エルフ聖誕感謝祭
よろしくおねがいします。
無事に10万文字突破しました♪
そして地上に戻り、まずは世界樹に地下の魔物を殲滅できた事を報告する。
続いて、グラウ老師とララのお父さんに報告する。
さて。これで後は無事に祭りが成功して、森全体に活気が戻れば一段落だな。
祭りの開催までまだ時間があったので、世界樹の根を治療した後は、オニクイソウ改め、オニクイヒメ達を連れて森の中を歩き回っていた。
その中で嬉しい誤算が幾つかあった。
一つは、オニクイヒメの瘴気吸い取り能力は、動物だけでなく、植物にも有効だった。
今はもっぱら、森の木に噛み付いている。
「かぷっ。ちゅ~(うまうま♪)」
二つ目は、この頻度で増え続けると外来種による被害が心配だったのだが、どうも背中から出すのは種だけでなく純粋な養分の塊なども可能らしい。
結果として、樹木の根を通じて大地の瘴気を吸収して無害に浄化した養分を大地に還元している。
そして最後に、世界樹の地下など、既に増えすぎた分に関しては、休眠モードを取る事で、その活動を最小限に出来るようだ。
元々は冬の間の冬眠のようなものらしいが、今回で言うと瘴気の濃さに合わせて、寝起きを調整するそうだ。
また、外縁部を歩いている時に掃除人の蜘蛛の魔物とも会うことが出来た。
最初、オニクイヒメがどう反応するか心配だったが、普通に仲良くなっている。
一見、捕食者と被捕食者の関係だが、お互い森を守る者という部分で共感したらしい。
さらに世界樹の地下の事を伝え、掃除人の何体かにはそっちに移り住んでもらえることになった。
これで早々今回のような問題は起きなくなるだろう。オニクイヒメもかなりの数を残してきたしな。
おまけで、折角外縁部まで来たならと、ハーフエルフの集落を回って、人間の町から助けた子供達が元気にやっているか見て回った。
どうやらみんな無事に帰れたらしい。また、ハーフエルフ達もほんの少しだが瘴気を取り込んでいたので浄化してあげる。
一番困ったのは、娘を救ったお礼に、上の娘を愛妾にいかがですかと紹介されたことだな。
いや確かに俺も男だし、美人の女性にはにかみながら上目遣いで迫られたら、一瞬どうしようかと心がぐらついたが、何とか堪えた。
というか、後ろからオニクイヒメ達のニコニコ笑顔が突き刺さってくる。
その代わり、数日後のエルフの祭りの時に一緒にお祭り騒ぎをしてもらうことと、薬草や木の実などの森の特産品を貰うことで手を打った。
後はオニクイヒメを紹介しておく。今後は掃除人と一緒に外縁部の警備をしてもらう予定だと。
余談だが、エリーの商会の人とも会った。この短期間でエリーの行商も複数の部下を擁した大商会に発展しつつあるようだ。
商会の中で一番エリーが飛び回っているので、なかなか捉まらないと愚痴られたが、がんばって欲しい。
そして、いよいよ祭り当日がやってきた。
昨夜聞かされたが、俺も役割があるらしい。基本的にはララ達と一緒に歩けば良いそうだが。
「おはよう、ララ、ルゥ。今日はよろしくな」
「おはようございます。ジン様。こちらこそよろしくお願いします」
「おお、おはようございます、ジン様」
「ルゥは今から緊張してどうするんだ」
「そんな事言っても、こんな大役任されるのは初めてですから」
「大丈夫だ。舞の稽古もずっとやってたんだろ。それに少しくらい失敗しても里のみんなも世界樹も怒ったりはしないさ。だから気楽にな」
「は、はい。がんばります」
流石に姉のララは平気、あ、いや。ララも結構緊張してるみたいだな。さっきから笑顔がぎこちない。
そこにララ達のお母さんのリウさんが顔を出した。
「おはようございます。ジン様。そろそろ、お時間ですので御移動をお願い致します」
「はい、分かりました」
「ララとルゥもしっかりね」
「「はい」」
俺達は最初、里の外からスタートするらしい。さしずめ巫女の帰還と言った所かな。
里の方から聞こえてきた大太鼓の音を合図に里を目指して森を進む。
すると道の両脇からエルフの若者達が出てきて小太鼓を叩き槍を持って踊って歓迎してくれる。
トントントントコ♪トトント♪トントコ♪
「はぁ!せいっ!ぃやっ!はっ!」
目の前まで来ると若者達が両脇に避けて、その後ろからグラウ老師が現れる。
一礼して里へと向かうグラウ老師の後を付いて行くと、俺らの後ろを若者達が踊りながら付いてくる。
続いて俺達が里に着くと、里の大人たちが道の両脇で太鼓や笛を鳴らして、小さい子供達がクルクルと舞を披露する。
「(ジン様。良かったら皆さんに手を振って差し上げてください)」
そうララが小声で伝えてくるので、小さい子供達に向けて手を振ると、キャーキャー言いながら喜んでくれた。
そして神社に到着。
鳥居のところでグラウ老師が道の脇に避けて、俺達に先を促す。
どうやら老師の案内はここまでのようだな。
鳥居をくぐると、ララとルゥとは別れる。
代わりにリウさんとロムさんが迎えてくれて神社の裏手へ。
神楽の舞台の横を抜けて世界樹の麓に用意された椅子、というか、神輿へと案内される。
里の人たちが舞台の見える位置に座り、ララとルゥが舞装束を纏って舞台へと登り、世界樹に向けて頭を垂れた
ベン。べん、べんべんべんべん、べん。べべんっ♪
舞台脇に控えた長老衆の奏でる音楽に合わせて舞が始まる。
最初は静かに、ゆっくりと。
続いて左右に大きく移動する。右に行く時は振りを小さく、左に行く時は大きく。
そしてクライマックスに差し掛かったのか、力強い動きで舞い上がる。
長老衆も弦よ切れろと言わんばかりに、激しく音楽を奏でる。
一瞬の静寂・・・・・・。
最後は楽しげに、時に二人で手をとりながら、クルクルと舞い踊る。
最後の礼を受けて、大きく拍手を送ると、他の皆も割れんばかりの拍手を二人に送った。
しかして、その音が一瞬にして止まった。全員が全員、俺の方を凝視している。
え?ここで俺が何かするのか?聞いてないんだが。
そう思ったところで、俺の横に女性が立った。
・・・・・・初めて見る人だな。里にはいなかったはずだけど。
そっと差し出された手を取る。
『どうぞこちらへ』
そう念話が送られてきた。
・・・・・・あれ?この声はどこかで聞いた気がするな。
そして導かれるままに世界樹の中心へとやって来たところで、彼女が俺に傅いた。
『あなた様に最大限の感謝を。本当にありがとうございました』
そう言って、スーッと消えていく。
それと同時に世界樹が光り輝き、葉っぱから胞子のような光が森全体へと飛んでいった。
どうやらさっきのは世界樹の精霊だったのだろう。
思えばあの声も世界樹に話しかけた時に聞こえた声だった気がする。
「ジン様。お迎えにあがりました」
「戻りましょう。ジン様」
どうやら、ぼーっとしていたようだ。
迎えに来てくれた、ララとルゥに連れられて戻ると、異様な熱気が待ち構えていた。
オオオオオォォォォォ!!!!
「「「ジン様!ジン様!ジン様!」」」
「「ジン様万歳!!ジン様万歳!!」」
・・・・・・えっと、何これ。
流石の俺でも、このお祭りの主旨が俺の行動と密接に関係してるんだろうなとは思ってたけど。
この盛り上がり具合は一体なんだろう。
そう思ってララに目で聞いてみる。
「先程、ジン様の隣にいらっしゃった女性は、世界樹の精霊様です」
「あ、やっぱりそうだったんだ。で、それとこの盛り上がりはどんな関係があるんだ?」
「精霊様が姿を現すのも異例中の異例ですが、さらにあの精霊様の態度を見てしまうと、その・・・・・・」
そう濁されたけど、ある程度その意図は分かってしまった。
いかんな。このままだと本当に神の御使い様に祭り上げられそうだ。
とは言っても、今ここで逃げ出す訳にも行かないし、今日一日は辛抱だな。
そしてさっき座っていた椅子のところまで戻ってきた、ってこれもしかしなくても最初から神輿のつもりだったんだな。
「「「ジン様!ジン様!ジン様!」」」
「「「ジン様!ジン様!ジン様!」」」
あー、これって俺が鎮めないと終わらない奴か。こういうのは柄じゃないんだがな。
俺がすっと右手を上げると、それまで大騒ぎだった人たちがピタッと静まる。
え、スピーチ?しないとだめ?そうですか。
「えー、皆さん。これまで世界樹を蝕んでいた病気は無事に治りました。
ですが、まだまだ世界樹もそしてこの森全体も、完全に元気を取り戻したとは言いがたい状態です。
なので本当に大変なのはこれからです。これからこの森に住む人々が力を合わせて、森の復興に努めてください。
まあ、とは言っても今日一日は、皆で世界樹が復活したことを祝い、大いに盛り上がって行きましょう。
今日という日を皆さんと共に迎えられたことを心から嬉しく思います」
そう言って礼をすると、割れんばかりの拍手が巻き起こる。
ふぅ。アドリブで話してみたけど、この反応からして、問題なかったみたいだな。
しばらくして、リウさんとロムさんが仕切って宴会へと皆を促していく。
「お疲れ様でした、ジン様。大変素晴らしいお言葉でした。後は普通に皆で騒ぐだけですから、ジン様はゆっくりなさってください」
「ああ、そうさせてもらうよ。まったく、先日の戦闘よりよっぽど疲れたよ」
そうして神社に入ってゆっくり休ませてもらった。
明日から外に出るのも大変そうなのが困るな。
そんな訳で、「エルフを救ってくれた聖人が誕生したことを世界樹に感謝する祭り」でした。
次回は繋ぎを入れて新章に入っていきます。
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無事に世界樹を救い、エルフの森に平和をもたらしたジン。
心残りを片付け、次の地へと思いをはせる。
それを見送る者たちも新たな決意をするのだった
次回:祭のあと
征く者と、追う者。そしてそれを見守る者たち。




