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手当ての達人  作者: たてみん
第1部 第4章:世界探訪「鉱山都市とダンジョン編」
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褒美

よろしくお願いします。


本章も後1話で次に向かいます。

意外と長引きました。

宴会は開始からまだ1時間くらいしか経っていないのに、既に大勢の酔っ払いを輩出していた。

・・・・・・大丈夫だとは思うが、これに乗じて犯罪が起きないように邪気払いの魔法を張っておくか。

そうしていると、俺の元にどこか高級感のある女性騎士がやってきた。


「お楽しみのところ、失礼します。ジン様ですね。

国王陛下がお呼びです。あちらに馬車を用意してありますので、どうぞお乗りください」


流石に国王の命を受けているからか、有無を言わさぬ調子だった。

と言っても、俺は内心、宴会から逃れる口実が出来たと喜びながら付いて行く。

馬車の前には15歳前後の少女・・・・・・メイドにしては衣装が豪華だからどこかの令嬢かな?が立っていた。

色白で細身というには少し痩せ過ぎで病弱にも見えるその姿は、目を離すと消えてしまいそうな、酷く儚げなものがある。

その子は俺が近づくと静かに礼をして馬車の中に招待してくれた。

俺が進行方向と同じ向きに座り、その向かい側に令嬢、その横に女性騎士が乗り込むと馬車は静かに動き出す。


「ジン様。わたくしはこの国の第2王女のミールミアと申します。

この度は父をお救い頂き、まことにありがとうございました。

お聞きしたところ、先程の魔物の討伐においてもジン様は獅子奮迅の働きだったのですよね。素晴らしいですわ。

わたくし、世情には疎いのですが、他国ではさぞ大魔道士ジン様の御高名が知れ渡っているのでしょうね」


令嬢、もとい、王女様か。病弱に見えたのは普段滅多に外に出ないせいかもしれないな。

ただ今は目をキラキラさせて、まるで物語の英雄を前にしたように興奮冷めやらぬまま俺を褒めている。

うーん、どこぞの巫女姫とは違って純粋な分、扱いが難しいな。


「ミールミア様。お言葉ですが、俺はまだ駆け出しの冒険者です。

高名も何も、クラスも魔道士ではありませんし、多少特殊なことが出来るだけのただの治癒士ですよ」

「まぁ。ではやはり町の広場を癒しの光で包んだ聖者様というのもジン様なのですね。

あれのお陰で、これだけの大事件だというのに死者がほとんど居なかったそうです。

まさにジン様はこの国の救世主様ですわ」


いかんな。これは何を言っても良い意味に変換されるパターンだ。

どうにかして話の方向を変えないと、その内、神の使い扱いされそうだ。


「ところで、ミールミア様は良くご無事でしたね。

ミールミア様ほど美しいお方であれば、政変が起きれば辛い役目を負わされることも多いと聞きますが」

「ええ、幸いな事に、わたくし、来年が成人なのです。

ご推察の通り、隣国の第三王妃に、という話が上がっておりましたが、後1年ですし、兄もわたくしが成人するまで待ってくださったのです」

「なるほど。それは幸運でしたね」

「ふふふっ。えぇ、本当に」


途中、隣の女性騎士の視線が痛い場面も何度かあったが、どうにか城までたどり着いた。

城に入るなり、王女様に案内されるままに城の謁見の間に入る。

そこには国王陛下と内務大臣、外務大臣あとは宰相だったかな、が居た。地下牢にいた面々だ。

王女と女性騎士は、向かい合う俺らの横に、そっと控えるように移動していた。

そこで陛下が話し始める。


「ジン殿。此度は我らの地下牢からの脱出に始まり、魔物の暴走の鎮圧、さらに負傷者達の治療にと、我々だけでなく、国そのものが救われた。

明日以降に大々的に式典を執り行うのだが、その時には王として振舞わねばならぬのでな。こうして直接礼を伝えたくて無理を言って来て頂いたのだ。

ジン殿。本当にありがとう」


そう言って頭を下げる王達。

なるほど、確かに民衆には見せられない光景だな。

忠誠心が高い人が見たら一歩間違えれば俺の首が飛ぶ。

というか、女性騎士が一瞬、腰の剣に手を当てそうになったぞ。


「頭を上げてください、陛下」

「うむ。それで、ジン殿。褒美は何が欲しい。遠慮せずに何でも言ってくれ」


この食い気味の姿勢は親子なんだなと横の姫をちらっと見てしまった。


「あ、ありがとうございます。それであれば・・・・・・」


やっぱりこの町での問題の発端であるクオン達のことを何とかしてもらおう。


「北の山に炎妖族が住んでいるのはご存知だと思いますが、彼らが炎狐と間違えられて襲われる事件が発生しています。

今後、そのようなことが起きないように防止策を立ててください」

「ふむ。クキ殿達の件だな。既に、商業ギルド長を締め上げて事の顛末は確認しておる。早急に対策を行おう。

ただそれはこの地の問題だ。ジン殿個人としては他にないか」

「えっと。それであれば、俺の知り合いがこの国に来た時に便宜を図ってください」

「それくらいはお安い御用だ。それでジン殿の知り合いとはどなたかな?」


そう言えば、商会の名前ってなんだっけ。エリーに聞いたこと無かったな。

急ぎエリーに念話で確認してみる。

・・・・・・あー、そう。そうなのか。


「えっと、1つは『エリジン商会』という行商と交易を主に行っている商会で、商会長はエリーという女性です」

「ほぉ。その名前からしてジン殿も設立に一枚噛んでいるようだな」

「ええ、まあ。色々とありまして。

他に知り合いとしては、西の竜の山に住むドラゴンと竜人族、南西のエルフの森のエルフとハーフえ・・・・・・」

「ま、待て待て。ドラゴンに、エルフとまで友誼を結んでおるというのか!?」


陛下が驚いて椅子から飛び上がっているが、普通に考えればそうだよな。


「そうですね。先日裁判で議題に上がっていたドラゴンの素材も、巣から盗んできたのではなく、ドラゴンたちから自分達は要らないからと譲られたものですから」

「全く、ジン殿は規格外であるな」


汗を拭くようなジェスチャーをしながら椅子に座りなおした。


「ゴホンッ。ところでジン殿。ジン殿は嫁は居るのか?」

「は?突然どうされました?」

「いやなに、英雄色を好むというではないか。

ジン殿程の男であれば、妻や愛人の2人や3人は居るものだと思っての」

「ははあ。なるほど。残念ながら私は旅の冒険家です。一所に留まることがありません。

ですから、家庭を築き、家族を幸せにするのはまだ当分先のこととなりましょう」

「ふむ、つまり何年かすれば腰を落ち着けるかもしれぬということだな。

それであれば、ジン殿。我が娘のミールミアを貴殿の家族の末席に加えてはくれぬか」

「お、お父様!!」

チャキッ!


驚くミールミア王女と剣を抜こうとしている女性騎士。

いや、王の御前で許可無く抜剣したらまずいんじゃないかな。すんでの所で抑えているみたいだけど。

ちなみに俺は、王女が送迎に来たところでそんなことだろうと思っていたので、驚きはない。


「陛下。月並みな言い草で申し訳ないですが、もっと本人の意思を尊重してあげてください。

確かに王家に生まれたからには政略結婚に差し出すことは良くあることでしょうが、俺は貴族でも何でも無いですよ。

そんな理由でやって来た女性も、その家族も重宝することはありません。

俺に差し出す、というのであれば、その代わりに彼女が望む相手の元へと送り出してあげてください」


そう伝えた所で、王女がずずいと身を乗り出した。


「それではジン様。わたくしが望めば、もらって頂けるのですか!?・・・うっ!!」


突然胸を押さえて崩れそうになった王女に咄嗟に手を伸ばして支える。

今のは心臓発作か?第一印象で病弱かと思ったのは間違いではなかったのか。


「はぁっはぁっ。もうしわけ、ございません。すぐに、おさまり、ますので」


ゆっくりと椅子に座らせつつ『手当て』で病状を走査(スキャン)する。

・・・・・・医学知識が無いから病名とかは分からないけど、心臓が奇形のようだ、というのが伝わってくる。

そのまま『手当て』で治療を施す。よし、流石『手当て』様だ。きっと後遺症もなく完治出来ただろう。


「はぁ。ありがとうございます、ジン様。大分楽になりました。

ですが、申し訳ございません。

見ての通り、不治の病に罹っており、20歳まで生きられないだろうとお医者様から言われています。

ですので、ジン様のご寵愛をいただけるのもほんの数年になります。

もちろん病が悪化しましたら、身を引きジン様にご迷惑はお掛けしませんので」

「そのことだけど」


アイテム空間から、世界樹の葉を1枚取り出して、女性騎士に差し出す。


「この世界樹の葉を今すぐ煎じて飲ませてやってくれ。

飲み終わるころにはきっと治ってるから。さ、早く持って行って煎じてきて」

「せかっ!!はっ、はい!」


やっぱりこういう時の万能薬といえば世界樹だろう。

俺が突然治しました、なんて言っても信じられないだろうしな。

葉を受け取り、急ぎ飛び出していく女性騎士を見送ると、部屋の中が静まり返っていた。

……あれ?なにかあったか?


「あの……ジン様。世界樹の葉ってそんな貴重な物をわたくしの為に使ってよろしかったのですか?」

「え、ああ、そっか。ストックが数百枚もあるから忘れてた。言われてみれば貴重品だったな」


恐る恐る聞く王女に言われて、ようやく視線の意味が分かった。

いや宰相、そんな信じられないモノを見る目をされてもな。


そうこうしている内に、女性騎士がメイドを伴って戻って来た。

メイドの手にあるティーポットの中身が、おそらく世界樹の葉を煎じた薬湯なのだろう。

メイドが慣れた手つきでカップに薬湯を注ぐと、新緑の綺麗な色を湛えていた。

……陛下を始め、全員が固唾を呑むなか、王女がそれを静かに手に取り口をつける。


「おいしい」


王女のその一言を聞いて全員が息を吐く。


「それで、ミールミアよ。病は治ったのか?」

「正直、それはまだ分かりません。ですが、体の芯から温かい力で満たされているのは分かります」

「そうか。そうか!よかった。ジン殿。貴殿にはもう何度礼を言っても足りぬな」


王女は血色が良くなり瞳は輝き、先ほど苦しんでいたとは思えない程、活き活きとしていた。

それを見た陛下も涙ながらに喜んでいた。


国を出るところまで行こうと思ったのですが、

突然出てきた王女様の話が長引きました。・・・・・・どこから出てきたんだろうホント。

あと、世界樹の葉は健康増進、免疫力強化などには効果を示しますが、先天性の奇形までは治せません。


##########


鍛冶王国に対し、炎妖族の保護と友人達への繋ぎを作ったジン。

ここで出来ることも終わり、次の行き先を決める。


次回:南へ

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