激動する世界
よろしくお願いします。
世界以上に作者の脳みそが激動しております。
大陸に向けて移動する間に、ロムさんに念話を送る。
『こんにちは、ロムさん。ご無沙汰しています』
『これはジン様。ご無事で何よりです』
『今、少しお話しする時間はありますか?魔王対策で忙しかったりしませんか?』
『ええ、大丈夫ですよ。流石の魔王の軍勢もこの森までは来ておりません。
若者たちは森の外縁部に行き、活性化した魔物の対応を行っていますが、ジン様の教育のお陰で特に負傷者を出すことも無いようです』
そうか。
あの馬鹿ガキどももしっかり成長しているようだな。
『それで、ロムさん。1つお知恵をお借りしたいのですが……』
『白い光に包まれて消えた、ですか。
……ジン様。恐らくそれは時空魔法、召喚魔法の類でしょう。
何者かが召喚魔法術式を構築し、ジン様を召喚しようとしたのではないでしょうか』
やはり召喚魔法だったか。
ただ狙われたのは俺ではなくバクだったんじゃないだろうか。
『召喚された先を知る方法はありますか?』
『魔力の残滓が残っていれば、それを追うことは可能です。
後は、何かあちらとこちらを繋ぐものがあれば、可能かと』
『具体的には?』
『共鳴石などです。あれは例え2つに割ったとしても1つであるという特質を利用したものです』
『なるほど』
あの時、咄嗟にバクの気配を探しても見つからなかったし、魔力の残滓のようなものもほとんど無かった。
だから、それ以外で何か手がないだろうか。
……そこで、ふと、自分の手が視界に入った。
そうだ。あの時消えたのはバクだけじゃなく、俺の手も消えたんだ。
もしかしたら、そこから追えるかもしれない。
『ありがとう、ロムさん。突破口が見つかったかもしれない』
『それはよう御座いました』
『はい、それでは一旦念話を切りますね』
『ごきげんよう』
俺は一度移動を止めて空中で静止した。
意識を集中して自分の手と同じ存在を探す。
頼む、上手く行ってくれ!!
……
…………
………………いた!?
って、これは……意外と近い??
2つ見つかって、1つは全くの別次元。時間軸も空間軸も異なる場所。恐らくはこの世界に来る前の俺自身だろう。
もう1つは、この次元、どころか、距離的に考えてきっとこの星の上だ。
ということは、あの召喚はこの世界の誰かが行った可能性が高いのか。
位置は、北。最初のあの国の辺りか。
ってことはもしかして、あの巫女姫に召喚されたんだろうか。
あの女にバクをどうこう出来るとは思えないからひとまずは安心……じゃないな。
ちょうどそこに魔王が降臨してるんだった。
くそっ、いっそのこと魔王の所に突撃してみるか。
『……ん。……るか、ジン』
ん?誰かが俺に念話を送ってきてるな。
距離があって上手く聞こえないが、こちらから繋げれば行けるな。
『ジン、聞こえるか!?』
『その声はゲイルか』
『良かった、繋がった!!』
念話の主はゲイルだった。
随分と切羽詰まっているが、何があったんだ?
『頼む。今すぐこっちに来てくれ!
フレイ様が重体なんだ!!』
『なに!? 分かった、すぐ行く!!』
フレイさんが重体って、何があったんだ!?
っと、考えるのは後だ。
ちょうど念話のお陰でゲイルまでパスが通ってるから、空間転移魔法で一気にゲイルの隣に跳ぶ。
すると一瞬にして景色が竜の山の中と思われる洞窟に切り替わった。
「!!? ジン、お前今どうやって」
「そんなことは後だ。フレイさんの所に行くぞ」
「お、おう」
若干呆けているゲイルに渇を入れつつ、気配を頼りにフレイさんの元に飛んでいく。
「フレイさん!」
そこにはドラゴン姿のまま横たわるフレイさんの姿があった。
全身の鱗はぼろぼろで、体の至るところに切り裂かれた痕があり、立派だった二本の角は片方が根元から折れてしまっている。
意識は無いようだけど、幸い魔力の流れから見て生命維持に問題は無さそうだ。
俺はすばやくフレイさんに近付き『手当て』と治癒魔法を全力で掛ける。
みるみる傷は塞がり、鱗は新品のように磨かれ、折れた角や爪なども再生していく。
完全に治療が済んだ後も俺は『手当て』を続けた。
次はこんな事が起きないようにと願って、もし次があった場合、それに勝てる様に丈夫でいてくれるようにと願って。
そうして『手当て』を始めてから1時間が経過したところで、俺は手を止めた。
フレイさんは今は穏やかな寝息を立てている。きっと体力の回復に努めているんだろう。
そこにそばで静かに控えていたゲイルが声を掛けてきた。
「ジン、フレイ様は」
「大丈夫。寝ているだけだ」
「そうか。良かった」
「ところで、レンは?てっきりフレイさんの近くに居ると思ってたんだけど」
「ああ、レンちゃんなら無事だ。山の奥にある避難用のダンジョンに避難させてるんだ」
そっか。フレイさんが大怪我負わされた、なんて聞いたら逆上して飛び出して行ってしまうんじゃないかと心配したけど、避難しているなら大丈夫だな。
「それで、ゲイル。フレイさんをこんな目に遭わせたのは誰なんだ?魔王なのか?」
「いや、それが『リーンリーンリーン』ん?何の音だ?」
「あ、これは共鳴石の呼び出し音だ。ちょっと待ってくれ」
この音は確かエリーに渡した共鳴石だな。
取り出してみると、明滅しながら先ほどの音を発している。
それに魔力を通せば、石を通じて相手側とパスが繋がったのが分かる。
『こんにちは、エリー』
『あ、ジンさん。良かった、繋がった!!』
……何だろう、これ。さっきも同じ様なやり取りがあった気がするな。
『その感じだと何か困った状況なんだね』
『はい、そうなんです。もしかしたら近くにジンさんが居てくれないかな、と思ったんですけど』
『うん、いいよ。今居る場所での急ぎの用事は終わったから、直ぐにそっちに行くよ』
『本当ですか!!ありがとうございます。それで私の今居る場所は、』
『あ、待って。多分地名とか聞いても分からない。このまま共鳴石の通話を繋げたまま、少し待ってて』
『え、はい』
一旦共鳴石から顔を離してゲイルに向き直る。
「すまん、聞こえたと思うけど、別の場所で問題が起きたみたいだからちょっと行って来る。
フレイさんを襲った奴が、また直ぐに来る心配はあるか?」
「いや、向こうもかなりの被害を受けていたはずだから、直ぐには大丈夫だろう」
「分かった。もしやばそうだったら、直ぐに念話で呼んでくれ」
「ああ。すまんな」
「いいさ。じゃ、行って来る」
そう言って、竜の山に来た時と同じ要領で、共鳴石のパスを辿ってエリーの場所を把握し、転移魔法を発動させる。
すると、そこはどこかの村だった。
近くにはエリーとバカウマ、いつぞやの御者の人の他、冒険者っぽい身なりの人が20人。後は村人っぽい一般人が数百人。
「お待たせ、エリー」
「あ、ジンさん、いつの間に!」
突然現れた俺に、エリーだけじゃなく、周りの冒険者も驚いて武器に手を掛けていたが、エリーが無警戒で俺に近付いたのを見て、味方と判断してくれたようだ。
「今の間に。それで、驚くのは後で幾らでも驚いてもらうとして、状況を説明してもらえるかな?」
「はい。私達はいま、各地の村を回って南の要塞都市へ避難誘導をしている所だったのですが、間に合わず、もうあと1時間ほどで魔物の軍勢がここまで来るんです」
「なるほど。その魔物を退ければ避難は何とかなるのか?」
「そうだといいのですが、予想以上に魔物の活性化が早く、道中もこの人数を守りながら何処まで行けるか、という問題もあります」
確かに。自分達だけ逃げ切るなら冒険者達は問題ないだろうけど、10倍以上の民間人を守りながらでは厳しいだろうな。
えっと、現在位置は……この辺りか。ここなら竜の山が近いか。それなら。
『ゲイル、聞こえる?』
『おう、ジン。何か問題があったのか?』
『ああ、頭数的に戦力が欲しいんだ。竜人族の人達を200人くらい遊撃隊のような形で動いてもらうことは出来るだろうか』
『多分大丈夫だと思うぜ。むしろジンの頼みだって言えば、総出で飛び出して行きそうだけどな』
『流石にそれをするとそっちの守りがきついだろう』
『まあな』
『だから200人くらい。今俺が居るところは分かるか?』
『ちょっと待ってな。……ああ、把握した。そこに向かわせれば良いんだな』
『どれくらいで来れるだろうか』
『そうだな。途中妨害があると考えて3,4日って所だな』
『分かった。よろしく頼む』
よし、これで道中の防衛も目処が立ったな。
「エリー、今応援を呼んだから、まだ移動せずにこの村で待機していてもらってもいいか?」
「応援、ですか?南の要塞は近隣の避難で手一杯でこちらまで手を伸ばす余裕はないはずですけど」
「ああ、西の山に住む竜人族に頼んだ。4日くらいで来てくれるそうだ」
「竜人族……」
竜人族と聞いて、冒険者達がざわめいたが、どうやら竜人族は勇猛な事で有名らしい。
まあ基礎能力からして普通の人より大分優れているからな。
「あとは、ちょっとバカウマを借りるよ。魔物を蹴散らしてくる」
「あ、はい!」
一声掛けてバカウマに飛び乗る。
「久しぶりだな、バカウマ。しばらく見ない間に足は衰えていないだろうな」
「ヒヒーーン(もちろんっすよ。成長した俺の姿、得とご覧あれ)」
そうして俺はバカウマと共に村を飛び出していった。
長くなってきたので一旦切りました。
バクの行方を把握しつつもどんどん問題が起きています。
ジンが世界中を飛び回ることになるので、地図が欲しいですね。
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フレイを救い、エリーの窮地にも駆けつけることが出来たジン。
だが、休むまもなく魔物の軍勢へと立ち向かうのだった。
次回:対魔王軍迎撃戦




