領主館襲撃
よろしくお願いします。
爵位ってどういう順番だっけと毎回悩みますね。
ララと別れた俺たちは路地を幾つか曲がって場末の酒場に辿り着く。
『Closed』の札が出ているが、気にせず扉を開けるグリランドに続いて中に入ると、クラシックバーのような落ち着いた内装にマスターが一人カウンターの奥に居た。
「グリランドさん。この時間に来るのは珍しいですね。後ろのお客人は新顔ですか」
「ああ、昨日話していた俺の命の恩人かもしれない人だ。名前はジン」
「ふむ……それですが、『かも』ではないようですよ。聞いた噂では君みたいに出て行った冒険者や商人達が軒並み消息を絶っているらしい」
「なに、そうなのか!?」
そこで二人の目が俺を見つめてくるが、これは『疑念』と……『期待』か?
疑念を抱くのは分かるけど、一体何を期待しているのか。こっちから切り出したほうが早いかな。
「それで、何か相談があるんだよな」
「あ、ああ。その相談に繋がる話なんだが、ジンはどうしてエルフの森の危険を予知できたんだ?」
「それは妹って紹介した俺の連れがエルフの森出身なんだ。そのお陰で森の事は普通の人よりよく分かるらしい」
また二人で目配せして、頷いてる。
大外れでは無さそうだけど、面倒なことにはなりそうだな。
「あんた、この町をどう思う?」
「どうとは?漠然としすぎて答えようが無いぞ。それに俺はこの町へきたばかりだ」
「そうだったな。話を急ぎすぎた、すまん。じゃあ、まずはこの町の事を話させてくれ。
この町は3年ほど前に領主が変わったんだが、新しい領主っていうのが、人間至上主義でな。人間以外を家畜かペットくらいにしか見ていない変態ペド野郎だ。
そいつが連れて来た奴隷商人が多く入り込んでいる影響で奴隷売買が横行してる。それまでこの町には一人として奴隷は居なかったっていうのにな。
で、その奴隷商人達が目をつけたのがエルフの森の住人だ。
さっき言ったとおり、領主はエルフもハーフエルフも人とは見なさねえから攫ってきても罪には問われない。
更にはエルフの血を引く方が見た目が綺麗だって理由で高く売れるらしい。実際、先日飛び切りの上玉が領主に高額で買い取られたって話だ。
それを受けてここ最近、奴隷商人たちがエルフの森へ殺到しているって訳よ」
「なるほどね」
今までそれなりに儲かってた所に大当たりが出たもんだから欲が出たんだな。
というか、その上玉って、きっとララの妹だよな。
こちらとしても欲しい情報の探りを入れてみるか。
「なあ、その変態領主ってのは、その上玉に手を出してると思うか?」
「いや、もっぱらの噂じゃ、本気で人形のようにひらひらの服、ゴスロリって言ったか、を着せて鑑賞するだけなんだと」
良かった。傷物にされている可能性は低そうだな。
それなら無理に急ぐ必要も無い、事もないか。
「そうか。ちゃんと食事を取らせてるのかが心配になる話だな。
それで、話を戻すと、グリランドがその奴隷商人の護衛をしていたのは潜入捜査か何かか?」
「そうだ。よく分かったな。まぁそれもお前のお陰で途中で抜けてくることになったけどな」
ここまでの話に嘘は無さそうだ。
とすると、さしずめ領主を追い出したいレジスタンスとか市民運動団体って所か。
「あんたの妹さんも、多少エルフの血が流れているんだろう?このままじゃ、いつか攫われて奴隷にされちまうかもしれないぞ」
「そうなる前に町を出るさ。それで、あなた方の狙いは領主を排斥することなのか?それとも、人攫いや奴隷売買を止めさせたいのか、どっちなんだ?」
「一番はこの町を元の平和な状態に戻すことだ。ただその為には、領主が変わらないと奴隷の問題を含めて解決しないと考えている」
「今の領主が居なくなったら、その後釜はどうなるんだ?また似たようなのが来るんじゃ意味が無いぞ」
「そこは心配しなくても大丈夫だ。この町はダル子爵領に属するんだが、直ぐ隣はゲルダ伯爵領でな。今の領主が不祥事を起こすと、伯爵が動いてくれることになっている」
なんだ。町の平和が、とか言いながら、結局は伯爵の手駒か。
なら俺は俺で動いたほうが良さそうだ。下手に巻き込まれると面倒だし。
「話は大体分かった」
「なら、手を貸してくれるか?」
「人攫いにあった人達の解放は手伝っても良いが、領主をどうにかするまでは手に余る」
「そうか。いや、今はそれだけでも十分助かる」
「それよりもだ。色々と簡単に話しすぎじゃないか?」
「まあな。その為にここに来たんだ。マスターは特殊スキルの持ち主でな。あんたが協力してくれない場合はここに来てからの記憶を消してもらう予定だったんだ」
コップを磨きながら話を聞いているマスターを見るが、ぱっと見はちょっと鍛えている普通の人、位にしか見えない。
「記憶を消す、か。なかなかに凄い能力だな」
「いえいえ。消せると言ってもせいぜいここで起きた事くらいのものですから。もし全ての記憶を消せる、などの力であれば国から危険人物として抹殺されているでしょうな」
コンコンッ。バサバサバサッ。
ん?鳥がカウンター横の窓を叩いたと思ったら、直ぐに飛んで行った。
恐らくはマスターの使い魔か何かだったのだろう。今のやり取りでマスターには何か伝わったようだ。
「ジンさん。あなたの妹さんですが、どうやら困った事になっているようですよ」
「噂をすればってやつか」
「まさにそうみたいですね。馬車でどこかに連れて行かれたようです」
ふむ。ちょっと念話を送ってみるか。
『ララ。ララ、聞こえるか?』
『……くー』
……どうやら寝ているっぽいな。
現在位置は……ふむ、確かにそれなりの速さで移動して、いや、止まったな。
「この町の北側中央付近って何かあるかな?」
「そこでしたら、領主館がある辺りですね」
「そうか。では俺は妹を迎えに行ってくるよ」
さっと立ち上がって入り口の扉に手を掛ける。
ロックが掛かっていたので手当てで無造作に解除して外に出る。
「え、おい!」
後ろからグリランドの声がしたが、今は無視だ。
町中を歩いていくのも時間が掛かるので、ララの気配を頼りに飛んでいくか。
えっと……あ、あの建物だな。2階の一室で寝かされているっぽい。
俺はベランダに降り立つと、ガラス扉を開けて中にはいる。
部屋の中にはベッドに寝かされた妹と、それを眺めている男が2人、その後ろに控えるように3人居て、俺に気が付くと後ろ3人が剣を抜いて俺に対峙した。
「何者だ!!ここが領主館と知っての狼藉か」
「あー、そうかも知れないとは聞いていたが、やっぱり領主館だったか」
「ちっ、ふざけやがって。ただで帰れると思うな!!」
荒れた声を上げる男達を制するように前に立っていた、豪華そうな衣装の男(多分こいつが変態貴族だな)が制止の声を上げる。
「まあ待ちなさい。どうやって2階の窓から入ってきたかは知らないが、用件くらいは聞いてやろうではないか」
へぇ。意外とまともな人格者っぽい。ペドで人間至上主義さえ何とかなれば普通に領主としては何とか……ならないか。
でもまあ、礼には礼で返さないとな。
「急な訪問、失礼致しました。俺の用件は2つです。1つはそこに寝かされている子を含めた妹分達を返してください。もう1つは……」
「却下である!!!」
「……は?」
「却下だと言ったのだ。これは既に我輩が購入したものだ。
気分が良かったから話くらいは聞いてやろうかと思ったが、何を言い出すかと思えば、妹分?馬鹿も休み休み言え。エルフに人権などあるはずなかろう」
言われてララを見ると、偽装魔法が解けて普通のエルフ耳があらわになっていた。
そうか、だから攫われたのか。じゃあ、攫われた原因の一端は俺にありそうだな。
ま、今はそれより連れて帰ることを優先するか。
「その様子ですと交渉の余地は無さそうですね」
「無論だ。お前たち、奴を捕らえよ」
「はっ」
そうして襲い掛かってくる男3人。
下っ端で殺すまでも無いので、適当に蹴り飛ばして寝かせておく。
一瞬で3人を倒した俺を見て、漸く危機感を覚えたのだろう。若干顔を青ざめさせながら叫び出した。
「くっ。貴様一体何者だ!!?」
「ただの善良な旅人だ。それよりもこちらの要求を呑んでもらおうか」
「いえ、あなたこそ、動かないで頂きましょう」
そう言ってきたのは、それまで後ろで沈黙を保っていた一人。多分奴隷商だろう。
そいつがララの首筋にナイフを当てていた。
「あなたの可愛い妹さんに傷を付けられたくなければ大人しく捕まることです」
おぉ。絵に描いたような悪役っぷりだな。
じゃあ、まあ動かないでいてやるか。
「ララ。そろそろ起きなさい」
「……はーい」
ララがそう言って目を開けると同時に、ナイフを突きつけていた男の手に木が生える。いや刺さっているのか。
「へ?ぎゃあっ!!」
1拍遅れて、腕を押さえて蹲っていたが、そのまま倒れて動かなくなった。
毒でも仕込んでいたのかな。
俺の考えを否定するようにララがつぶやいた。
「まだ意識を失っただけよ」
まだ、ね。ララも怒らせると怖そうだな。
まあいい。さっさと用件を済ませてしまおう。
「では領主。こちらの要求を無条件に呑んで貰おうか」
そう言って、逃げ出す隙を伺っていた領主の首根っこを掴むのだった
娘が出来てから過保護になってきた主人公(あれ?)
足並みを揃えて手遅れになる愚行は犯しません。
あと、ララは最初から寝たフリです。
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無事にララを救出することに成功したジン。
領主館で再会したのは人形のようになってしまったララの妹だった。
ジンは彼女をそしてハーフエルフたちを救うことが出来るのか。
次回:エルフの消えた日
ララの妹・・・・・・リ、あ、いえ。なんでもないです。




