30話 力の覚醒
信繁と佐助、千代と、なぜかついてきた才蔵は、人ではありえない速さで屋根から屋根、木から木へと移動していた。
「千代殿、その天狗の神木とやらが何処にあるか分かるか?」
「申し訳ございませぬ…、そこまでは…。」
「そうか。…愛宕山に着いたら力を探ろう。…それよりも、大谷の姫の力が爆発したようにも感じたが…?」
「…!…そ、それが、前回徳様が消えてしまった際も、同じように力が弾けた様に暴発したのです…。」
「……だが、本人は何も意図していなかったと…。」
「はい…おそらく…。」
「二郎坊の件は?神木に何かがあったから苦しみだしたって感じ?」
「千代にはその様に見えました…。あと、その神木を守っていた太郎坊にも何かあったのではないかと…。」
速度を上げながらも4人は情報整理を行う。
「で?姫様のことで気になることって?」
才蔵の質問に信繁は足は止めずに才蔵をチラッと横目で見た後、正面を見据えた。
「千代殿は大谷の姫の出生について話を聞いたことはあるか?」
「へ?徳様のご出生ですか…?」
「あぁ。それと母君についてだな。」
思いもよらない話題に千代は戸惑うも、信繁の表情は真剣そのものである。千代は一瞬佐助を覗き見、再び信繁へ視線を戻した。
「…徳様の母君は平民出身でして、吉継様と大恋愛の末結ばれたとお聞きしています。…それに、母君は子どもが出来ぬ体質でしたが、奇跡的に徳様を身籠ることが出来、無事ご出産なされたと。しかし、母君は徳様が3歳を迎えた際に故郷に戻られてしまったと…。…あの、…それが何か…?」
「…妖たちが敦賀城で働くようになったのは吉継殿の代になってからだと言っていたな。」
「はい?」
「……阿部吉明は若くも、なぜ陰陽師の頂点を担っているのかというと、妖退治の実力の上だそうだ。」
「??」
信繁の突拍子のない話題転換に、ついに千代は戸惑いを隠せなくなった。再び佐助を覗くが、佐助は信繁が言わんとしていることを分かっているのか、疑問に思っていないようだ。千代は再び視線を信繁へと戻す。
「吉明は祈祷や占術には長けていないものの、呪術が抜きんでて優れているらしい。」
「…呪術…?」
「あぁ。攻撃系の技術が優れていて、今までも随分と妖を排除してきたみたいだな。」
「…。」
「それに…、二郎坊が動けなくなったと言っていただろう?」
「あー。そんなことも言ってたな、あいつ…。」
「……吉明は、妖と瞳を交えることで、妖の動きを止めることが出来るらしい…。」
「はぁ?陰陽師ってそんなことも出来んのかよ?そもそも陰陽道ってチャクラ使ってんの?」
「陰陽道自体が口伝での伝承故、詳しくは分からないが、その技を使えるのは吉明だけの様だ。」
「それで、さっきの話に戻るが…。」
信繁は千代を振り返り、視線を交える。
「――…大谷の姫が、妖と人との混血児だという話は聞いたことあるか?」
「はぁ、はぁ…。」
体力自慢の徳でも、さすがに子ども一人と刀を持っての森の移動はきつかった。
(…とりあえず逃げてるけど、そもそもこれって遭難してんじゃ…!?)
やみくもに走っていた徳は、後ろから吉明達が追いかけてこないことを確認し、足を止める。
辺りを見渡すも木 木 木。空を見上げても茂っている葉によって太陽の正確な位置が分からない。
(…こういうときって、登るんじゃなくて下るんだっけ…。 )
相変わらず二郎坊は目覚めず、顔色が悪いままだ。徳はぎゅっと二郎坊を抱きなおす。
(私が守らなきゃ…。何とかして、あいつらから逃げ切らなきゃ…。)
徳は、少し薄暗い森を注意深く眺め、方角を決める。
「…とりあえず、ここからまっすぐ下ろう…。」
――ひゅんっ――
微かな音に気づき、徳は刀を振るう。
飛んできた弓を切り落としたようだ。
「…憎いほど見事ですね。この僕の弓を真っ二つにするとは…。」
「…あなたたちのおかげで神経が鋭くなってるみたいで…。」
冷静を装って返事をするも、徳も自身の身のこなしに驚いていた。
(…私って、こんなに刀使えたっけ…。)
剣道の授業で竹刀を手にしたこともあったが、ここまで俊敏に動けた記憶はなかった。
(…まぁ、今はありがたい…。あいつの弓はあと二本……。あれ…?吉明がいない…――)
「――臨…」
「…!」
姿は見えないが、森に吉明の声が響くと、光の棒が徳の真横の地に突き刺さった。徳は藤四郎を警戒しつつ辺りを見回すが、吉明の姿は見えない。
「兵」
声と共にさらに光の棒が降ってくる。
「闘」
「…なに…?」
嫌な予感がして、徳の頬を冷や汗が流れる。吉明の言葉と共に光の棒が増える。
「者」
――ひゅんっ
「皆」
――ひゅんっ
「陣」
――ひゅんっ
「列」
――ひゅんっ
「――在…」
「…!?」
その言葉を聞いた瞬間、徳の周りの光の棒がお互いをつなぐように光りだし、徳は格子状の箱に囲まれた。
それと同時に草木を踏みしめ、中指と人差し指を立てた姿の吉明が現れた。
「…悪いな女子よ。私は気が長くないのだ。そなたの追いかけっこに付き合ってられん。…天狗の長のために取っていた力だが、そなたらに使ってやろう。」
「…な、なに、これ…?」
「その格子に触れると人間とて、そこから砕け散る。――なに、痛みは一瞬。すぐに閻魔のところへ導かれよう。」
「…!」
「…前…――」
中指と人差し指を立てた右手を横に切り、吉明が術を唱える。
その瞬間ひときわ格子が赤く輝き、光を放ちながら徳らを潰すように格子が迫った。
「…!っダメ!」
徳は二郎坊を守ろうと強く抱きしめる―――
―――パァッ―――
しかし、一向に痛みは来ず、それどころかなぜか徳は身体の中でどくどくと今まで堰き止められていたものが流れるような感覚に陥る。
ぎゅっと目を瞑っていた徳の腕の中で、二郎坊がもぞもぞと動き出した。
「と、徳…!」
「…!?」
二郎坊の発言に徳が目を開けると、なぜか先ほどの格子はなくなっており、あろうことか徳自身が発光していたのだ。
「…へっ!?な、なにこれ…!」
「うっ…、ありがとう徳…。徳のおかげで…、少し、動けるようになってきた…。」
「え?何?…とりあえず、二郎ちゃん、無理しないで!」
胸の中で徳から離れようとする二郎坊を再びぎゅっと抱きしめ、徳は吉明を睨みつける。
「…っ、吉明さんの九字切りを破いた…!?」
「……女…、そなたその力…。」
「…?」
(力…?そういえば、さっきから何かどくどくと脈打ってる…。)
「…はは、…はははははっ!!!」
「…っ!?」
急に吉明が天を仰いで笑いしだした。その光景があまりに不気味で徳は固唾をのむ。
「――はぁ。…女。うまいこと人間に化けたな…。」
「…はい?」
「…これでそなたを始末する真っ当な理由が出来た――。」
「…なぁ、妖よ。」
天を仰ぎ、片手で目を覆っていた吉明が徳を見据えた。
瞳と瞳が交わる。
「…!?」
その瞬間、指の間から覗いていた吉明の瞳が赤く染まり、―――徳の身体が動かなくなった。




