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手当ての達人  作者: たてみん
第1部 第5章:世界探訪「南海編」
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海の一族

よろしくお願いします。

聖良達を見送った後、俺もホックさんに一言挨拶してから町を出て西へ。

ただ、海の一族に会いに行く前に解決しておく問題がある。


ひとつは、毒素の発生源が何とかなったとしても、海そのものを浄化する方法を確立しておきたい。

これに関しては、まずはいつもお世話になっているプライベート空間でまったりしている黒い卵。相変わらず魔力を送りながら声を掛ければ元気に返事をしてくれるが、まだまだ孵る事は無さそうだ。

卵に魔魚の毒塊を触れさせると美味しそうに吸収していた。

だからまずは俺が海中にいる間は、周囲の毒素を集めて卵に送る事にした。


ただそれだと俺が居なくなった後が問題だ。

だから次の策として考えられるのは、オニクイヒメの海バージョン。つまり海藻を魔改造してみるか。

ただなぁ。森に比べて海は広すぎるんだよな。

この一帯だけで済むとは限らない。だから例えば海流に乗って拡散出来たりする方が望ましい。


さて、どうする……。

困った時は考え方を変えてみるか。

浄化ではなく汚染はどう広がったのか、それと同じことをすれば良いかもしれないな。

前に考えたのは、確か毒素を吐き出す魔物がいるのか、毒に犯された魚を食べて魔物も毒に犯されたか、だったか。

なら薬に犯されたっていうと変だが、そういう薬になるモノを放流すれば良いんだな。そしてそれは何も魚である必要も無いだろう。


そうと決まれば早速アイテム空間から魔魚の毒塊を取り出して、粉々に砕く。

それに対して『手当て』を使って卵に変化させる。

ハムッチを創った時の応用だが、イメージはイクラなどの魚の卵だ。

無事に直径1cm程の卵になったそれを海に放流していく。

これで卵のまま、魚に食べられてその魚を浄化するものと、無事に孵化して、大型の魚や魔物に食べられて、それらを浄化するもの。

更には、ずっと生き延びて毒素を食べて成長し続けるものも出て来るだろう。


続けて俺はさらに細かい粒子を創って海に流す。

こちらは植物の種だ。海底に根を張るものもいれば、植物プランクトンのように海中を漂うものも出て来るだろう。

どちらも光合成を繰り返しながら、毒素を吸収して分解するようにイメージしておいた。

きっと上手く作用してくれるだろう。


ふぅ。

これでまだ時間は掛かるだろうが、海の汚染は解消されて行くと期待しよう。



さて、続いてもうひとつ。

それは以前、海の中で満足に『手当て』が使えなかった問題だ。

あのときは俺の使い方も悪かった。単純に手を当てれば何とかなると思っていたからな。

だから間接的に『手当て』を発動させるようにするか、手当て以外でも効果的な戦い方を作る必要がある。


まずは後者の為に、アイテム空間から、銅を中心に金属を取り出す。

それを鍛冶と錬金スキルを発動させて細くて丈夫なワイヤーにする。

さらにそれを編み込んで、投網を作り上げた。

よし、これで魔物の力に対抗出来るように魔力でコーティングしてやれば大丈夫だろう。


試しに適当に海上で、魔力を放出して魔物をおびき寄せる。

解体所で聞いたのだが、最初に南海諸島に来る途中で釣った魔物の数は異常だったらしい。

また、デスシーサーペントも俺が海中に潜ってからは船には見向きもせずに俺を狙ってきた事から、俺自身か俺の魔力に惹かれて集まって来たと予想している。


さて、トロール漁よろしく移動しながら魔力を振り撒いてみたがどうだろうか。


…………ん!!?


海中に集まってきた魔物から一斉に何かが射出されてきた。

咄嗟に回避したけれど、これは銛か?

よく観察する間もなく第2射が撃ち出されてきた。

今度は余裕を持って回避しつつ、飛んできた1つを回収する。

石で出来た銛の先端、もしくは鏃か。

それはつまり、海中にいる魔物が人間並みに知性が高くて武器を必要とする生き物であることを意味する。


……もしかしたら海の一族が魔物化しているのかもしれないな。


ま、ひとまずは無力化しないと浄化も儘ならないか。

俺は鏃の代わりに撃ち出されてきた水弾を回避しつつ網を投擲する。

そして微弱な(?)電流を魔法で流して、網にかかった魔物を麻痺させつつ、網を引き揚げる。

これは……人魚か。足は魚ではないが、体の数ヶ所にヒレが付いていたり、体の一部が鱗で覆われている。

顔は普通の人間だけど、今は毒に犯されている影響か、真っ黒だ。

ひとまずプライベートルームに放り込んで、中の子達に浄化と、万が一暴れださないように手足を縛って置いてもらう。


さすがに一度で全部は釣れないので、それから7回ほど繰り返して、ようやく今集まってきた分は回収しきった。


『マスター。さっきの人たちの意識が戻りました』

『分かった。今行くよ』


プライベートルームに入る。

視界に映るのは、俺専用の家と公民館みたいな建物。

その他は草原、山、森、湖、世界樹と、いつの間にか広くなったな。

それは良いとして、さっきの人魚達はっと、いたいた。

意識が戻ってるのは最初に捕まえた20人か。


「貴様か!我々を捕まえてどうする気だ」

「こんなことをしてただで済むと思っているのか!!」

「今すぐこの縄をほどきやがれ!」

「俺達を誰だと心得る!?」


あー、なんか久しぶりだな、この雑魚キャラの罵声。

どうして捕まって身動きが取れないのに、威勢だけはいいかね。

そう思っていたところで、捕まえていた内の一匹が飛び跳ねた。

おぉ、活きがいいな。

身体のばねを上手く使って飛んできたその女性の人魚の踵が騒いでいた一匹の頭に突き刺さる。


「こんの、馬鹿どもが。死にたいのか、状況を理解しなさい。

経緯は分からないけど、私達はこの人間に捕まって海から隔離されているのよ。

周りを見れば分かるでしょ。ここは海中でも海岸でもないの。きっと遠くに運ばれちゃってるのよ。

助けは直ぐに来ないの。分かる?

少しはその空っぽの脳みそで考えなさいよ」


一気にまくし立てる人魚。なんというか、姉御って言葉が似合いそうな人だな。


「あ、あねごぉ」

「勘弁してくれぇ」


あ、本当に姉御って呼ばれてるんだな。

粋がってた男達がとたんになよなよしだしたし。

でもこれで、ひとまず話は通じそうだな。


「えっと、その馬鹿どもへの説教は後にしてもらって、話を聞きたいんだがいいか?」

「ええ。その代わり、私達を殺さないって約束してくれないかしら」

「敵でなければ元からそのつもりだ。まぁ、立場が分かってない馬鹿にはお灸が必要かなって思うがな」


そう言って男達を睨み付けると「ヒィッ」と短い悲鳴を上げて青くなっている。

さっきの威勢の良さはどこにいったんだか。


「まあそれは半分冗談として、お前達は海の一族で間違いないか?」

「半分なのね。……え、えぇ。あなたの言うとおり、私達は海の一族よ。

あなたは?私達の事を知らないところを見ると、島国ではなく北の大陸から来たのかしら」

「そうだ。話が早くて助かる。

海の異変の調査に来たんだが、島国の王から海の一族を紹介されて会いに行く途中でお前達に攻撃されて、こうして捕縛させてもらったんだ」

「私達があなたを攻撃?ごめんなさい。全く覚えていないわ」


怪訝な顔をしているが、嘘は言ってなさそうだな。

これは毒に犯されてからの記憶がないと見るべきか。


「むしろ、覚えている最後の記憶はどこだ?」

「えっと、そうね。私達は姫様の護衛をしながら隣町から帰る途中、ダンジョンの入口のそばを通ったんだけど、そこから毒が噴き出してきたの。

私達は咄嗟に姫様を逃がす為に囮になって毒を引き寄せたところまでは覚えているわ。仲間達が次々と毒に巻かれて、そして、気が付いたらここに居たわ」

「ダンジョンの入口か。なぜそんな危険なところを通ったんだ?

それは以前から毒を吐く危険な場所だったんじゃないのか」

「いいえ。これまでは毒が出てくることなんて無かったし、中に入らなければただの穴と同じだったのよ」


なるほど。つまりダンジョンに何らかの異変があって毒を噴き出すようになったってことか。

あとはそのダンジョンが始まりなのか、魚や魔物と同様にそのダンジョンも犯されたのか、によって話が変わってくるか。

他にあてがある訳でもないし、ひとまずはそのダンジョンに行ってみるか。

そんな事を考えていたら、人魚が恐る恐る聞いてきた。


「あの、お願いです。私達を海に帰してください。

あの後、無事に姫様が逃げ切れたのかを確認したいですし、その場合、岩戸に隠れてくださっている可能性が高いのでお迎えに上がらねば」

「岩戸?」

「はい。島国の人達との連絡の拠点にも使っている場所で、そこにある洞穴は特殊な魔法でしか動かせない岩で守られているのです」


天の岩戸みたいなものか。

島国との連絡拠点ってことは、当初行こうとしていた場所だな。


「その場所なら今向かっている。

ただ、お前達が毒で意識を失っている間に、海は広範囲で毒に侵されているから、まだ出ない方がいい。

その姫様も見つかればここに保護するから、少しだけ待っていてくれ」

「そう、ですか。分かりました」


俺はオニクイヒメやハムッチの眷属達に、意識が戻って落ち着いた人から順に拘束を解いていくように指示を出してプライベートルームから出た。

さて、姫様か。ちゃんと話が通じるといいんだけど。

姫様救出まで行こうと思っていましたが、長くなるので次回持ち越しです。

さて、主人公はパンデミックを回避しているのか、新たに起こしているのか、それは後日判明します(本編終了後なので触れません)


#########


海の一族との接触に成功したジン。

その一行から新たな情報を得ると共に、姫の救出依頼を引き受けることになったのだが。


次回:毒の発生源


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