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手当ての達人  作者: たてみん
第1部 第4章:世界探訪「鉱山都市とダンジョン編」
34/63

魔物との約束

よろしくお願いします。


酒場のテーブルに着いた俺たちは、適当に注文を済ませる。


「改めて言わせて。今回は本当にありがとう。あなたが居なければ彼は死んでいたわ」

「ああ。俺自身もう駄目だと半分諦めていたんだ。最後にリリン、彼女が無事かどうかだけが心残りだった」

「気にしなくて良いさ。俺も偶然通りがかっただけだ」

「そうもいかないわ。何かお礼をさせて貰えないかしら。聞けばあなたはまだ低ランクなのよね。なら、一緒にクエストを受けるのはどうかしら。私達は既にBランクになっているから、今のあなたより報酬の良いクエストも受けられるようになるわ」


そう提案してくれるが、俺は首を横に振る事にした。


「いや、提案は嬉しいが、当分は一人で動こうと思う。その代わりと言っては何だけど、幾つか質問させて貰っても良いか?」

「ええ、私達で分かる事なら喜んで」

「じゃあまず、今回襲ってきた魔物について教えてくれ」


そう言うと、ダーミヤンの顔に後悔の色が広がった。


「今回俺が襲われたのは、いや、返り討ちにあったと言うべきだな。あれは高レベルのメスの炎狐だった。

炎狐っていうのは北の山に生息する魔獣で、毛皮が高級品として取引されるんだ。

それでサポートをリリンに任せて俺が一気に切りかかったんだが、逆に強力な火炎魔法の一撃で吹き飛ばされたんだ。

一応、対火炎防具は付けていたんだがな。そんなのお構いなしにあのざまだ」


確かにこげた防具の残骸はそれなりに質の良さそうなものだった。

多分、その防具が無ければ即死だったんだろう。

ダーミヤンの言葉を引き継いでリリンが先を続ける。


「あの攻撃は、彼が攻撃してきたから反撃しただけだと思うわ。

その炎狐は人の言葉で『私の娘をどこにやった』って言ってたわ。私が『知らないわ!』って叫ぶと興味を失ったのか、別の場所に走って行ったの。出会ったのは北の山の中腹くらいかしら」

「炎狐っていうのは人の言葉を話すものなのか?」

「いえ、私も初めて知ったわ。もしかしたら似ているだけで別の魔物だったのかもしれないわね」


炎、狐、娘か。

これはビンゴみたいだな。


「一つ頼みがあるんだが。この後、魔物の報告をギルドに上げるよな。その時に狐の魔物だったことは伏せて貰っても良いか?適当に突然襲われて気が動転して良く確認出来なかったとか言って」

「え、ええ。それくらいは問題ないけど。でも、どうして?」

「他の冒険者に先を越されたくないから、という事にしておいてくれ」

「……あまり追及しない方が良さそうね。分かったわ」


上手く行けば穏便に問題が解決しそうだし、解決する前に他の冒険者に討伐されたら目も当てられないからな。

と、そこで注文した料理が来たので、乾杯しつつ、サイコロステーキっぽい肉を頬張る。

鶏肉に近い食感だけどなんだろうって店員に聞いたら大トカゲの魔物の肉だった。

う、まあ、美味ければ肉は肉だな。

一息ついたところで話を続ける。


「ありがとう。で、次の質問なんだが、この町で貴重品や希少品を扱っているところに心当たりはないか?」

「そりゃ、町の南区画は半分くらいの店は宝石や貴金属を扱っているぞ。

だがそうだな。希少品となると、月に1回行われるオークションがいいだろう。

数年前にはドラゴンの鱗とかも出品されたって話だ。

ただ、色々ときな臭い話は聞くから気を付けろよ」


なるほど、オークションね。裏でどれだけの賄賂や陰謀が渦巻いているかって話だろうな。

でもそこなら珍獣とか扱っていても不思議ではないか。

あと、ドラゴンの鱗って、アイテム空間に山積みになってるはずだけど、言わない方が良さそうだな。


「次のオークションはいつなんだ?」

「えっと、確か月初めの日曜だから、3日後だな」

「そうか、意外と近いな」

「何か欲しいものがあるのか?そんなにある訳じゃないが、俺たちの溜めている金を貸すか?」

「いや、それには及ばないさ。それに、お前たちは燃えてしまったダーミヤンの鎧も買わないといけないだろ」

「あー、そうだった」


そう零して落ち込むダーミヤン。

まあ相当高かったんだろうな。


「じゃあ、最後に、クキっていう女性に心当たりはないか?赤みがかった金髪の女性らしいんだが」

「クキ……いや、俺は知らないな」

「ごめんなさい。私も分からないわ」

「そうか。ならもし今後知ってる人が居たら教えてくれ」

「ああ、分かった」

「じゃあ、俺は急ぎの用が出来たからもう行くな」


最後に豚串っぽいのを貰って席を立ち、引き止められる前に酒場から出る事にした。

さて、次の犠牲者が出る前に、まずは母狐に話を通しておく必要があるな。


門は既に閉まっている時間だったので、飛行魔法で一気に町の外へ出て北の山を目指す。

強力な魔物だって話だから気配を探ればすぐに見つかりそうだけど……あれかな。



そこには、月夜の下でも燃えるように輝く狐が居た。

まず間違いなく、ダーミヤンを燃やした炎狐だろうな。

リリン達の話では言葉が通じるくらい頭が良いらしいけど。


「こんばんは」

「む、なんだお前は。私は今急いでいる。用があるなら後にしなさい」

「娘さんを探していると聞いたのですが、間違いありませんか?」

「何!!貴様、娘の居所を知っているのか??」


そう言った瞬間、一気に炎狐が炎を纏った。

なるほど、これは一撃で消し炭にされてもおかしくないな。


「それっぽい気配を町で見つけた、というだけです。えっと、尋ねますが、娘さんの魔力はこれで間違いないですか?」


そう言って、さっき地下のあの子にリンコを転送した時に逆流して来た魔力を炎狐の方に送ってみる。


「ん、おお!これは間違いない。娘のクオンの魔力だ」

「そうですか。それなら娘さんはひとまず無事なので安心してください」

「そうか。知らせてくれて感謝する」


炎が静まったので怒りは少し落ち着いたみたいだ。

その代わり、5mくらいあった距離を一気に近づいて、鼻息荒く顔を寄せて来た。


「それで、クオンは今どこに?」

「町の南区画の地下、恐らくどこかの商店の地下倉庫でしょう。そこに閉じ込められているみたいですね」

「くっ、何という事だ。今すぐ行って助けてあげなければ!」

「あ、それはちょっと待ってください」


そのまま町に飛び込んで行ってしまいそうな炎狐を押し留める。


「なぜ止める。今にもあの子が腹を空かせ酷い目に遭っているのかも知れんのだぞ」

「それなら、夕方過ぎに俺の方からリンコの差し入れと防御魔法を付与しておいたので、大丈夫です。

それよりも、今のあなたが町に入ったら大騒ぎになりますし、最悪娘さんを人質に取られる心配もあります」

「む、それもそうか。ならばどうすれば」

「俺に2日貰えませんか?娘さんを無事なままで取り戻せるように動いてみます。勿論その間は僕の方から食べ物を送ったりしておきますので」

「……良かろう。だが2日待ってもクオンが帰ってこなければ、今度こそ我自ら町へと向かうからな」

「ええ、必ず期待にそえるようにします」


そう言ってその場は別れて、俺はその晩は明日に備えてプライベートルームの部屋で休む事にした。


冒険者達は今回限りの見込みです。

母狐とバトルかとも思いましたが、穏便に話は進みます。


########


母狐との約束を果たす為に、子狐の救出に乗り出すジン。

そこではまた、ランクの問題でひと悶着起きるのだった。


次回:商業ギルドとの交渉


真っ当な交渉は対等の立場でこそ成り立つ

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