炎妖狐の村へ
よろしくお願いします。
ちょこちょこ今まで出てきた人たちが顔を出していく予定です。
子狐のクオンを救い出せたので、まずは町の外へと向かう。
追手が掛かる可能性もあるから急いだ方が良いだろう。
その間、クオンはプライベートルームに入ってて貰った。
狐を連れた冒険者っていうのは目立つだろうしな。
ちなみにプライベートルームに入ったクオンは「不思議空間だー」と言ってはしゃいでいる。
そして特に何事もなく町の外へ。
まあ、今頃商業ギルドでは偽物のドラゴンの爪を床から引き抜くので忙しいのだろう。
そう、最後に置いてきたのは、ドラゴンの爪と同じサイズで、ドラゴンっぽい気配がする魔力で強化した岩だ。
囮作戦の卵と同じように、見た感じは本物に見えるはずだから、あのギュンターって男が間抜けであれば、ある程度の時間は騙されてくれるだろう。
あ、よく考えたら商人繋がりで回り回って、エリーに迷惑が掛かるか?
考え過ぎな気もするけど、情報だけは上げておくか。
『エリー、おはよう』
『あ、おはようございます、ジンさん』
『今、ミスリニアに居るんだけど・・・・・・』
今朝の商業ギルドでの顛末を伝えると、向こうから怒った気配が伝わってきた。
『ジンさん。それは明らかに商業ギルド側の犯罪です。というか、それジンさんじゃなかったら殺されているじゃないですか』
『そっか、言われてみればそうだな。それは良いんだけど、この後、もしかしたら事を構えるかもしれないけど、エリー達には迷惑が掛かったりしないだろうか』
『はい、大丈夫です。むしろこちらから抗議文を送りましょうか?』
『いや、それには及ばないさ。俺個人は商業ギルドに目を付けられても何の問題もないからな』
『そう、ですか。分かりました。でも、問題が起きたら直ぐに連絡してくださいね。商会の総力を挙げて抗議しますから』
『あ、ああ。ありがとう』
商会の総力って・・・・・・。
最初会ったときは馬車1台の行商人だった筈なんだけど、いつの間にか随分と力を付けたんだろうか。
そう言えば、ハーフエルフの村であった時は馬車が2台に増えていたしな。
ま、好調であることに越したことは無いか。
商業ギルドの事は帰ってきてから考えるとして、まずはクオンを送り届ける為に北の山の中腹までやってきた。
あ、そういえばあの母狐がどこに住んでいるかは聞いてなかったな。
まあ、クオンに聞けば分かるか。ということで、クオンにプライベートルームから出てきてもらう。
「クオン、君の住処まで案内してもらってもいいか」
「うん、いいよ。着いて来て」
駆け出したクオンについて行った先は、切り立った崖に出来た洞窟。
と言っても奥行きは5m程しかなく、熊などのねぐらだと言われたら納得するだろう。
躊躇無くなかに入ったクオンは一番奥より少し手前にある岩をぺしぺしと叩くと奥の壁が消えて道が出来た。
なるほど。種族特有の魔力に反応する隠し通路って所か。
「この奥だよ」
そう言ったクオンの後をついて行けば、程なくして洞窟を抜け、広場と村が見えてきた。
一見どこにでもあるような人の村に見える。強いていえば、ミスリニアのように鍛冶場の鎚を振るう音が聞こえてくるくらいか。
村に近づくと、向こうから金髪の着物っぽい服を着た女性がこちらに走ってきた。
やはり、人間の村なのか。
そう思うのもつかの間、クオンがその女性の胸元に飛び込んでいった。
「お母様、ただいま戻りました!」
「ええ、よく無事でしたね。人間に捕まっていたと聞きましたが、怖くはありませんでしたか」
「はい。あのお兄さんが助けてくれたので、全然怖くありませんでした」
「そう、それは良かったわね」
女性が優しくクオンを抱きながら頭を撫でてあげると、クオンも気持ち良さそうにしている。
俺が近づいていくと女性と目が合った。
この目、いや、この魔力は間違いなく昨日の母狐だな。
「こんにちは。昨日の夜ぶり、ですよね」
「ええ。娘を助けて頂き、ありがとうございます。さ、立ち話もなんです。我が家へいらしてください」
そう言って村の一番奥にある工房付きの家に招かれた。
昨日に比べて口調が穏やかなのは落ち着いたからだろうな。
村の中を通る間、通り過ぎる人たちは全員黄色~赤茶色の髪の毛をしていて、黒髪は俺だけのようだ。
そのせいで俺のことを珍しいものを見るように眺めていたが、気軽に挨拶をしてくれたことから、のどかな村なのがよく分かる。
居間に通されて椅子に座ると対面に女性が座り、その横に金髪の女の子が座った。
いつの間にか女性が抱いていたクオンが居なくなっていることから、この女の子がクオンなのだろう。
「改めまして、クオンの母のクキと申します。この度はクオンを助けて頂き、ありがとうございました」
「クオンです。お兄さん、ありがとうございました」
「俺はジンです。今回は無事に解決できて良かったです。
ところでお二人、というよりこの村の住人と言うべきですか。どういった種族なのですか?」
「私達は炎妖族と呼ばれています。古くは炎狐と人間の血が混ざり合って出来た種族ではないか、とも言われています。
ご覧の通り、狐の姿と人の姿を自在に切り替えられるのですが、時々炎狐と間違われるのが困りものですね」
クオンが連れ去られたように。か。
もしくは毛皮目当てで襲われることもあるのかもしれないな。
「ところで、クキさん」
「はい、なんでしょう」
「リウマリアという女性をご存知ですか?クキさん宛にと手紙を預かって居るのですが」
「まあ、リウとお知り合いなんですね。言われてみれば、ジンさんからは薄っすらとエルフの香りがしますね」
「つい先日まで、エルフの森に居ましたから。はい、こちらが預かっている手紙です」
「拝見しますね。ってまたリウらしいわね」
読み始めたと思ったら、くすっと笑っていた。
どんなことが書いてあったのかと考えていたら、クキさんが手紙の1枚目を見せてくれた。
『手紙を持ってきたその方、ジン様はエルフの[大恩人]です。どうか方の力になってあげて。・・・・・・詳しくは後の紙に書いておくわ』
[大恩人]の部分が思いっきり強調されていた。
なるほど。リウさんらしい、ね。
クキさんは2枚目以降の手紙を読まずに仕舞ってしまった。
「さて、ジンさん。あなたはリウだけでなく、私達の恩人でもあります。何なりと望みを仰ってください」
「そういう事であれば、元々この地に来たのは、腕の良い鍛冶師に自分の装備を作ってもらう為だったのですが、誰か心当たりはありませんか?」
「あら、そういうことでしたか。リウはそれを見越して私を紹介したのね。
私、これでも大陸随一の鍛冶師であり錬金術師であると自負しております。
そうですね、早速一つ作って差し上げましょうか。
クオン、ジンさんを工房へお連れして。私は準備をしてから向かいます」
「はい、お母様」
ふたりは立ち上がると、クキさんは別室に移動し、クオンは俺の手を引いて工房へと案内してくれる。
「さあ、お兄さん。ここが我が家自慢の工房ですよ」
そう言って紹介されたのは、床も壁も天井も黒で統一された部屋だった。
知らない人が見たらだたの何もない部屋なんだろう。
分かる人には、部屋全体が強力な炎耐性が付与されて魔素が充填された空間だと理解できる。
そこでクキさんが部屋に入ってきた。
先程の着物っぽい衣装から作業着へと変わっている。
「お待たせ致しました。さて、素材は何を使いましょう。奥の部屋に行けば各種金属類の備蓄がありますが」
「それなら、ドラゴン素材は使えますか?」
部屋の空きスペースに、ドラゴンの爪、牙、鱗、鬣、ついでに卵の殻も出してみる。
それを見たクキさんは目をキラキラさせていた。
「まあまあまあ!これは上位種のドラゴン素材ばかりじゃないですか。
これだけあれば伝説級の装備だって作れそうですよ!!
腕が鳴ります!待ってなさい、私がさくっと最高に加工してあげましょう」
テンションが上がってさっきまでの凜とした雰囲気がガラッと変わってしまった。
どうやら職人魂に火をつけてしまったようだな。
クキさんは着物の似合う女性、というイメージです。
当初は性格も雌狐キャラになるはずでしたが、作者の趣味で清楚系になりました。
くっ、キャラかぶりがw
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無事にクキに出会えたジン。
そこで思いがけず自分の装備を作ってもらえることになった。
次回:新装備
メイン武装は・・・・・・




