新装備
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工房内にはピンと張り詰めた空気が流れている。
というのも、クキさんが素材一つ一つを慎重に吟味しているからだ。
コツッコツッコツッ・・・・・・
ピタッ。ジーーー。
ゴクッ。
最後のは、クオンが唾を飲み込んだ音だ。いや、俺か?
10分掛けて、見て、触れて、魔力を送って、鑑定を掛けてと動いていたクキさんが、しゃがんで卵の殻に触れた瞬間ピタッと止まった。
そして立ち上がったかと思うとこちらを振り返ってツカツカと俺の前まで歩いてきた。
「あ、あの、クキさん。どうされましたか」
そう声を掛けても何も言わずに俺をじっと見詰めている。……あの、ちょっと怖いです。
かと思ったら突然、土下座をし始めた。
「え?何事??」
「申し訳ございません。
先程はあれほど大口を叩いておきながら、私の魔力では、一つを加工するのに数年掛かります。
どれも恐ろしいほどの魔力を内部に保有しているようなのです。
それにあの卵の殻ですが、あれは既に何者かの力で占有されており、私の力では手の施しようがありません」
「あ、あー。そうですか」
その何者かってもしかしなくても俺だろうな。
最近はプライベートルームの黒い卵や世界樹の苗を育てようと思って、余ってる魔力はどんどんそっちに送り込んでるから、そのせいでドラゴン素材も魔力で満たされてるんだろう。
「何か色々とすみません。きっとそれ、俺が悪いのでそんな謝らないで下さい」
女性に土下座されるっていうのも良い気はしないので、手を取って、立って貰う。
「ちなみに、普通はどうやって素材を装備に加工するんですか?」
「えっと、まずは素材に『親和』『共鳴』スキルで自分の魔力を馴染ませることから始まります。
この時に、どれだけ魔力を高められるかで、その後の工程にも影響を与えます」
「ふむふむ」
「十分に馴染みましたら、続いて『鍛冶』スキルと炎妖族の固有の特殊スキルを用いて素材の特性を把握し、理想型に整え、各種強化を施して行きます。
そして最後に『固有化』スキルを使って、使用者の魔力で染め上げる事で、更に1段階上のその人固有の装備に仕上げます」
「なるほど。なら、最初の馴染ませる所が最初の関門で、そこが済めば後は行けそうですね。よし、それならお手伝い出来そうです」
クキさんの肩に手を置いて頷いてみせる。
クキさんは「そんな簡単なことじゃない」って呆然と首を横に振っているが、まぁまぁと宥めて、もう一度素材に向き合って貰う。
「さあ、もう一度やってみてください。今度は大丈夫ですから」
「いえ、どう考えても無理ですよ」
「まぁまぁ、そう言わずに。騙されたと思って1回だけ。ちょっとだけで良いですから」
「……わかりました。1回だけですからね」
俺がクキさんの後ろから両肩に手を当て、クキさんが素材の一つに触れた。
その瞬間。俺の魔力がクキさんを経由して素材に送られる。
「な!!?」
突然の魔力の流れにクキさんが驚いているが、無事にクキさんと素材の間にパスが出来始めたのでそのまま続ける。
おお、いい感じに魔力が馴染んで来たんじゃないかな。
よし、確かここで魔力を高めた方が良いんだったよな。
「あ、ああ、あの。ジンさん」
「はい。あっ、もしかしてまだまだ足りないですか?」
「いえ、逆。逆です!」
「ぎゃく?」
今にして思えば興が乗ったというか、やらかしたというか。
気が付けば、全ての素材が眩い光を放っていた。
あ、これは、あれかな。
クキさんの焦り様から考えて、もしかして爆発したりするのかな。
急ぎ後ろに居るクオンに防御障壁を展開しておいて、自分達にも強化魔法を掛ける。
ちょうどその瞬間。
パリンッとガラスが割れるような音を発しながら素材が粉々になってしまった。
さらに魔力の突風が部屋中に吹き荒れ、素材の粉も巻き上がる。
「ちっ、大人しくしろ」
部屋全体を覆うように魔方陣を展開して、魔力も素材も一緒くたに掌握することで、何とか部屋の中は落ち着いた。
素材は粉々になって混ざってしまったけど、1箇所に固めて丸める。
大玉ころがしの玉サイズのそれをクキさんの前に持っていくけど、クキさんは顔を青くしたり赤くしたり忙しそうだ。
なら今のうちにクオンの様子を確認しておくかな。
「今の、クオンは大丈夫だったか?」
「うん。キラキラしてすごく綺麗だった!!」
「そっか、綺麗だったか。それなら、また今度やってみるか」
「ほんと!?やったー。楽しみー」
うん、子供は無邪気で良いな。
後はクキさんの方だけど・・・・・・
「あのー、クキさん。この状態から装備を作るのはもう無理ですか?」
「・・・・・・はっ!?いえいえいえいえ。むしろ最高の状態と言いますか。
あの、ジンさん。今度は私がスキルでサポートしますので、その素材の球に触れて頂けますか?」
そう言われて、今度はクキさんが俺の後ろに回って俺の背中に手を当てた。
クキさんの手からはカイロを当てたような熱と一緒に様々な装備品のイメージが流れてきた。
これが多分『鍛冶』スキルなんだろう。
俺はそれらをそのまま手から素材へと流すように意識する。
そうすると素材は、ふよふよぐにゃぐにゃと形を変えた後、9つの玉になった。
サイズで言うとビー玉くらいか。元のサイズから考えるとかなり小さくなったな。
9つの玉は俺の周りをクルクルと回った後、8つは俺の両手、両足、へそ、胸、頭、背中に吸い込まれるように入っていった。
残りの1個は目の前で明滅したかと思うと、スゥーっと見えなくなった。
何となく無くなった訳ではなく、全身を包み込んでくれているような、そんな感覚がある。
身体に入っていった8つも、物理的な感触は無いけど、意識するとそこに在ることは分かった。
「えっと、クキさん。これってどうなったんですか?」
クキさんの方を見ると、って、目を逸らされた。おーい。
「私としましては、鍛冶スキルを送ることで、ジンさんの理想の形へとご自身で自由に決めて頂こうと思ったのですが。
今のは七星や八宝と呼ばれる宝具と同種のものだと思います。
装着した者の意思を受けて自在にその姿を変えられるそうです、けど。いかが、ですか?」
恐る恐る聞いてくるクキさんを安心させる為にも色々やってみよう。
まずは、右手にナイフを出すイメージをすると・・・・・・おぉ!イメージ通りのナイフが出てきた。
一度仕舞って・・・・・・あ、消えた消えた。
金属以外もいけるんだろうか。例えば衣服とか革の篭手とか。・・・・・・大丈夫みたいだ。
装備品以外はどうだろう。左手に茶碗、右手に箸とか。・・・・・・出来るんだ。便利~。
「クキさん。これ凄く良いですね。最高の装備をありがとうございます」
「いえ。今回はほとんどジンさんのお力で、私はスキルで支援したに過ぎません」
「早速試し切りしてみようと思うのですが、適当な魔物の居る場所はありますか?」
「それでしたら山頂にある火口ダンジョンがよろしいでしょう。
あそこでしたら、滅多に人も訪れませんし魔物も段階的に強くなりますから」
「あ、ピクニックだね♪やったー」
なるほど。普段は火口ダンジョンの上層でピクニックをしているんだな。
クオンのその一言をきっかけに、お弁当を作って火口ダンジョンへと向かうことになった。
本当は試し切りはさくっと終わらせる予定だったんですが、なぜかダンジョン攻略が始まることに。
余談ですが、七星、八宝、九玉、十天と数が変わる毎に呼び名が変わります。
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無事に新しい装備を手に入れたジンは装備の性能を試す為にダンジョンへと乗り出す。
次回:火口ダンジョン
1階2階はピクニック感覚で行けるみたいです。暑いけど。




