地下牢にて
よろしくお願いします。
裁判まで行こうと思ったら届きませんでした。
町に戻るなり、刑務所と思われる建物の地下牢へと連れていかれた。
途中、町の至る所に俺の人相書きが貼り出されているのを見れば、あちらの本気具合がよく分かるな。
地下牢に入る際に首輪と手錠を付けられた。
何でも魔力封じとスキル封じの魔法具らしい。そう言えばクオンも同じ首輪を填められていたな。
そして地下3階の奥の部屋へと案内される。
「お前さん、何やらかしたんだ?見ない顔だか。この階は国家犯罪級の罪人か表では裁けない奴が連れて行かれる場所だぜ」
「まあ。ただの冤罪さ」
「そうかい。ま、俺の仕事が増えるんで大人しくしていてくれや」
看守は扉を閉めて上の階へと戻って行った。
さて、どうしようかな。
さすがにすぐに死刑にされることは無いだろうけど、好き好んでここに閉じ込められている必要も無いんだよな。
それよりもだ。ひとまずはこの空間は空気が澱み過ぎて息するのも大変だから、住環境の改善をさせて貰おう。
その為にもこの首輪と手錠は邪魔だな。
そう思って手を当てれば、意図も容易く外れてくれる。
……スキル封じはどうしたんだろう。
そう思って、外れた首輪と手錠をアイテム空間に入れて内容を確認してみると、
【魔力封じの首輪(中):装着者の魔力が外に出ることを阻害する首輪】
【スキル封じの手錠(中):装着者のスキルが発動することを阻害する手錠】
中ってことは大か強があるって事なんだろうな。中程度では特殊スキルの『手当て』は封じれなかったって事か。
『手当て』を封じたければ神級の封印具を持ってこいってな。
って、ドヤッても誰も見ていないからサクサク行くか。
俺は地面に手を当てて、建物全体を覆うサイズの魔法陣を展開する。
高さは……さっきの看守に見つかると面倒だから、まずはこの階だけに抑えるか。
魔法陣に浄化と治癒の魔法を乗せて一気に発動させる。
パリンッ
「お?おおぉ。なんだこれは。空気が突然変わったぞ」
「うぉぉ。傷がみるみる治っていきやがる」
「何だ、いったい何が起きたんだ!?」
何かの割れる音と共に他の部屋から驚きの声が聞こえてくる。
あ、にぎやかになり過ぎだな。これじゃあ騒ぎを聞きつけて看守が降りてきかねない。
「あ、皆。いったん静かにしてくれ。上の看守に気付かれると怒られそうだから」
そう声を掛けるとピタッと静かになった。
おぉ。すごいな。ここまで理性的に反応してくれるとは思ってなかった。
助けた甲斐がありそうだな、これは。
えっと、上の看守の気配は……よし、動いてないな。
「先に言っておくけど、俺がここに入れられたのは偶然で、別にあなた方の事を救い出しに来た訳ではないから。
同じ牢のよしみで、錠を外して食べ物も渡すけど、脱獄とかは俺に迷惑にならない範囲でやってくれ」
アイテム空間の中を確認すれば、それなりの量のパンと果物が備蓄されているので、まずは2つずつくらい配って回るか。
そう思って牢の扉に手を当ててアイテム空間に仕舞う。
そう言えば、こうやって部屋を出入りするのは最初の城以来か。もうかなり昔の事に思えるな。
隣の部屋から順番に扉を取り去って中の人を確認。
「……」(じー)
「お、おう。なんだ」
「うん、大丈夫だな。じろじろ見て悪いな。流石に極悪人を助けるのもどうかと思ってな。
手錠と首輪を偽物にすり替えておくから後は好きにしてくれ。パンと果物も置いて行くから」
「すまねえ。助かった。
なあ、あんたは一体何でここに入れられたんだ?見たところお偉いさんにも見えないし。
あ、俺はこの前まで鍛冶師ギルドのトップだったんだ。
ナンバー2の馬鹿にクーデターを起こされて、ここに送り込まれたのさ」
話を聞いてみると、ここに居るのはそう言った、元トップの善政を行っていた人たちがほどんどみたいだ。
欲に負けた奴らにはめられたらしい。
そうして回っていくと、雰囲気の違う男が居た。
「おう坊主。助けてくれてありがとな。
俺ぁ、てっきり手下の誰かが助けに来たのかと思ったら違ったんだな」
左手を失い、顔に大きな傷跡が残るその男は、海賊王だと名乗った。
3か月前に親友だったこの国の王に会いに来た所、息子に代替わりしていて、うっかり閨を覗いてしまったらしい。まさかの男x男の絡みを見て吹いてしまったそうだ。
ま、まあ。王子がそういう趣味でも、不思議ではないよな、うん。
そして一番奥の部屋が前国王だった。
既に50を超えているように見えるが、その目にはまだまだ力強さが残っていた。
国の現状を聞き、憤りを隠せないようだ。
「君を含め多くの民に辛い思いをさせてしまっているようだな。
あのバカ者が。民の幸せを考えなければ国は腐ると何度と無く教えたのを忘れているようだ」
と、上の階から誰か来るみたいなので部屋に戻る。
降りてきたのは、商業ギルドのギルド長だった。
俺の部屋に入るなり、俺を見て喚きだした。
「のこのこ帰ってくるとは馬鹿な奴だ。
この10日間、何処に隠れていたかは知らんが、ようやくしっぽを出しおって。
貴様の置いていった石っころのせいでどれだけ損害を受けたと思っている!
1000万だそ、1000万。お前のような低ランクでは一生掛かっても稼げない額だ。
オークション終了後の引渡しの時に、あれの正体が判明した時は商業ギルドそのものが失墜するところだったんだぞ。
まったく。その腑抜けた顔はまるで分かってないな。
いいか、よく聞け。
お前は3日後に裁判が行われる。当然有罪、死刑だ。
お前が助かる方法は一つしかない。分かるな。
ドラゴンの爪だ。あの時最初に取り出したのは、確かに本物だったはずだ。
まだ持っているんだろう?お前のご自慢のアイテム袋に。
あれがコネも無く、そう易々と捌けるはずが無いからな」
・・・・・・喧しいな。
1000万くらいなら、竜の山で貰った金貨だけで余裕で超えているはずだよな。
まあ、どっちにしても渡す義理はないが。
「残念だが、あの時見せたドラゴンの爪は既に鍛冶師に渡している。
だから今、お前に渡せるものはもう何もないな」
「ならその鍛冶師は、どこの誰なんだ!?」
「それは契約上、死んでも言えないな(そんな契約結んでないけど)」
「くそっ、生意気な。その態度が死刑宣告を受けた後でも残っているか見ものだな」
そう捨て台詞を吐いて帰っていった。
「はあ、あの馬鹿は相変わらず金にしか興味がないのか。
しかもかなり商人としての目も鼻も衰えていると見える。
この階の異常さに気付けば1000万くらい余裕で稼げるのに。
目先の金にばかり気が向いてる証拠だな」
呆れた声で元商業ギルド長がため息混じりに言った。
「そうだな。王城の浄化、貴族屋敷の浄化、そして治療。これだけでもかなりの額が稼げよう。
我もここを出た後は、それこそ1000万どころか1億出しても我の元に来て欲しい程だ。
そういえば、まだ名を聞いてなかったな。君の事はなんと呼べばよいか」
「ジン・バンリだ。ジンと呼んでくれ」
元国王の問いに答えて名乗りを上げる。
国王に敬語とか使ってないけど、まあ今更か。
「俺がこの町に来てから、まともだったのは冒険者ギルドくらいだけど、もしかしてあそこだけ昔のままなのか?」
「ああ、あそこは下からの叩き上げで組織を作っているからな。金や利権じゃ動かんから昔のままなのだろう」
それなら冒険者ギルドが無駄に敵対することも無さそうか。
しかし3日後か。ただ待つのは暇だな。
そうだ、折角だから住居環境の改善でもしてみるか。
各トップは病気により引退、ということになっていたりします。
王子のゲイはおまけです。
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地下牢の住人を巻き込んで住宅改善に乗り出すジン。
そして有罪確定の裁判が行われるが・・・・・・
次回:無罪の証明
死刑と言われても執行できる人が居るのかどうか。




