商業ギルドとの交渉
よろしくお願いします。
面倒な交渉はさらっと終わらせたいですね。
明けて翌日。
俺は朝一で再び冒険者ギルドの受付に来ていた。
「おはようございます。ジン様。今日は随分とお早いのですね」
「おはようございます。受付が混む前にと思いましてね。今日は一つお聞きしたい事があってきました」
「はい、なんでしょう」
「オークションに商品を出品するにはどうすれば良いでしょうか。どこかに元締めがいらっしゃるのでしょうか」
「オークション、ですか。それでしたら、南区画にある商業ギルドが管理していますので、そちらでお伺いください」
「なるほど、ありがとうございます」
チップに銀貨を渡して冒険者ギルドを出る。
南区画の商業ギルドに向えば、昨日炎狐の娘が居たところのすぐ近くだった。
恐らく商業ギルドの地下倉庫なんだろう。
商業ギルドに入ると受付にまっすぐ向かい、紙に以下の文を書いて渡した。
『ドラゴン素材をお持ちしました。オークションに出品を検討する前にギルド長と相談したいのですが、取次ぎをお願いします』
最初訝し気に俺を見ていた受付の男性が血相を変えて、上の階へと走って行った。
程なくして、さっきの男性が戻って来た。
「ギルド長がお会いになるそうです。どうぞこちらへ」
先導する男性について2階に上がりギルド長室へと案内された。
中に居たのは50代くらいの白髪の男性で、彼がギルド長だろう。
「ようこそいらっしゃいました。どうぞお掛け下さい」
流石商人というべきか、丁寧な姿勢で応対してくれる。
「それで、伺ったところによると、ドラゴンの素材をオークションに出品したいというお話でしたが」
「ええ、こちらです」
そう言って、アイテム空間から応接机からはみ出すサイズのドラゴンの爪を取り出すと、流石のギルド長も驚いたようだ。
「おおぉ。これは素晴らしい。これほど立派なドラゴンの爪はこの町が始まって以来初かもしれません」
「そう言ってもらえると、持ってきたかいが有ったというものです」
「これは幾らの値が付くか見当も付きませんな」
「それはそれは。それでギルド長。折り入って相談があるのですが」
「伺いましょう」
「実は私、欲しいものが一つありまして、とある筋からそれが今回のオークションで出品されるかもしれないという情報を手に入れました。
もしそれをオークションに掛けることなく今すぐ頂けるというのであれば、このドラゴンの爪を代わりにお譲りしても良いかと思っております」
「なんと!で、その欲しいものとはいったい何でございますか」
「珍しい炎狐の子供がいるそうですね。実は娘が大の狐好きでしてね。ドラゴンの爪よりも素敵な洋服や宝石よりも、そっちの方が喜んでくれるんですよ」
「はっはっは。なるほど。実に子煩悩ですな。同じ子供を持つ身としてはよく分かりますよ。少々お待ち頂けますかな」
ギルド長は人を呼ぶと二言三言指示を出していた。
「いま、職員に狐を連れてくるように指示しましたので少しお待ちください。その間に、この爪の詳しい鑑定をさせて頂いてもよろしいですかな?元になったドラゴンの属性によって価値も変わるでしょうしね」
「ええ、勿論良いですよ。心行くまで調べてください」
「ありがとうございます。おい、ギュンター。入ってきてくれ」
「はい」
ギルド長の声で部屋に入って来たのは、痩せすぎな眼鏡の男だった。
「失礼しま、おぉ!こ、これは!?
この光沢、この艶!はぁ~、いい。いいわ~」
部屋に入るなり、ドラゴンの爪に飛び付いていた。
……頬擦りまでしてるけど、大丈夫なのか?
「ごほんっ」
「……はっ。失礼しました。私、一級鑑定士のギュンターでございます」
「冒険家のジンです」
「冒険者様ですか。ドラゴンの爪を持ち込まれるとは、さぞや高ランクなのでしょうな」
「いえ、ランクはまだEですよ」
「はぁっ!?」
ランクを伝えた瞬間、ギュンターという男の視線が冷やかになった。ギルド長も低かった態度がなりを潜めて、見下した目付きになっていた。
同時に俺の全身をじろじろと見てくる。
……これは鑑定を掛けられているな。
「で、これはどこで盗んできたんだ?」
「ん?どういう意味ですか?」
「しらばっくれるな。どうせ、どこかのAランクパーティーの戦利品を盗んできたんだろう」
「そうだな。どうりで話が美味すぎる訳だ。Eランクがドラゴン素材を取ってこれる筈が無いからな」
「なるほど。随分とこの町はランクに拘るのですね」
ため息をつきながら、ドラゴンの爪をアイテム空間に仕舞う。
消えた爪を見てギュンターの顔が驚愕に歪む。
「き、きさま!!私のドラゴンの爪をどこへやった!!」
いや、お前のじゃないからな。
「は、そうか。アイテム袋か!はははっ。馬鹿め、自分の罪を露呈したようなものだぞ」
「は??ギルド長、彼の言葉の意味が分かりませんが」
「ふん、今自分で私達の目の前からドラゴンの爪を奪い去ったではないか。どうせ、手に入れる時も同じような手口でやったのだろう」
あー、なるほど。Aランクパーティーの隙をついて、ドラゴンの爪をアイテム袋に入れて持ち去ったんじゃないかって事か。
それ、相当間抜けなパーティーじゃないだろうか。
そう考えている内に、ギュンターが扉から外に声を掛けていた。
「誰か。ロベルト達を呼んでくれ。窃盗犯を見つけたんだ!!」
「あ、はい!!」
下の階から返事があってから程なくして衛兵と思われる鎧を身に付けた男が5人入ってくる。
ただ、5人はすぐに俺を捕まえることなく、ギルド長の指示を待っているようだ。
……なるほど。私兵を呼んだわけか。
そしてギルド長が威厳たっぷりに話し始める。
「さて、お前に選択の権利をやろう。大人しく先ほどのドラゴンの爪を置いて去るか、生涯地下牢で暮らすかだ。ドラゴンの爪を置いて行くなら、私達は今日ここで有ったことを忘れてやろう。
あぁ、一応教えておいてやるが、ドラゴンの爪の窃盗は重罪だ。最悪死刑もあり得るだろうな」
「……」
「どうした。驚きすぎて言葉も出ないか」
あ、いや。確かに驚いた。
こいつらの馬鹿さ加減に。
「あのー、1つよろしいですか」
「なんだ」
「俺がここでドラゴンの爪を出さないという選択をした場合、あなた方がドラゴンの爪を手に入れる機会が失われる事になりますよ。俺のあれは俺しか出し入れ出来ないですから」
「はっ、そんなことか。なら彼らがお前を説得してくれるさ。彼らは元Aランク冒険者だからな」
私兵達はこれ見よがしに腰の剣に手を掛けた。
そうか。つまり元々地下牢に送る気は無いって事なんだな。
「ギルド長」
「今度は何かね。命乞いかな?」
「ある意味そうですね。あなた方の命が失われる前に、先ほどの俺の提案を飲みませんか?」
「何を馬鹿、なぁ!?」
俺の発動させた冷気魔法で部屋の温度が一気に下がる。
私兵を含めてギュンターやギルド長も、ガタガタ震えて動けないようだ。
「あーこまりましたねー。いそがないともっとさむくなりますよー」
「む、き、貴様。まさか雪男か!?」
「いえいえー、あつくもできますよー」
むっちゃ棒読みで煽ってみる。
ついでに雪男に間違われないように、今度は部屋の温度を40度くらいまで上げてみる。
あ、ギュンターが倒れた。やっぱり急激な気温の変化は体に負荷がかかるか。
「貴様、こんな事をしてタダで済むと思っているのか!?」
「あ、お構いなく。その頃にはあなた方は全員死んでいますから。で、どうしますか?急がないとギュンターは死ぬでしょうし、その私兵達が一歩でもこちらに動けば、部屋が炎上するまで気温が一気に上がりますよ」
「くっ!わ、わかった。取引に応じよう」
それを聞いて部屋の温度を元に戻し、ギュンターに治癒魔法を掛けておく。
まったく、無駄に手間取ったな。
地下倉庫から、引っ越し用段ボールくらいのサイズの檻が運ばれて来た。
中に居るのは首輪を掛けられた子狐だった。突然運ばれてきょろきょろしている。
念のため手を当てて確認する。うん、昨日の子で間違いないな。
『こんにちは』
『あ、昨日の!』
『そうだ、よく分かったな。名前はジンだ。君はクオンであってるか?』
『うん。ってどうして僕の名前を知ってるの?』
『昨夜、君のお母さんに会ったんだ。それで君を助けてくるように頼まれたのさ』
『そうだったんだ。ありがとう、お兄さん』
念話で名前も間違いないことを確認する。
後はこの子を連れて帰ればミッションコンプリートだな。
そう思ったところで、私兵達が剣を抜いて襲い掛かって来た。
「はぁっ!」
「うら!」
「死ね!!」
キィン。
俺の体に当たった剣は、まるで鉄にでも打ち付けたかのようにはじき返される。
ステータスの差と、強化魔法による防御力アップによって、服すら傷んでいないな。
しかし念話に意識を持って行き過ぎて、隙を見せ過ぎたか。
ま、殺しても後が面倒だろうし、無視だな。
「ギルド長。この檻は壊してしまいますね」
そう言いつつ、鉄の檻を素手で破壊する。
さらに子狐の首に掛かっていた首輪も外して自由にしてあげる。
そんな俺を見て、ギルド長は腰を抜かしてしまったようだ。
「ば、化け物か」
「ただのEランク冒険者ですよ。ああ、これはこの狐の対価です」
ドガッ!!
「ひぇっ」
アイテム空間から取り出したそれを、ギルド長のすぐ横の床に突き刺して商業ギルドを後にした。
さて、これで商業ギルドは出入り禁止だな。
まぁこの後、用も無いだろうから問題ないか。
交渉相手を年齢性別その他で判断してはダメですよね。
ちなみにギルド長たちが穏便に交渉に乗れば、きつね一匹でドラゴンの爪はゲット出来ていました。
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無事に子狐クオンの救出に成功したジン。
母狐の元へと送り届けると、その礼にと狐の村へと招待されるのだった。
次回:炎妖狐の村へ




