりなさい!!」


 玄関を開けると、すべての部屋を見渡せるこじんまりとした家。部屋の中央に置いている小さな机でお絵描き中だった千代が、玄関を振り向いて満面の笑みで走ってきた。小さな身体でぎゅっと抱き着いてくる7つも離れた小さな妹。この妹だけが佐助にとっての唯一の生きがいだった。


「一週間なにしてたの?」

「ちよは、亀おばちゃんにしゅりけんとくない教えてもらいました!」

「えー、危なくない?」

「だめです!さすけ兄さまは、わたしと同じ歳でもっともっといろんなことできてました!」

「誰に聞いたのさ、それ。」

 佐助と千代には両親は居ない。甲賀の里はほとんどの忍びが主人を見つけると里から抜ける。そのまま帰ってこない者もいれば、何年後かに帰ってきて家族を作ってまた里からいなくなる者もいた。それでも甲賀忍者は数が減らないのは、暗黙のルールがあるのか子どもの佐助には分からないが、伊賀同様、里の運営は順調みたいだ。

 ちなみに、佐助と千代の両親は任務中の殉死だった。佐助は仕事でのことだからしょうがないし、寂しいと思わなかった。それもこれも、千代がいるからだとは佐助自身自覚している。


 佐助は甲賀でも鬼才を放っていた。チャクラ量も大人顔負けで里一番を誇っていたし、それより優れていたのはコントロール力の性格さだ。

 チャクラ量が多いにも関わらずチャクラの微量なコントロールを器用にこなし、同年代とは比べようにならないほど可能な術の数を増やしていた。だからこそ、佐助は本来なら10歳で大人と組んで仕事デビューを果たすはずが、5歳では仕事を始めていたし、6歳になると一人で任務をこなしていた。

 しかし、佐助は誰か一人の主を決めることなど毛頭なかった。それもこれも千代と一緒にいるため。佐助が欲しいと大金を示して里を訪れるお偉い様方は度々訪れたが、佐助は毎回それを蹴って、一回一回の依頼のみに限って受けた。こつこつ任務をこなしてお金を稼ぎ、このまま千代と一緒に暮らす日々が続いていくんだとあの時まで佐助自身疑わなかった。






「大きな依頼…、ですか?」

「あぁ…。」

「…?」


 その日に限って、里の長が依頼を頼むのを渋っていたのを佐助は覚えている。


 何をそんなに悩んでいるのかと依頼内容を確認すると、ある武将からの里一つ、丸々誰にも気づかれないように消してほしいという残酷な依頼だった。

 今まで暗殺の依頼をこなしたことはもちろんあったが、たいてい対象は一人、ないしは二人。里一つとなると大量の人を殺めることとなる。しかし、佐助はこの依頼の何が問題で長がそんなに渋っているのか理解できなかった。


「誰にも気づかれないようにでしょ?夜に一気にやっちゃえばいいんじゃないです?」

「いや、そうなんだが…。無理にとは言わん。」

「なんで?それぐらい出来るよ。誰か厄介な奴でもこの里にいるんですか?」

「そういうわけではないんだが…。」

「…?俺宛の依頼でしょ?別に問題ないですよ。」


 この時佐助はこの依頼を甘く見ていた。自分の力に自身はあったし、報酬量も多い。この依頼を受けると、しばらくは仕事をしないで千代と一緒に居られるかなと楽観的でもあった。



「千代、いい子にしててね。」

「はい!さすけ兄さま!いってらっしゃいませ!」

「亀おばちゃんの言うこと、ちゃんと聞くんだよ。」

「もちろんです!」


 依頼に行くときの毎回の言葉だ。千代とぎゅっと抱擁を交わし、隣近所の亀おばちゃんへ千代を預ける。


「今回の依頼も遠いから、大体一二週間ぐらいかかるかもしれないんですが…。」

「いいのよ、そんなこと気にしないで!千代ちゃんのことは私に任せて行ってらっしゃい。あんたも気をつけなさいよ。」

「はい。」


 亀おばちゃんへのあいさつも毎回のことだし、亀おばちゃんに気を付けてって言われるのもいつものことだ。その日もいつも通り佐助は里を離れた。



 依頼の場所には意外と早く着いた。その日のうちに里をぐるっと回って逃げ切れる場所や隠れきれそうな場所を洗い出す。また、里を見張って人数を把握する。出入りの少ない里の様で、それも数日で把握できた。あとは決行の日を決めるだけ。丁度今日は有明月。新月になる明日の晩なら人目に付く可能性も減るだろう。佐助は早く仕事を終わらそうと着々と計画を練った。誰一人残さないようにするために。




 翌晩、佐助は里の屋根の上に居た。人々が寝静まった子の刻。里の家一つ一つを回って心臓に向かて苦無を一人ずつ丁寧に投げる。命中率は100%だ。苦しまずに死ねる一番の良い方法だと思い佐助はそれを選んだ。チャクラなど使う必要はない。一人ずつ、丁寧に。


 あと数軒というところで背後で物音がした。

 新月であるため、明かりはほとんどない。佐助は夜目が利くが、忍ではない一般の人だとどうだろうか。そういえば、佐助は一般の人との交流など無論なかった。





「あなた、誰?」

「…っ!?」


 屋根の上に居る佐助を眺め、不思議そうにしているのは幼い女の子だった。

「厠に行きたいのに、母さまもと父さまも起きないの。早くしないともれちゃうよ…。」


 もじもじと早く厠へ行きたいと訴える5才ぐらいの少女。しっかりと目が合っている。少女は佐助を認識していた。

 今殺した男女の家から出てきたようだ。佐助は見落としたのか?と疑問に思い苦無を懐から取り出した。


「お兄ちゃん、なんで屋根の上に居るの?…あのね、いっしょに厠に行ってくれる…?」

「!?」





『――さすけ兄さま、怖いからいっしょについてきてくれる?』






 それまで殺めなければと依頼内容だけが頭にあった佐助に、千代の顔がちらついた。少女が千代と重なる。急に心臓がうるさく拍動し、胸が苦しくなる。


「…?おにいちゃ――」


 佐助は聞きたくないとばかりに少女に向かって苦無を飛ばした。



 それからが佐助にとっては戦だった。

 女の子の声が聞こえたため外に出てきたのであろう。人に見つかり、声をあげられ、里の人々が起きだした。

 ――人々と言ってももう半数以上はこと切れているのだが。


 佐助はそれからのことをはっきり覚えていない。命乞いをされた気がする。子どもだけはと言われた気がする。何人も千代と同じ年齢の子へ刃を向けたきがする。

 佐助は、気づけば里が静かになっており、全身が血まみれになっていた。



 今日は新月だ。明かりはない。しかし、佐助には自身についている返り血だけが鮮明に見えた。


























「――ねえ、あんた大丈夫?」


 いつからここに居たのか分からない。あれからどれだけの時間が経ったのかも分からない。佐助は急に声をかけられ視線をあげると、目の前にきれいな身なりの少年が佐助をじーっと見ていた。


 同じ年か、それとも佐助よりも年下か、それぐらいの年齢の少年だ。周りを見ると森の様だ。鳥居が見える。背にしていたのは小さな祠。


「で、大丈夫か?」

「…俺の血じゃない。」

「だろうな。そうじゃなくて…―。」

「っほっといてくれ!」

 身なりがきれいで顔も整っている美少年。どうせどっかのお偉いさまの息子だろうと、存在自体に腹が立ってきた。

「でも、あんた、三日ぐらいここでぼーっとしてる。」

「…。(そうなんだ、あれから三日か…。いや、もっと経っているのかもしれないな…。)」

「――で、だ。」

 そういうと少年は濡れた手拭いで佐助の顔をごしごし拭きだした。

「なっ!なにすんだよ!」

「汚いだろう。そのままじゃ。怖いし。」

「余計なお世話だっ!」

 手ぬぐいの生地は佐助が今まで触ってきたものとは比べ物にならないほど上品な肌触りだ。それにもなぜだか佐助は悔しくなって涙が出そうになる。




ぐぅーーー



 

「…っ!」


 ばたばたと暴れたためであろう。佐助のおなかが大きく鳴った。今度は羞恥でいたたまれなくなり、その場から離れようとすると、目の前の少年が笹の葉でくるんだ何かを突き出してきた。


「ほら。」

「…は…?」

「あんたずっと飲まず食わずだろう?さっきから腹の虫が鳴りまくってるぞ。水も持ってきた。」

 そう言って瓢箪(ひょうたん)も帯紐から外しだす少年に佐助は意味が分からなくなった。

「…は?」

「さっきから、は?しか言ってないぞ。」

「いや、だってそうだろう!あんた何考えてんの?」

「何って、何?」

 本当に意味が分からなさそうに小首をかしげる少年に佐助は混乱する。

 他人の返り血で血まみれで、3日間同じ場所に座り込んでたやつに飯を与えるなんて普通じゃない。

(…もしかして、依頼が失敗して、俺を殺しに来たとか…)



「もしかして、毒でも入ってるんじゃと思ってるのか?」


「!?」

 思考を読まれて焦る佐助をよそに瓢箪(ひょうたん)の栓を抜き、口をつけずに水を飲み、笹の葉で包まれた2つの大きなおにぎりを両方かじりだした。

「俺がかじってしまったが、まぁ、喰え。」

 もぐもぐ食べながらしゃべる少年。人が食べているのを見ると一気に空腹を自覚する。


「ほら。」

「…。」

 佐助は少年が再び突き出したおにぎりを受け取り、大きな口でかじった。

 自身が思ったよりもお腹がすいていたみたいだ。両親が死んだときも泣かなかったのに、この時ばかりはなぜか佐助は涙が止まらなかった。

 なんてことない薄めの塩味のおにぎりだったが、とてもおいしく思えたのも悔しかった。

 


 春風が木々を揺らす。気づかぬうちに色褪せて見えていた景色に色がつき、気づかぬうちに失っていた自然の音が聞こえだした。

 

 息吹を知らせる春の音。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ