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手当ての達人  作者: たてみん
第1部 第5章:世界探訪「南海編」
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特効役(薬)

よろしくお願いします。

タイトルからして若干ネタばれですw


やばい、ストックが切れてきた。

治療のために一晩中走り回った翌朝。

俺は聖良と冒険者ギルドに隣接したダイニングバーで朝食を摂っていた。


「それで、聖良はなぜこの町に?他の二人は一緒じゃないのか?」

「太陽達もこの町に来ていますよ。今はそれぞれ別行動を取っているだけです。

私達、というか私はジンさんのアドバイスのお陰で、あの後も何とか向こうの強引な勧誘を断り続けることが出来ました。

あの二人はばっちり魅了と隷属の状態異常に掛かっていたので、口頭での説得は諦めて、監視の目が切れるのを待っていたんです。


1ヶ月くらい経った頃ですね。山での演習中に偶然3人で崖から落ちたお陰で監視の目がなくなったんです。

これ幸いにと二人に浄化魔法を掛けて正気に戻して・・・・・・ついでにたんこぶの2,3個作ってやって、脱出することに成功しました。


そこからは元の世界に戻る方法を探しつつ、まずはあの国から離れようってことで南に向かっていたんです。

道中で路銀を稼ぐ為に冒険者活動をしたので、3人ともBランクなんですよ。


それで10日程前にこの港町に着きました。

町の惨状を聞いて、それぞれの長所を活かそうってことになって、

太陽は海賊の調査を行ってます。

晴明は海の魔物が凶暴化した原因を調査しています。

二人と最後に会ったのは3日前ですね。

ようやくアジトを見つけた、どうも頻繁に海中に潜っているのが怪しい、二人で監視を行ってみるって言ってました。

私は病気の原因の調査と治療法の確立を行う為に港町に残っています。

まあ、ご覧の通り、何の成果も上げられていないんですけどね」


そう言いながらしゅんとする聖良。

別れてから色々あって逞しくはなったっぽいんだけど、思考力はまだまだだな。


「聖良はもしかしてこの病気の原因に気が付いていないのか?」

「え、ジンさんは分かってるんですか!?」

「てっきり聖良たちって、見た目から考えて年代が違うだけで俺と同じ日本の出身だと思ってたんだけど、気のせいか?」

「いえ、日本です。最後に向こうに居たのは2005年です」


「・・・・・・水俣病(ぼそっ)」

「え?・・・・・・あっ!!?」


ようやく思い当たったみたいだ。

太陽はともかく、晴明と聖良ならすぐに思い当たってもおかしくないと思ってたんだが。


「今回の問題ってさ。工場排水がって話が無いだけで、海が汚染されて、その汚染された魚を食べた人たちが病気になったって流れだろ」

「言われてみれば。どうして気が付かなかったんだろう」

「まぁ、過ぎたことはいいか。問題はこれだな」


アイテム空間から治療した時に吸い出した物質を丸めたものを取り出す。


【魔魚の毒塊:水棲の魔物の体内で生成された毒素の塊】


ふむ。流石にどの魔物かまでは分からないか。

ただ、ここまで広く広がっていると言うことは、生成している毒素が他の魚や魔物に吸収されていると考えるべきか。

なら、毒を吐く魔物か、小型の魔物で他の魔物に喰われて広がったかのどちらかだな。


ま、まずは治療法の確立だな。

俺が昨日やっていたのは患者の全身からこの毒素を吸い出すことと、弱った肉体に回復魔法を掛けること、この2つだ。

毒素は同じように吸い出すか、もしくは無害な物質に変化させるか。後は毒が効かない体に改造……はまずいか。


「あ、あれ?ジンさん。なにかそれ、形が変わって来ていませんか?それに色も」

「ん?あ、確かに」


掌の上でころころ転がしていたら、真球だったのが楕円を描いていた。色も真っ黒から斑な白模様に。

これは卵、かな。

思えば「吸い出す」って所でエルフの森で活躍したオニクイヒメをイメージしていた。

あの時は大地の汚染からの魔物化で、今度は海の汚染からの病気。

オニクイヒメは植物由来で、こっちは動物由来ってことなのかもしれないな。


オニクイヒメの時と同じ要領で、他の生き物から魔魚の毒を吸い出して欲しいと思いながら、掌の上の球に魔力を送っていく。

そうすると球は鶏の卵くらいのサイズまで大きくなった後、表面に罅が入って割れ、中からハムスターっぽい生き物が生まれてきた。

卵からハムスターって。まあ、異世界だから何でもありか。


『えっと、おはよう』

「キュキュっ♪(おはようございます、マスター)」


念話を送って挨拶をしてみると、向こうからも挨拶が返ってきた。

無事に意思の疎通は出来るみたいだな。よかった。


「かっ、かっ、か・・・・・・」

「??」


突然、聖良が顔を赤くしながら変な声を発し始めた。

どうしたんだ?と思ったら


「かわいい~~♪ きゃー!ジンさん。

なにその子なにその子。超かわいい~~♪」


がばっと身を乗り出してきた聖良。

あ~女の子的にはクリティカルヒットな外見か。

でもな。その勢いに驚いて、俺の背中に隠れてしまったぞ。


「落ち着け、聖良。そんなにいきなり迫ったら嫌われるぞ」

「あ!! そ、そうよね。ふぅーー。ごめんなさい」

『もう大丈夫だから、出ておいで』

「キュウ(襲われない?)」


恐る恐る俺の背中から顔を出す。

ハムスターっぽいから、ハム太・・・・・・ってそれはまずいから、ハムッチだな。


『大丈夫だ。あと、今後君の事はハムッチと呼ぼうと思うけど良いかな』

「キュッ(はい)」

『それでハムッチ。俺は君を生み出す時に、毒を吸い出すイメージをしていたんだけど、何かそういうのって出来るか?』

「キュイッ(やってみます)」


ひと鳴きしてハムッチが聖良の目の前に移動する。

聖良には、動かないように伝えると、瞬き一つせずにハムッチを見つめ始めた。

そうしてハムッチの口がパクパク動いたかと思うと、聖良の体からうっすらと黒い靄のようなものが出てきたかと思うと、ハムッチの口に吸い込まれていった。


「もしかして聖良って、この町に来てから魚とか食べてたのか?」

「えっと・・・・・・来た初日と2日目は久しぶりのお魚だって言ってみんなで食べてました。でも体調は何ともなかったんですよ」

「多分、一定量が体内に蓄積されて始めて発病するんだろう。ハムッチも体調は問題ないな?」

「は、ハムッチ!!」

「キュッ(はい)」


再び聖良の目がハートになっているが無視。いや、折角だから手伝ってもらうか。


「聖良。俺は残りの球も同様に卵化させてみるから、聖良は一足先にハムッチと一緒に町を回って治療していってくれ」

「ハムッチと!!分かりました。おいで、ハムッチ~」

「キュゥゥ(お、お手柔らかに)」


ハムッチを肩に乗せ、意気揚々と聖良は飛び出して行った。

それを横目にアイテム空間から残りの魔魚の毒塊を取り出して、ハムッチ同様に孵化させていく。

ふむ。生まれてくるのは小動物っていうのは同じだけど、ハムスターだけじゃなく、リスやイタチ、ウサギにトカゲっぽいのまでいた。

冒険者ギルドに居た人たちに協力してもらって能力を確認したところ、無事に全員ハムッチと同様の能力が備わっていた。

その子達を連れて診療所を回る。

診療所ごとに説明しつつ、何匹かを預けて、治療行為をお願いしていった。

夜には皆の様子を確認して、幾つか既に卵状になった魔魚の毒塊が手に入った。

それらも孵化させて、今度は回復魔法が使える冒険者にも手伝ってもらう。



そうして1週間が過ぎた頃。

町から今回の病気はほどんど消えて、子供達の笑い声が聞こえるようになった。

更に、漁も解禁され、獲れた魚達に対してもハムッチ達の能力で無毒化が行われていった。

よし、これでこの町の危機は脱したと見て良さそうだな。


「お疲れ様、聖良」

「はい、お疲れ様でした。ジンさん」

「ハムッチもお疲れ様」

「キュイッ」


ハムッチは生まれた時より一回り大きくなっている。

聖良とも無事に打ち解けて今ではかなり仲良しだ。


「そういえば、あれから太陽達から連絡はあったのか?」

「いえ、それが何の音沙汰もありません。もしかしたら無茶して捕まってしまったのかも」

「まあありそうな話だな。ところで、俺はこの町の問題が一段落したからそろそろ移動しようと思う」

「!? そ、そうですか」


あてが外れたような、がっかりした顔をしているが、助けてやる義理があるわけでもないんだよな。


「それでこれから何処に行くんですか?」

「南洋諸島の海賊に知り合いが居るから会いに行く予定だ」

「え、それって、もしかして太陽達を助けに行ってくれるんですか!?」

「いや、そっちは知らん。あいつらが迷惑掛けたっていうなら罰を受けるのも当然の事だしな」

「なら、私も連れて行ってください。足手まといにはならないですから」


聖良からはさっきのがっかりした顔がなりを潜めて、強い意思の光が目に宿っている。

なるほど。使命とか運命とかに立ち向かうタイプなんだな。

ま、今回のことでは色々と手伝ってもらったし、乗りかかった船だ。もう少し面倒をみてやるか。

ハム○郎にハムッチが出てきていないと良いのですが。ま、ありきたりな名前だから大丈夫ですね。

(作者は、その作品に詳しくないのでサブキャラまで把握していません)

それにしても、あっという間に病気が解決してしまった。普通ならもっと引きのばすんでしょうね。


##########


無事に港町の病気を解決できたジン。

だが休む間も無く太陽達の心配をする聖良を連れて、南洋諸島へと向かうのだった。


次回:大海原へ

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