地下ダンジョン攻略
よろしくお願いします。
外来種による侵攻を行う主人公。
エルフの里に帰る途中。
オニクイソウの品種改良を里の中で行って万一、失敗したらやばいと思って、以前エルフの少年たちに襲われた辺りで実験してみる事にした。
プライベートルームからオニクイソウの鉢植えを取り出して等間隔に円になるように配置する。
その円の中心に立って魔法陣を作る。
鉢は10個だから、☆2つ重ねて各頂点に鉢を重ねる。
はぁぁーー。すぅぅーー、はぁぁーー……
軽く目を閉じ、呼吸に合わせて魔方陣に魔力を流し込む。
十分に魔力が満ちた所で手を当てて成長するイメージを伝える。
害虫魔物を食べて無毒化するように分解、排出して大地に還元する。
食べるのは、澱みや瘴気、毒素に限定することで、世界樹を傷付けないようにする。
ある程度、繁殖してほしいが、生態系を破壊しないように。
見た目?可愛い方が良いけど……。
最後のが余計だったのか、目を開けたら女の子の姿をした元オニクイソウが鉢の上に立っていた。
「ん~♪」
言葉は話せなくても声は出せるらしい。
あと表情も、って。どこかエリーっぽいな。
これは運んで来てくれたのがエリーだからだろうか。
10体のオニクイソウ(エリー姿+肩から触腕)に囲まれる、なんとも不思議な光景だ。
「えっと、言葉は分かるかな」
「うんうん、コクコク(大丈夫です、マスター)」
あ、なるほど。魔力のパスが通ってるから思考も伝わって来るんだな。
「この後、世界樹の地下に行って、そこに蔓延っている魔物をみんなにやっつけて欲しいんだが、その前に一度地上で試しておこうと思う。
森の中にいる魔物たちを捕まえて、澱みや瘴気だけを吸い取って開放してくることって出来るかやってみてくれ」
「ん♪(はい、いってきます)」
一声あげて、三々五々に分かれて森に入っていく。
えっと、みんなの様子は何となくなら把握できるようだ。
お、早速2体が狼の群れにぶつかったな。
って、数が10倍くらい違うんだけど、大丈夫か?
そんな心配を余所に、手で掴んだり触腕で挟み込んだりしてる。
おお。捕まえた狼がさぁーっと澱みが吸い取られて綺麗になっていく。
綺麗になった後は眠っているのか、そのまま地面に置いて行かれる。あ、起きた。よし、元気みたいだな。
ふむ。狼サイズで1匹1秒くらいか。12匹居た狼の群れも5分で処理してしまった。
他の所でも爬虫類サイズから熊まで対応出来ている。
特筆すべきはゴブリンなどの元から魔物として発生したもの。これらは肉体を維持できずに塵になってしまった。
『それくらいで良いから、帰ってきて』
『『はーい』』
帰ってきた個体から、よく出来ましたと頭を撫でながら、ご褒美に魔力を送る。
「にへへー(にへへー、気持ち良い~)」
すると、ぽこっていう音と共に彼女らの背中から何かが落ちた。
落ちたのは緑色の玉。って種か。
地面に落ちたその種は、みるみる成長して、元のオニクイソウの半分くらいまで大きくなった。
「ん♪(ますたー)」
新しく生まれた個体も、俺のことをマスターと認識してくれるみたいだ。
そうして、戻ってきた個体が次々と種を産んでいく。
どうやら吸収した澱みやら何やらが多い程、生む種の数も多いみたいだ。
気が付けば、40体くらいまで増えてしまった。
この調子で増えたら凄いことになりそうだけど、それはまぁ、今回の問題が解決してから考えるか。
みんなにはプライベートルームに入ってもらって、俺はエルフの里へと戻る。
里は太鼓や笛などの音楽が色んなところで流れている。
多分、祭りの練習をしているんだろう。
時々失敗している音を聞きながら、まずは神社に顔を出すと、ララとルゥが巫女服を着て舞の稽古をしていた。
「あ、ジン様おかえ「余所見をしない!!!」っはい!」
ロムさんから厳しい叱責の言葉が飛ぶ。
昨日までの優しい顔が、今は厳格さを帯びている。
ふむ、ここで見ていても邪魔になるだけだな。
その場を離れてグラウ老師に挨拶をしに行く。
「ジン様。これから向かわれるのですな」
「ええ。こちらはよろしくお願いします」
「もちろんです。ジン様の方もそのご様子ですと、上手く行きそうなのですな」
「はい、吉報を持って帰ってきますよ。では」
「無事なご帰還をお待ちしております」
道場長もそうだったけど、こういう達人達は目を見ただけで会話の9割が済んでしまうな。
さ、みんなが祭りの準備をがんばっているんだ。こっちも気合を入れ直して世界樹に挨拶して地下へと転移する。
そして地下は前に来た時からほとんど変わっていなかった。
無事に冷却魔法も維持できて、気温はマイナス40度と言った所。
魔物たちもほとんど動かずに壁や地面の割れ目に身体を押し込んで寒さから逃げている。
この寒いままだとオニクイソウ達も動けないだろうから、冷却魔法を解除して、逆に常温に戻るように少しずつ温熱魔法で空気を暖めていく。
あ、それを受けて魔物たちも動き出したな。
ならこっちもプライベートルームからオニクイソウ達を出していく。
「じゃあ、みんな。頼んだよ」
「!!♪(まかせて。行ってきます)」
散開して次々と魔物を捕食していくオニクイソウ達。
魔物たちも毒液みたいなのを吐き出して応戦しているが、それすらも触腕で受け止められ養分として吸収されているようだ。
さらにオニクイソウは数十匹の魔物を捕食すると背中から種を生んで、どんどん増えていく。
気が付けば、菜の花畑のようにオニクイソウが一面に咲いていた。
「(マスター、こっちきて~)」
「(これなんだろ~)」
呼ばれて向かった先には、直径100m程の一段窪んだ部分があった。
問題は、その下から澱んだ気配がすることだな。罠か、それとも奴らの巣か。ま、行ってみれば分かるか。
普通ならオニクイソウを当て馬にすべきかもしれないけど、今更この子らを犠牲にするのもな。
「見つけてくれてありがとう。ここは俺に任せて、他をお願い」
「ん♪(はーい)」
さて、じゃあ覚悟を決めて行きますか。
防御と探知を強化して窪地へと踏み出す。
トンッ、ズボッ、ズボボボボボ!!
・・・・・・どぼんっ。
・・・・・・落ちたよ。新雪の上に薄っすら張った氷の上に足を置いたかのごとく、一瞬大丈夫かな、と思わせておいて際限なく地下に落ちたよ。
しかもひざ上くらい深さの水が溜まってるし。防御障壁張ってなかったらずぶ濡れだったな。
さて、罠か巣かと考えてたけど、どうやら両方だったみたいだな。
「ジジッ、ジジジッ。(貴様か、私の子供達を虐殺してくたのは!)」
穴の中には全長5mを超える、8本足の巨大ダニが居た。
多分、上に居たダニのマザーなんだろう。
「子を殺された親の怒りは分からなくは無いけどな」
「ジジジッ。(ふん、肉団子にして新たな子供達の餌にしてあげるわ)」
さて、ダニはダニだ。まずは冷気魔法で足元の水共々凍らせる。
「ブブッ。(なめるな!)」
ちっ。内燃機関を持っているのか、冷気を物ともせずに前足4本で殴りかかってくる。
これは狭くて避けきれないか。仕方ない、アイテム空間から剣を出して防ぐ。
「シャッ!」
口から毒液まで吐いてくるか。
咄嗟に剣で防ぐと、剣が溶けてしまった。
そこへ更に前足が鉄の棒のように振るわれてくる。
「ジジッ、ジジジジッ、ジジッ(そらそらさっきの威勢どうした。障壁で防ぐしか能が無いのかい。ならこれはどうさ)」
ブシャッと吐き出して来たのは、毒液ではなく粘着性の糸だった。
一瞬にして障壁ごと糸に絡め取られてしまう。
これは、蜘蛛の糸?
なぜダニが蜘蛛の糸を吐くんだ?
・・・・・・その時、世界樹が以前言っていた言葉を思い出した。
『そちらに蜘蛛の姿をした守護者様はいらっしゃいますか』
その時は単純に死んでしまったのかなと考えてたけど、そうか。もしかしなくてもこいつに喰われたのか。
いやまあ、世界は弱肉強食だ。文句はない。
ないけど、なら親子共々殺されても文句を言われる筋合いはないな。
俺は一気に魔力を集中させて障壁もろとも俺を喰らおうとしている奴の口目掛けて火炎魔法を放り込む。
「ジガッ!」
奴の顔が炎に包まれると、堪らず投げ捨てられたので、その隙に糸から抜け出し、障壁を解除する。
「ギシャー!」
「ふっ」
振られた右足に対して、一歩踏み込みながら関節部に抜き手を突き入れる。
関節が逆方向に折れるのを見送る間も無く、反対の左足の一撃をしゃがんで避けると、力の方向に押して体を流す。
さらに隙の出来た胴体を思いっきり蹴りあげると5mは吹き飛んだ。
……今の一撃で胴体破壊出来ればと思ったけど、流石に堅いか。
「ギギガッ!!」
奴がこちらに向けて口を開く。毒か糸かは分からないが、吐かせるのは得策ではないな。
ならばと、アイテム空間からドラゴンの爪を取り出して、顔に投げつける。
さすがの毒液でもドラゴンの爪は溶けないだろう。
見事、外殻を物ともせず頭を貫通した爪を見ながら、奴の全身を炎で焼き尽くす。
「ジジ、ジッ・・・・・・ジ・・・・・・」
後には赤黒い魔石とドラゴンの爪だけが残った。
それらを回収して上に戻ると、
地下空間にはオニクイソウの花が咲き乱れ、
既にコダニは1匹も残ってはいなかった。
折角のボス戦が一瞬で終わってしまった。
誰かな主人公強くし過ぎたのは。
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無事に地下の魔物の攻略に成功したジン。
そしてエルフの里では祭が始まる。
次回:エルフ聖誕感謝祭
それはその地に住む全てのものの思い




