汚染された港町
よろしくお願いします。
ここから新章になります。
さらに突然別視点です。
南へと旅を続け、港町アクミュールへと辿り着いた。
いつものようにまずは冒険者ギルドへと向かう。
ギルドの中は閑散としていて、町の規模に比べてかなり寂れた感じだ。
ギルドに着く間も人の姿がまばらだった事から何か良くないことがおきている事が伺える。
「あの、すみません」
「いらっしゃいませ。そのご様子ですとこの町は初めてですね。
ようこそ、港町アクミュールへ」
ギルドの受付嬢は礼儀正しく挨拶してくれるも、申し訳なさそうにしていた。
「お困りのようですね。何か事件が起きているのでしょうか?」
「あ、はい、ご説明いたします。
そうですね、始まりは半年程前でしょうか。
海の魔物が狂暴化したという報告とともに、海難事故が多発しました。
それに乗じて南海諸島の海賊の活動も活性化しているという連絡も受けています。
更には2か月くらい前から町で正体不明の伝染病が流行し始めて、子供と老人を中心に重体になっています。
幸い、冒険者や大人たちまで病気にかかることは無いようです」
「やっぱ海といえば海賊だな」
「ふむ、魔物の凶暴化も海賊の仕業だろうか」
「伝染病に苦しんでいる人達を早く助けてあげたいわね」
そう言って顔を見合わせる太陽たち3人。
どうやらそれぞれ気になる部分は異なるようだ。
「それなら、今回はそれぞれの方面からアプローチしてみましょう。
私は治療院を回って、伝染病の治療の手伝いをしてくるわ」
「そうだね。僕は魔物の凶暴化について聞き込みをしてみるよ」
「なら俺は海賊担当だな」
それを聞いた受付嬢が、それぞれにクエストを発行してくれた。
『海賊の調査:ランクC。南洋諸島を根城にする海賊の動向を調査。なお、討伐の必要は無い。報酬は……』
『魔物の凶暴化調査:ランクB。魔物の凶暴化の原因調査。凶暴化の沈静化に成功した場合は追加報酬あり。報酬は……』
『病気の治療:ランクB。町の住人の病気の治療もしくは治療薬、治療法の確立。報酬は……』
「よし、誰が一番にクエストをクリア出来るか競争だな」
「そうだね。毎日宿で合流して、お互いの進捗を確認し合う事にしよう。何かお互いに有益な情報もあるかもしれないしね」
「そうね。二人とも無理はしないようにね。特に太陽は海賊のアジトに一人で突撃とかしないように」
「し、しねーし。って俺だけランクCなのかよ」
「ふむ、討伐の必要はないってのが気になるね」
そんな感じにワイワイ話し合いながらギルドを出て行く3人組を受付嬢は静かに見送っていた。
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炎妖狐の村を出た俺は、真南から南南東へと進路を変えつつ飛んでいた。
山岳部と森を越えた先には平野部が広がり、穀倉地帯になっていた。
そして、さらにその先に海が見えてくる。
海に面した海岸線から平地部にかけて、かなり大きな港町が拓けているが、
「これはいったい……」
空から見た限り、港の活気が感じられなかった。
さらに言えば、町に瘴気が蔓延しているようにもみえるな。
海賊王の話では海に異変があったという事だが、それが港にも影響を与えているって事だろうか。
まあ、ひとまず冒険者ギルドで聞いてみればわかるか。
地上に降りて町の門から中に入る。
やっぱり活気がないというか、子供の姿を全然見ないな。
港町なら商人ももっと居てもいいと思うんだけど。まるで疫病が発生した感じだな。
足早に冒険者ギルドに向かい、中に入ると、冒険者の姿はほんの数人しか無かった。
「あの、すみません」
「いらっしゃいませ。えっと、そのご様子ですとこの町は初めてですね。
ようこそ、港町アクミュールへ。
と、歓迎したいところなのですが、もし観光などで来られたのであれば早めにお帰りになることをお勧めいたします」
ギルドの受付嬢は礼儀正しく挨拶してくれるも、申し訳なさそうにしていた。
どうやら俺の普段着姿から、旅行者もしくは低ランク冒険者とあたりを付けた様だ。
「町の様子がおかしいのは気が付いています。
一応これでもCランクの冒険者なので、何か力になれるかもしれません。
何が起きているのか聞いても良いですか?」
「はい、ありがとうございます」
そう言って話してくれた内容は、海賊王の言っていた内容とさっき感じたことと町で感じたものからの予想とそう違いは無かった。
南海諸島の海賊っていうのは、海賊王のことだろう。
恐らく海の魔物の対応に奔走してくれているんだろうな。
しかし、伝染病か。
「病気の原因と治療法は分かっているのですか?」
「いえ、それがどちらもまだ分かっておりません」
「本当に病気の原因に、心当たりがないのですか?」
「・・・・・・」
重ねて質問を投げかけると、受付嬢は口を閉ざし、じっと俺の目を見てきた。
そうして10秒ほど見詰め合ったところで、向こうが折れた。
「・・・・・・奥の部屋へ。現在分かっていることをお伝えします」
案内された部屋はどうやらギルド長の部屋だったらしく、いかついおっさんが執務机で急がしそうに作業をしていた。
受付嬢はギルド長になにか(多分ここに俺を連れてきた経緯を)伝えた後、部屋を出て行った。
ギルド長は俺をじっと見て静かに口を開いた。
「ギルド長のイーガリだ。先に言っておくが、この病気の原因について解決策も無く吹聴すると町がパニックになる。
だから今はまだ口外しないでほしい」
「言いたいことは分からなくは無いですが。
町の住人には、予防方法については周知されているのですか?」
「もちろんだ。海の魔物の凶暴化に伴い、漁の禁止を町長から通達してもらっている。
だがな、見ての通り、この町は海運と漁業で成り立っている町だ。
禁止しても他に食い扶持の無いやつらばかりだ。
密漁もするし、毒かもしれないと思っていても他に食うものもない。
このままだと、もって年内。来年には病気だけでなく餓死者が続出することになる。
早急に手を打たねばならん」
この人もこの町の状況を見て苦しんでいる人の一人ってことか。
まあ、俺のやることはいつも通りだな。
「ギルド長。
俺は治療系の特殊スキルを持っています。
上手く行けばこの病気も治せるかもしれない。
だからまずは瀕死の人の所に案内してください」
「何、本当か!!」
俺の治せる発言を聞いた瞬間、喜びと驚きが混ざった顔になった。
「急ぐぞ。一刻を争うかもしれん」
椅子から立ち上がったかと思うと、俺の手を引いて飛び出していくギルド長。
途中、緊急を要する患者が新たに増えていないか調査するように通達していく。
そうして向かった先は、海岸近くに立っている2階建ての診療所だった。
診療所の中は大量の病人で溢れていた。
ギルド長はわき目も振らずに2階の病室に駆け込んでいく。
「無事か、イルム!!」
器用なことに小声で叫ぶギルド長。
そこにはベッドに寝かされた土気色の少年と、必死に治癒魔法を駆けている女の子が居た。
少年は呼吸をしていなければ生きているとは思えなかっただろう。まさに一刻を争うな。
「そこの君。交代だ。ここからは俺に任せてくれ」
「は、はい。よろしくお願いします。ってジンさん!?」
よく見ると女の子は聖良だった。
召喚された国で別れて以来だが、今は再会を喜んでいる場合じゃないな。
急ぎ少年の額と臍に手を当てると同時に回復魔法も発動させる。
回復魔法は一時凌ぎの役目しか果たさないか。
それでも治療が終わるまで命を繋ぐには必要かもしれないな。
さて、これは……全身に毒素が回っているのか。内臓が特に酷いな。
まずは、毒素を体外へと吸い出す。
ちっ、全身に染み渡っているから時間がかかるな。
急なショックを与えると危険かも知れないので、慎重に進めていく。
10分程して、何とか毒素を完全に排出出来た。
手元にはパチンコ玉サイズの黒い球が出来上がっている。
それの調査は後回しだ。
毒さえ抜けてしまえば、後は回復させるだけだからそれほど難しくは無い。
程なくして顔色も良くなり、穏やかな寝息を立て始めた。
「おぉ、治療に成功したのか」
「すごい、さすがジンさんです」
「イルム!よかったな・・・・・・よかった」
その光景を見ていた診療所の人たちが色めき立った。
ギルド長は少年の手を取って涙を流している。もしかしてギルド長の息子だったのか。
今度はそれを見ていた医者か所長さんが俺の肩を掴んできた。
「き、きみ。今のはいったいどうやったんだ。
他の患者たちも同様に治せるのか??」
「治せは、します。ただ、俺が直接手を下さないのといけないので、一度に大勢の人は無理です。
まずは先程の子のように瀕死の人を優先させてください」
「そうだな、分かった。この診療所は、その子以外はまだ大丈夫だから、他の人、特に診療所に来れない人を中心に確認を取ってみる」
そう言って看護師たちと共に、慌ただしく治療院から出て町の人に声を掛けていけば50人ほど危険な状態の人が見つかったので、治療が終わる頃には深夜になっていた。
お久しぶりな主人公パーティーでした。
病気の原因ですが、海の魔物が凶暴化とか言ってるんだから、海に原因があるに決まってるでしょって話です。
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港町に着いたジン。そこには病気が蔓延していてとても一人では手が回らない状況だった。
そこでまずは特効薬の開発に乗り出す。
次回:特効役(薬)




