この手で紡ぐ未来
よろしくお願いします。
これにて『手当ての達人~幸せをつかみ取れ~』第1部は完結となります。
約2ヶ月の間、お付き合い頂きありがとうございました。
杖も卵も失って呆然としている魔王に、俺は一歩近づく。
「なあ、魔王」
「や、やめろ。来るな!!」
最初の威厳はどこへやら、怯える表情を隠そうともしない魔王。
いや、正確には魔王役、なんだろうな。
「ひとつ聞くが、お前はこの世界に来てから何回トイレに行った?」
「はぁ!?そんなの数えてる訳な……あれ?」
「この世界では死体は消えたりしないし復活も出来ないし、セーブもログアウトも出来ないぞ」
「ちょっ嘘だろ。冗談きついぜ!?」
「冗談だと思うならログアウトして見せてくれ」
「……は、なんだよこれ。何でメニューが出てこないんだよ。
強制ログアウトは!?っ反応しない」
やっぱりな。
言動がいちいち役者くさいって感じてたんだ。
きっとこの世界に来た時の俺と同じで、ゲームの中に迷い込んだと錯覚していたんだろう。
そして勇者ではなく、魔王キャラに抜擢されたので、キャラを演じきっていたと。
俺の場合は幸い、直ぐに異変に気付けたけど、こいつは気付かせてくれる奴がいなかったんだな。
「どうする?今の俺ならお前を元の世界に送り返す……ログアウトさせることも出来るぞ」
「そうなのか! 頼む、いや、お願いします。俺をログアウトさせてください!!」
そう言って縋り付いてくる魔王。
「はぁ、分かった。じゃあ元居た場所を出来るだけ具体的にイメージしてくれ」
「ああ。……って、ばーか。こういうゲームはボスを倒してクリアすればログアウト出来るんだよ!!」
俺のズボンのすそを掴んだ手に魔力を篭め始める魔王。
「俺の特殊スキル『死滅』でぶち殺ぶぎゃっ」
「あ~あ」
馬鹿なことを言い出すから、頭に当てようとした手でそのまま叩き潰してしまった。
まあいっか。ご愁傷様。
魔王の最期としてはどうなんだって言いたくなるけどな。
さて、魔王の死体を放り捨てて、残った魔物たちに向き直る。
「見ての通り、魔王は死んだ。
お前達が戦う理由も無くなったと思うんだが、魔界に帰っては貰えないか」
「ふむ、確かに戦う理由の半分は無くなった。
だが残念だがその提案は受け入れられない。
なぜなら、すでに魔界に我々の帰る場所など残っては居ないからだ。
我らはこの地にて住処を作るしかない」
そう答えたのは、ドラキュラっぽい外見の魔物。
人の言葉を話せるやつが代表してくれたみたいだな。
「つまり、住処があればいいんだな。分かった、何とかしよう。
その代わりと言っては何だが、城の反対側にいる魔物たちにも声を掛けて、戦闘を中断させてくれ」
「ほう、出来るんだな。
分かった、手分けして声を掛けてくることにしよう。
おい、先に行って止めてきてくれ。
俺はこいつが本当に住処を用意できるのか確認してから行く」
「わかった」「グゴガガゴ!」
ドラキュラの言葉に呼応して他の魔物が城の反対側へと走っていく。
あ、結界を解除してやらないと。
「で、どうやって俺達の住処を用意してくれるんだ?
言っておくが、俺達の中にはある程度、瘴気が濃い空間でないと満足に生きてはいけない者もいるぞ」
「ああ、分かってる。ちょっと待ってくれ。知り合いに声を掛けるから」
そう断って俺は念話で彼に連絡を取り付ける。
『ジョスタ、聞こえる?』
『あ、はい。その声はジンさんですね』
『ああ、早速本題で悪いが、ダンジョンを一つ作ってくれないか』
『うーむ、いくらジンさんの頼みでも、それは難しいっす。ダンジョンもただじゃないんすよ』
『そうなのか。いまならこっちで、魔王城と魔物を提供できるが』
『……マジっすか』
お、興味を持ってくれたな。
『今なら更に魔界へのゲートも付けよう』
『乗った!!』
『よし、場所はジョスタがこの世界に来た場所分かるよな。
その近くに魔界へのゲートがあるから、そこに魔王城を用意しておく』
『了解っす』
念話を切ってドラキュラに向き直る。
「よし、こっちは無事に話が纏まったぞ。
魔界ゲートがあるところにダンジョンを造るから、そこを皆の住処にしてくれ」
「なるほど。確かにそれなら広さも瘴気も申し分ないな」
「後は俺がこの魔王城を運ぶだけだな」
「はぁ?」
ドラキュラの頭に???が浮かんでいるが、まあ、見たほうが早いだろう。
俺は魔法陣を展開して魔王城をすっぽり包み込んだ。
そして城ごとその領域をアイテム空間に入れてしまう。
後にはまっさらな荒野が残った。
「おー、向こう側の様子が良く見えるな」
「あの魔王城を一瞬で消すとは、勇者の力とは恐ろしいものだな」
「勇者代行な」
お、向こうも突然魔王城が消えたことに驚いて戦いの手が完全に止まったな。
それがきっかけになって魔物全体が北の魔界ゲートへ向けて移動を開始した。
俺はそれを見届けて、一足先に魔界ゲートへと向かう。
「フレイさん、皆、ご苦労様。
魔王は無事に倒したし、このゲートの蓋になるものも持ってきたから、もう解散して大丈夫です。
今回はありがとうございました!」
ゲートを監視してくれていたフレイさん達に礼を言って竜の山に戻ってもらう。
あ、フレイさんとレンは最後まで見届ける為に残ってくるみたいだ。
そして、アイテム空間に入れた魔王城をゲートの上に被せる様に置いた。
よし、これで後はジョスタがダンジョン化してくれれば無事解決だな。
俺はフレイさんとレンを連れて飛行魔法でみんなのところに戻ることにした。
途中、魔界ゲートに向けて移動する魔物の団体とすれ違った。
彼らもこれで少しは落ち着いて暮らせるだろう。
魔王城のあった荒野に戻ると、エリーとバカウマを始め、この世界に来てから出会った人達が待っていてくれた。
「ジン殿。魔王討伐に魔物たちの送還にと大活躍でしたな」
「ジン様はやはり、私達の救世主様です」
「おう、ジン。海の一族から伝言だ。今回は陸地で間に合いそうもないが、今度お祝いの品を持ってくるってよ」
「師匠。あの巨大な城を一瞬で消し飛ばしてしまうなんて流石すぎです!」
「ヒヒィーン!(旦那ならやってくれると信じてたっす)」
そうやって銘銘に声を掛けてくれる。
こうしてみると、本当に多くの人達に出会ってきたんだな。
「みんな来てくれてありがとう。
本来ならもっと魔王に会うまでに苦戦していたはずだから、みんなが魔物たちを引き付けてくれて助かったよ」
「それはもう、私たちは皆、ジン様に救われた者たちですから」
「魔王が勇者って言った瞬間、ジン様しか居ないって確信しました」
「少しでもジン様の力になりたかったんです」
「……そうだジン。お前ここに国でも興したらどうだ。
お誂え向きに整地された場所があるし、お前が言えばここに居る全員が手を貸してくれるだろう」
そのホックさんの言葉を聞いて、みんな一様に頷いている。
でもな、俺は王様って柄じゃないんだよな。
どうしようかと思って皆の顔を見て、ひとつひらめいた。
「それなら、国ではなく、学校を作るってのはどうだろうか」
「学校、ですか」
「そう。これだけ多種多様な種族の皆が居るんだから、皆で手を取り合って、
それぞれの得意なことを教えたり、各種族の考え方や価値観を共有できる場があれば良いなと思ったんだ。
そうすれば、以前あったエルフを迫害する問題も起きなくなるし、炎妖族を魔物と間違えることもなくなる。
それに皆も気付いていると思うけど、以前より世界の魔素や瘴気の濃度が濃くなっている。
これから魔物の活性化やダンジョンも増えると思うから、冒険者の強化も必要になってくるだろう」
「……なるほど、面白そうですね」
「ええ。互いのことを知れば争いも起き難くなることでしょう」
「いいわね、それ。どうせなら世界一の学校にしましょう」
「いいな、世界一!」
「よし、世界一の学校を作るぞ!」
「「「おお!!!」」」
そうして大陸の中央北部に永世中立の学園都市が創られることになった。
皆で力を合わせてやれば、きっと素晴らしいものが出来るだろう。
魔王様はほんの少し前まで普通に送り返す予定でしたが、女神のささやきによりお亡くなりになって頂きました。
後日談で、聖良の小話とか、各嫁候補とのあれこれも小話で書こうかという考えが頭を過ぎりますが、
ひとまずは完結とさせていただきます。
第2部はシリーズものとして別の連載を切ります。
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