侯爵令嬢は乙女ゲームの結末に納得がいかない
目を覚ました私のの視界に最初に飛び込んできたのは、見慣れた自室のベッドの天蓋だった。
どうやら気絶した後、誰かが部屋まで運んでくれたらしい。
もそもそと起き上がり、ベッドの上から部屋の中を見回し誰もいないことを確認して頬を抓る。
「痛い・・・」
ということは、夢じゃなく現実ということだ。
「マジか。マジかぁ・・・」
そのまま頭を抱えて、ベッドにダイブする。フカフカの枕に、ホッコリしかけるが現実逃避している場合ではない。
なんてったってここはスイ☆パラの世界で、しかも私はよりによって悪役令嬢のマリアベルなのだ。
「スイーツ☆パラダイス」略して、スイ☆パラは前世の私がプレイしていた乙女ゲームだ。
ヒロインは国外との貿易で最近力をつけてきた新興男爵家の娘で、お菓子作りが得意なスイーツ女子。
手作りお菓子で攻略対象の男どもの胃袋と共にハートも鷲掴みにし、イケメン達とスイートな展開を繰り広げる。
攻略対象達との恋愛パートもこのゲームの人気の一つだったが、多くのユーザー達がのめり込んだのがスイーツショップの経営パート。
外国との貿易を通じて入手したカカオやコーヒー豆を使って、新しいスイーツを開発し、コーヒーショップや洋菓子店を経営していく。
最初は自領の領都の一店舗からのスタートだが、経営が上手く行けば店舗数を増やすことが出来、王都や他領にもショップをオープンすることが出来る。
領地のレベルが上がれば新しい素材を入手出来、ヒロインのレベルが上がると新しいスイーツの開発が可能になる。
シーズンごとに変わる流行に合わせて、ショップのメニューを変更したり、内装を変更しながら店舗数を増やして成り上がっていくパートだ。
このスイーツショップの経営パート、細部まで非常に良く作り込まれており、恋愛パートそっちのけでやり込むユーザーが沢山いたとか。
攻略対象の誰とも恋愛関係にならず、出店店舗数が100を越えると専用のエンディングが発生する。
前世の私は各攻略対象の個別エンディングを見終わり、この専用エンディングを見る為にスイーツショップ経営パートをやり込んでいる最中だった。
で、肝心のマリアベルはというと攻略対象の一人、第二王子の婚約者として登場する。
初めのうちは第二王子と親しくするヒロインに嫌味を言う程度だったが、嫌がらせはだんだんエスカレートしていく。
最終的には王宮の夜会の場でこれまでのヒロインへの悪事を国中の貴族達の前で暴露され婚約破棄される。
他の攻略対象のルートでもマリアベルは悪役令嬢として登場し、ヒロインへ様々な嫌がらせをした挙句に断罪されるというシナリオだ。
エンディングでは、マリアベルは一家諸共没落したとだけで詳細は明かされなかったが、没落した生粋のお貴族様の末路など録なものでは無いだろう。
そもそも、格下の男爵家の令嬢を虐めた位で没落とかおかしくない!?
マリアベルは確かにヒロインへ嫌がらせをしたが、家が没落するほどの過激なものは無かった筈だ。
乙女ゲームのご都合主義と言われてしまえばそれまでだが、何の因果か悪役令嬢マリアベルに生まれ変わった私にはゲームだからで済ませられる問題ではない。
何としてでも没落エンドを回避せねば!