対魔王軍迎撃戦
よろしくお願いします。
ここに来てようやくまともな戦闘回?かもしれない
バカウマと共に北に向って走る最中、ふと懐かしい気持ちになった。
「バカウマとこうして二人っきりなのは出会った時以来だな」
「(そうですね。あの時は生き残るので精いっぱいでした)」
「そう言えば、あの頃はまだ、VRゲームの世界に迷い込んだだけだって思ってたな」
少しだけこの世界に来た最初の頃を思い出して懐かしく思ってしまった。
最初の召喚でまともな対応をされていたら、もしかしたらそのまま飼い殺しにされていた可能性もあったし、あの騎士たちが竜人族並に強ければすぐに殺されていた可能性もある。
そう考えれば幸運の連続だったんだろうな。
「まったくLv.1の最底辺の一般人から良くここまで来れたもんだよな」
「(旦那はあの頃から打っ飛んでたっすよ)」
「あれ、そうだったか?」
「(そうっす。そもそも馬と会話する一般人って普通じゃないっすよ)」
「それもそうだな。っと、見えてきたか」
俺達の向かう先から、スケルトンやガーゴイルなど「魔界の生き物って言ったらこれ」って言いたくなるような魔物が徒党を組んで歩いてきていた。
あ、よく考えれば言葉って通じるだろうか。
よし、一度呼びかけてみるか。
「あのー、すみませーん」
俺が魔法で声を拡大しながら呼びかけると、
魔物は前進を止め、サイクロプスのような身長5mの巨人が一団の前に出てきた。
でかいのはこいつだけだから、こいつがこの一団のボスだろうか。
「ギ、ギジラゴランガ!!(ほう、この世界の者で我々の言葉が話せる奴が居るとは驚いた)」
よかった、自動翻訳スキルは機能してくれているようだ。
「あなた方がどのような理由で移動しているのかは知りませんが、元の世界に帰って頂けないでしょうか」
「(それは出来ん相談だ。我々は魔王様の命により、この地は我らゲルベルド魔王国が接収した)」
「元から居た住民から見たら侵略行為ですが、そう捉えても良いのですか?」
「(ふっ。力あるものが上に立つ。当然の事だ。力無き者は従うが道理)」
「……常識の違い、だな」
かつて大航海時代と呼ばれた頃、冒険家と原住民で常識が異なり多くの血が流れたというけれど。
規模は違うんだろうけど、同じ様な話か。
ただ一つ違うのは、今回は原住民が力無い側ではないって事だ。
「ならば、帰って魔王に伝えるがいい。
俺は、この地に生きる者たちは、侵略行為は認めないし、ましてや力無き者ではないと」
「(身の程知らずが。貴様らなど一瞬で踏み潰してくれるわ)」
交渉決裂。手加減無用だな。
ま、相手の考え方の一端が聞けただけでもよしとするか。
「バカウマ、雑魚は任せた。俺はでかいのの相手をする」
「(了解っす)」
返事と共にバカウマが駆け出し、その姿が赤い光に包まれる。
そのまま弾丸のように加速しつつ魔物の群れに突っ込んで行った。
へぇ、バカウマもやるようになったな。
よし、こっちも行くか。
まずはさっき話をしていたサイクロプスに向かって走っていく。
「(ふんっ)」
サイクロプスの右パンチを左に一歩飛んでかわす。
身長差のせいでただのパンチが前からじゃなく上から降ってくるな。
さらに横に振り回された右腕に対して、力を流すように下から上に弾き飛ばせば、がら空きの脇腹が姿を現した。
「はっ!」 ドガッ!!
「(ぐふっ。ガァッ)」
「ちっ」
飛び上がりながら殴り飛ばすと、まるで岩か鉄の塊でも殴ったような手ごたえが返ってくる。
しかし奴も吹き飛ばされる瞬間に左足でカウンターを仕掛けてきた。
なるほど。言うだけのことはあるってことか。
「グガガガガッ(ふははははっ)」
「楽しそうだな」
「(まあな。久しぶりに全力を出せそうだからな)」
そう言いながら、一気に距離を詰めつつ左フックを打ち込んできた。
全力っていうのは嘘ではないらしい。さっきの右に比べると倍近い速度だった。
それに対し、受け止めるように右手を突き出した。
「(笑止!)」
カァァン!!
サイクロプスのフックと俺の右手がぶつかって、まるで金属を打ち合ったような音を立てた。
奴は受け止められた事に一瞬驚きつつ、獰猛な笑みを浮かべる。
「(おオォォォ!!)」
ドガドガドガッ
足を止めて左右のラッシュを仕掛けてくる。
その衝撃で砂埃が舞い始める。
「(これで、終わりだ!)」
必殺の一撃なのだろう。右手に膨大な魔力を纏わせて大振りの一撃を放って来た。
ドグシャッ!!
その一撃により肉が弾け、周囲に血が撒き散らされる。
とたんに辺りが血生臭くなり、地面が緑に染まった。
「へぇ、血の色は緑なんだな」
「(くっ、貴様、化け物か)」
サイクロプスがズタズタになった自分の右腕を抑えながらそういうが、どちらかというと化け物はそっちだと思うんだけどな。
「なあ、お前達は力あるものに従う、だったよな」
「(ぐっ、なにを)」
「帰って魔王に伝言を頼む『そっちに黒い卵が召喚されたはずだ。後で引き取りに行くからそれまで丁重に扱え』ってな」
「(『黒い卵』?)」
「じゃあ、確かに頼んだからな」
そう言いながら俺はジャンプして奴の懐に飛び込み飛び蹴りを喰らわせる。
「(ぐはっ)」
今度こそ奴は10mほど吹き飛び倒れた。
まあ、あれだけ頑丈なら死ぬことはないだろう。
辺りを見回せば、バカウマの突撃によって魔物たちはバラバラになっていた。
で、そのバカウマはどこだ?
「バカウマー。こっち終わったよ」
「(旦那!! ちょ、それなら助けてほしいっす)」
声の方を見れば、バカウマが黒い犬……ヘルハウンドかな。に追い立てられてこちらに走ってきていた。
まったく、仕方ない奴だな。
俺は昔のように右手に炎の魔法を展開する。
ただし、あの時は牽制だったが、今度は本気だ。
「避けろよ、バカウマ」
「(ちょちょっ、旦那、それはやばい奴っす)」
「がんばれー」
そう言ってバカウマのすぐ後ろで爆発するように投げ込む。
カッ、、ドドォン!!
バカウマとは反対の方向にのみ爆炎が吹き荒れ、追ってきていたヘルハウンドたちを灰にする。
「(旦那、今のは)」
「ん?指向性爆発って言うんだ。エネルギーの拡散方向を限定することで威力が増すんだぞ」
「(確かにすごい威力っす)」
炎が通った後は1kmくらい焦げた跡が続いていた。
ま、だれにも迷惑掛けてないから大丈夫だよな。
これでここに居た魔物の半数近くを倒せたので、奴らもさっきのサイクロプスを担いで撤退を始めたようだ。
ならこっちもエリーのところまで帰るか。
「よし、帰るか」
「(うっす)」
歩きながらバカウマに『手当て』を施しておくが、それほどダメージも受けなかったみたいだな。
「バカウマは足の速い魔物の対処が課題だな」
「(正面からぶつかるのならいけるんすが、後ろから追われるときついっすね)」
「ふむ、それならトラップを張るのはどうだ?
こう、蹄に魔力を篭めて、地面に地雷を設置していくんだ」
俺は歩きながら実演してやる。
ちょうど3歩進んだところで、前の足跡から火柱が立つようにしてみた。
「どうだ?これなら後ろから追ってくる奴も撃退できそうだろ」
「(おぉ、旦那頭いいっすね。次回までに練習しておくっすよ)」
そうして、エリーの待つ村まで戻ってきた。
「ただいま、エリー」
「お帰りなさい、ジンさん。バカウマもご苦労様」
「ブルルッ(ただいまっす)」
村は俺たちが出ている間に村全体の柵が強化されている。
よし、これなら弱い魔物であれば問題なく撃退出来るだろう。
あとは……
俺は町の中央広場に移動して地面に手を当てた。
「? ジンさん、なにをされるんですか?」
「防御結界の一つでも張っておこうと思ってな。そうすれば、応援が来るまで安心だろ」
「それはそうですけど」
そう話しながらも、魔法陣を展開する。
サイズは村全体を十分に覆う広さを確保しておこう。
後は一定以上の瘴気を通さないように設定しておけば、竜人族の人たちや冒険者は問題なく出入り出来るだろう。
「よっと」
カッ!?
よし、無事に張れたみたいだな。
「あの、ジンさん。
なんか何でもないように結界張っちゃってますけど、この規模の結界ってかなりの量の魔石を使用したり、専門の魔導士がしっかりと準備をしたうえで組み上げるものだと思うんですけど」
エリーのじと目が痛い。
そうは言うけど、これくらいなら『手当て』のお陰もあって結構簡単に出来てしまうんだよな。
「まあ、出来るに越したことはないだろう」
「それはそうですけど」
と、その時、また誰かから念話が送られて来た。
『ジンさん、今よろしいですか?』
『師匠~。力を貸してほしいです!!』
これはクキさんとクオンか。
『クキさん、クオン。何かありましたか?』
『はい、実は突然ダンジョンが多数発生しまして、今の所、暴走はしていないのですが』
『穴だらけなのです』
……穴だらけって。そんなにいっぱいあるって事なのか。
『分かった。すぐに向かいます』
『はい、お待ちしています』
「エリー。済まないが他の所からも救援要請が来たんだ」
「あ、はい。こちらはもう大丈夫だと思うので、行ってください」
「済まんな。後は頼む。また何かあれば呼んでくれればすぐに来るから」
「はい、ありがとうございます」
「バカウマも、エリーを頼むな」
「ヒヒーン(任せてくれっす!)」
「じゃあ」
軽く手を振って飛行魔法で北東の炎妖族の村を目指す。
今回は緊急って程じゃなさそうだし、移動中に魔王軍の動向も確認していこう。
サイクロプスはメッセンジャーの為にお帰り願いました。
って、もう少し穏便にするはずが完全に力で支配する魔族像が出来上がってしまった。
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無事に魔王の軍勢を退けたジン達。
しかし休む間もなく次の問題へと駆り出されるのだった。
次回:無限ダンジョン




