エルフの森の攻防
よろしくお願いします。
ララの先導でエルフの森の奥を目指す。
「じゃあ、ふたりはエルフの里で巫女をしてたんだな」
「はい。今はまだお母さんもおばあちゃんも現役です」
「多分私達が居ない分、お母さん達が頑張ってくれてるから、早く戻らないとね」
「でも巫女の仕事があるならそれなりに忙しいだろう。どうして人間に拐われたんだ?」
聞くと、ルゥが恥ずかしそうに俯いてしまった。
聞いたら不味かったか。
そう思ったらララがため息をつきながら教えてくれた。
「ルゥは仕事が辛くて里を飛び出しちゃったのよ。気分転換くらいの気持ちだったんだろうけど、外縁部まで出てしまったらしくて、そこを運悪く人拐いに見つかったって訳」
「なるほど、それは運が無かったな」
「ちゃんと警戒していれば森で人間に後れを取る事も無かったはずなんだけどね」
「むぅ、あの時は疲れてたから」
そんな話をしながら1時間くらい歩いた頃、森の雰囲気が変わった。
恐らく外縁部を抜けたんだろう。
「ここからはエルフの里の森よ」
ララが俺の考えを裏付けるように説明してくれた。ただ、
「俺はてっきり里に近い方が森が澄んでいると思ってたんだが、そうでも無いんだな」
外縁部に比べて、森全体が薄暗く、空気も澱んでいる。
そう言うとふたりは苦々しい顔をした。
「多分私達が抜けた分、浄化が間に合ってないんだと思う」
「逆に言うと、エルフの森は浄化しないとどんどん澱んで行くのか?」
「100年くらい前はそんな事無かったそうです。ですが段々ひどくなっているみたいなんです」
「原因とかは分からないのか?」
「里の中心にある世界樹が森の、というより世界の澱みの浄化を行っていたそうです。
その世界樹が今弱っているのは分かるのですが、なぜ弱って来たのかまでは分かりません。寿命という訳でもないでしょうし」
話をする間にもこちらに魔物が近づいて来ていた。
気配からして明らかに外縁部よりも強いし数も多そうだ。
姿を現した魔物は黒い狼だった。数は15くらいか。
「ふたりとも下がって」
「いえ、ジン様、大丈夫です。森の中なら私達も十分に戦えますから」
「そうですよ。伊達に巫女はやってませんから」
そう言うや否や、ふたりが魔法を発動させると、森の至る所から木の槍が突き出し、狼たちを串刺しにしていく。
なるほど、確かに十分戦力として数えられそうだ。
「あ、出来れば急所を一突きで倒してほしい。狼の毛皮とか売れそうだし、折角昼に解体手順も教えて貰ったんだから、早めに経験を積んでおきたい」
「分かりました。それならルゥ、蔓に切り替えるわよ」
「はい、お姉ちゃん」
すると今度は固い枝ではなく蔓のような植物が魔物に絡みつき首を絞め落としていく。
植物なら何パターンか操れるって事なんだろうな。色々と便利そうだ。出来る事なら後で教えて貰おう。
そして倒された魔物はいったんアイテム空間に入れて落ち着いてから解体することにする。
その後も、狼、ヘビ、サル、イタチ、熊と動物由来っぽい魔物が現れては3人で倒していって、2時間くらいが経っただろうか。
ようやく魔物の気配が無くなって一息つけたと思ったのも束の間。今度は300mくらい先に魔物以外の気配が多数確認出来た。これは……人の気配か。
「ララ。ふたりの集落はこの先だよな」
「ええ、そうよ」
「そうか、ならここからは俺が前を歩くから代わってくれ」
「?わかったわ」
俺の行動に疑問を持ちつつも素直に従ってくれる。
さて、向こうの出方はどう来るのか。そう思いながら進んでると、ララとルゥもすぐに状況を理解出来たようだ。
一番理解出来ないのは向こうが気配を消していない理由なんだが。
ヒュッ、トン。
更に進んだところで、足元に矢が刺さる。
「止まれ!!」
15m先の木の上から声が掛けられる。人間で言う20代半ばの男性エルフだ。
……この時点で姿を曝す理由はなんだろう。馬鹿なんだろうか。それに森の中とはいえ、もっと遠くから狙えないんだろうか。
その男の他にアーチャーが20人、魔法使いっぽいのが20人居る。良く観察すると頑張って気配を消そうとしてるっぽいけど、消し方が雑でばればれだ。
まぁいい。一旦止まってやるか。
「貴様の後ろに居られるのは、ラルフィリア様とルーティンラー様だな。……そうか、貴様がお二人を誘拐した犯人か!!」
え、は?そんな訳無いだろう。なんて短絡的な。笑いを通り越して可哀想に思えてくるな。
「なあララ。エルフの戦士って、馬鹿なのか?」
「……ごめんなさい。全員がこうって訳じゃないの。ここに来ているのは50歳未満の若手のようね」
50歳で若手かぁ。流石エルフというべきなのかな。
「あのジン様。ここは私達が話を付けますよ」
「いや、折角だからちょっとお灸を据えてあげた方が良いと思うから、手出しするのは待ってて」
「あ、はい、お手柔らかに」
「き、貴様。俺様を無視するんじゃねえ!!」
ヒュッ、ぺし。
怒声と共に俺の頭を狙ってきた矢を叩き落とす。
ふむ。さてさて。今のはいただけないな。
俺は少しムッとしながら矢を射かけてきた青年を見据える。
「フンッ。少しはやるようだが、いいか。今のは威嚇だ」
「……へぇ。頭を狙っておいて威嚇か。エルフってのは物騒なんだな。それとも外す筈が狙いが逸れたのか?」
「馬鹿にするな!森の中でエルフがこの距離で外す訳が無いだろうが」
「そうか。じゃあ、死ぬなよ」
言いながら、さっき叩き落とした矢を拾って、放たれたのと同じくらいの速度で投げつける。
ヒュッ、トン。
「ぎゃあーー」
見事おでこに矢を受けて、叫び声を上げるエルフ男。
いや、先端を粘土で固めておいたから刺さってないんだけどな。
ため息をつきつつ、改めてその青年を見下ろす。
「で、だ。さっき威嚇だと言ってた矢を受けて死にそうな声を上げてる理由を聞こうか」
「くそっ。貴様!貴様!!」
これは頭に血が昇ってだめだな。水でも被って大人しくしていてもらおうかな。
さっと水魔法で大玉スイカくらいの水を作ってエルフ男に投げつけてみる。さすがに避けられるかな。
ひょい、どぼっ。
「がぼごばぼっ」
ばたっ。
頭を水に包まれて溺れてしまった。
……さて、まずは1人沈黙っと。でもなー。
「ララ。エルフっていうのはタイマン、あ、1対1で戦う種族なのか?」
「……いえ、どちらかと言うと集団戦闘を重視してます。普通は」
「だよな。ならそいつは後ろの奴らに見捨てられたのかな」
普通、ここまでやったら交渉決裂で襲いかかってくるか、少なくとも、倒れたあいつを助けに来ると思うんだが。
「まぁいいか。ふたりはそこで待ってて」
おもむろに倒れた男に近づいてみる。
「っ!今だ。やれ!!」
奥から掛け声と共に一斉に魔力で強化されたっぽい矢が飛んで来て、地面から茨が絡み付こうとしてくる。
なるほど、あいつは当て馬というか、捨てゴマというか、とにかく、俺がふたりから離れるのを待ってたのか。
そこだけは評価しても良いかな。
でもこっちに掛け声が聞こえたのは減点だな。念話とかハンドサインとか無いんだろうか。
まあいいか。ひとまずは魔力障壁を自分中心に展開して矢も茨も弾いておく。
「何!?魔法で俺たちの攻撃を全て弾いているのか」
「だがそんなもの、魔力が続く筈がない。撃ち続けろ!」
魔力か。2しか減ってないし、これって魔物を倒してた時に減った分だよな。これくらいならむしろ回復量の方が多いくらいだ。
さて、倒れたエルフ男の所まで来てしまったぞ、おい。
エルフ達の行動に変化は……ないな。相変わらず俺に攻撃するだけだ。
「攻撃を止めて話し合いに応じろ。さもなくば殲滅するぞ」
「はったりを。人間が森で我らに敵う筈がない」
森、ね。なら森を味方にするか。
一気に魔力を放出して、周囲一帯に魔力の『霧』を発生させる。
途端にエルフからの魔法が止まる。
「!!?!?!!」
「な!魔法が発動しないだと!!」
「くっ、力が奪われる!」
いや、奪ってない奪ってない。
むしろお前達が森から奪っていた魔力を塞き止めただけだ。
せめて自力で魔法の一つくらい発動させろよ。
さて……ん?里の方から誰か来たな。
「そこまでだ。馬鹿者どもが!」
「え、老師!危険です、ここは我々にお任せを」
「愚か者が。あの者はお前達が敵う相手ではない。情けをかけてもらっている内に、そこで寝てるベルを連れて里へ戻っておれ」
「で、ですが」
「ああ!?お前達、俺の言うことが聞けねえってのか」
「いいいえ、そんな!!おい、早くしろ」
弓を持っていた3人がそそくさとやって来て、倒れてた男を担いで里へ連れて行った。他のも帰ったみたいだな。
「うちの若いのが失礼しました、お客人。ララとルゥを助けて下さった事、心から感謝致します」
そう丁寧に挨拶してきたのは見た目50歳くらいの男性。老師の名の通り、エルフで言えばかなりの高齢なのだろう。
その姿を見て、ララとルゥが嬉しそうに挨拶をする。
「グラウ老師、ありがとうございます」
「老師、ただいま戻りました」
「はっは。よくお二人ともご無事でお戻り下さいました。さて、ここで立ち話もなんです。里へと向かいましょう。お客人のことも是非紹介してください」
3人が先だって進んでいく後ろを付いていく。
ふたりとも、この人とは仲が良いんだろうな。そんな雰囲気が伝わってくる。
あ、放出してた魔力、このまま放置は不味いか。折角だから森の浄化に使っておくか。
地面に手を当てつつ、放出した魔力で浄化と治癒魔法を発動させる。
サァァァァ……
うん。ようやくエルフの森らしく気持ち良い風が吹いたな。
っと。みんなから離されたから急がないと。
今回、主人公の機嫌が悪い理由はまた後ほど。
グラウ老師は背後で起きた異常現象に冷や汗ダラダラです。
ララとルゥはプライベートルームで慣れてしまったので、ちょっと感覚が鈍ってます。
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エルフの里へ招かれたジン一行。
そこで見たものは障気漂う里の姿と
萎れた世界樹だった。
次回:萎れた世界樹
ジンは世界樹を救えるのか。




