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手当ての達人  作者: たてみん
第1部 第2章:世界探訪「ハーフエルフ編」
21/63

人間の町へ

よろしくお願いします。


エルフの森を離れた3日後の早朝。

このあたりで最大の人間の町の前にやって来た。


「さて、ひとまず馬車が邪魔だな」


ララに馬車から降りてもらって馬車をアイテム空間に仕舞う。

馬は近くで開門待ちをしてた商人に格安で売って旅人っぽく手荷物だけにして門に向かう。

その際、ララの耳も偽装魔法で普通の人間っぽく見せかけておいた。


「次の者!身分証を提示しろ」


なかなかに高圧的な門番だな。まあいいか。

懐から2枚の冒険者証を取り出して渡す。と、後ろからララが俺の袖をきゅっと握ってくる。


「……ジンとララ。その成りでCランク冒険者か。まぁいい、通れ」


冒険者証を返してもらい、何気ない顔で町に入る。

通りを曲がった所で、ようやくララが袖から手を離して一息つく。


「はぁぁ。よくバレずに通れましたね」

「本物が手元にあれば、一見して偽物だってバレないようにするのは難しく無いからな。それに堂々としてれば、そんなに疑われないって」


ちなみにさっき見せた冒険者証は、ララ達を捕まえた奴隷商人の護衛をしてた人達から回収した物に、手当てで名前の部分を書き換えたものだ。


「それでジン様、これからどう動きますか?」

「あ、その前にララ。この町のなかでは俺のこと『様』付けて呼ぶの禁止な」

「え、ですが」

「そうしないと、二言目には『どういう関係?』って聞かれるだろ。ちなみに、もし聞かれたら『血の繋がってない兄妹』で通すように」

「は、はい」


さて、ひとまずは宿を決めるか。

出来れば家族経営の所が良いんだが、そういう情報があるのはあそこだな。


「お姉さん、その赤い果物を2つ下さい」

「あいよ。りんこだね。まいど」


果物の露店商の40過ぎのおばちゃんに代金を払って、リンゴっぽい果物を貰う。

どこの世界でも年上の女性はお姉さんって喜んでくれるのは変わらないな。


「ねぇ、お姉さん。俺ら、今日この町に来たんだけど、家族経営の綺麗な宿屋ってあるかな?」

「あぁ、それなら2つ先の通りを右に曲がった所にある『メルモ亭』がおすすめさね」

「うん、ありがとう」


銅貨をパスしながら礼を言って、教えてもらった宿に行く。

『メルモ亭』……ここだな。


カランッカランッ♪

「あ、いらっしゃいませ♪」


小気味良いドアベルと明るい女の子が出迎えてくれる。

店の清潔感といい、当たりっぽいな。


「ご宿泊ですか?それともお食事ですか?」

「宿泊で。部屋は空いてるかな?」

「はい、2階の奥が空いてますよ」


とその時、厨房から厳つい声が響く。


「メルモ!そっちは俺が対応するから配膳をしてくれ」

「あ、はーい。すみません、すぐに父が参りますので」


そう言って入れ替わりで、声の通りのオッサンが現れる。

俺とララを見比べて顔を険しくさせている。

一瞬ララの所で表情を変えたのは、ララがエルフだって気付いたからだろうな。


「……休憩なら他所に行ってくれ」

「いや、宿泊だ。ひとまず3日くらい頼みたい」

「……」

「……」


ギュッ


にらみ合う俺たちに当てられて、ララがまた俺の袖を掴んできた。

それを見てようやくオッサンの表情が和らぐ。


「そっちの子は?」

「俺の妹分だ。村を出る時に一緒について来たんだ」

「そうか。邪推して悪かったな。部屋は2階の一番奥を使ってくれ。これが鍵だ」

「いや、気持ちは分かるつもりだ。代金はこれで足りるか?」


竜の山で貰った金貨を1枚渡す。


「こりゃ、ドグラール金貨か。足りるどころか多すぎるな」

「そうか。じゃあ、多かった分は預かっておいてくれ。さ、ララ。疲れているところ悪いが、部屋を確認したら次の場所に向かうよ」

「あ、はい」


部屋は寝台2つにテーブルが一つあるだけの簡素な部屋だった。

清潔感という意味では申し分ないので俺としては満足だ。


そして宿屋を出たら向かうのは冒険者ギルドだ。場所は宿屋のオッサンに聞いてきた。

ギィギィ言う扉を開けると、酒場が併設されたザ・冒険者ギルドという雰囲気だ。

冒険者の人数は、それほど多くはない。恐らくラッシュの時間とは微妙にずれたんだろう。

お陰で並ぶことなく受付カウンターに行くことが出来た。


「ようこそ冒険者ギルドへ。お二人はこちらは初めてですよね。本日はどういったご用件でしょうか」


仕事の出来るお姉さんだった。初めてっていう事は凡そ全ての冒険者の顔を知ってるって事だろうな。

俺はさっきの冒険者証を出しつつ要件を切り出した。


「今日来た目的は2つ。1つはこの拾った冒険者証を届ける事です」

「これは……確かにここの所属の冒険者のものですね。失礼ですが、これはどこで拾われたのですか?」

「この町とエルフの森の間の街道脇です。争った形跡もありましたので、魔物にでも襲われたのではないかと」


実際には人間(俺)に襲われた訳だが、そこは濁しておけばいいだろう。


「そうでしたか。ご報告ありがとうございます。後ほど、謝礼金として銀貨3枚をお渡しさせて頂きます。それで、もう一つのご用件は?」

「俺と妹の冒険者登録をお願いします」

「……畏まりました。文字は書けますか?まずはこちらの用紙に名前を。

……ジン様とララ様ですね。では次にこちらの石の上に手を置いてください」


白いレンガのような物がカウンターに2つ置かれたので、そのひとつに手を置いてみる。

これは……なるほど。何も起きないのは不自然だな。なら白く淡く光らせるか。

続いてララがもう一つの石に手を置くと今度は明るい緑色に強く輝く。


「はい、結構です。少々お待ちください」


まだ光を放っている石を持って奥に行く受付嬢を見送ると、ララが袖を引いてきた。……癖になったのか?


「あの、ジンさ、ん。今の石は何だったのでしょう?」

「魔力パターンの取得と、犯罪者かどうかの確認みたいだな」

「ええ、その通りです」


と、受付のお姉さんが帰ってきた。


「お待たせ致しました。これがお二人の冒険者証になります。こちらのプレートに登録した魔力パターンとご自身の魔力パターンが一致するかどうかで、本人であることを確認します。

また、先程仰っていたように、犯罪者の場合、先程の石は黒く光ることになっています。原則として、そのような方は登録をお断りさせて頂いています」

「石が黒く光らなければ犯罪者ではない、という事ですか?」

「いえ、あくまで魔力パターンからの診断です。その国の法から見て犯罪者かどうかまでは分かりません」


なるほど。つまり、あの澱みと同じで、魔力の清濁を見ているって事だな。

その後、簡単な説明を受けて受付を後にする。

余談だが、受付は3種類あって、総合受付、依頼受付、買取受付と分かれている。

なので、普段依頼を受けたり報告したりするのは依頼受付になるそうだ。

そうして無事に登録が済んで次はどうしようかと考えていた時、後ろから声を掛けられた。


「よう、お前さん、あん時の兄さんだな」


声を掛けてきたのは、エルフの森に行く前に出会った冒険者の男性だった。

ここに居るって事はエルフの森には行かなかったんだな。


「ああ。その様子だと無事に商隊の護衛から抜けて帰ってきたみたいだな」

「まあな。エルフの森に差し掛かった所で、これから森に入るなんて言い出しやがるから、契約が違うって言って突っぱねてきたよ」


前金で貰ってた分を返すことになったがなと言いつつ肩をすくめていた。


「そうか。まあ無事で何よりだ。俺はジンだ。腕には自信があるが、冒険者としては駆け出しだ」

「グリランドだ。この町でかれこれ5年、冒険者として活動している」

「5年か。すごいな。何か困ったことがあったら相談させてくれ」

「いいぜ。と言いたいところなんだが、先に俺のほうから一つ相談させてくれ。今から時間取れたりしないか?」

「??まあ、俺たちも町を散策する予定くらいしか無かったから構わないぞ」

「助かる。ここじゃなんだから、付いて来てくれ。あ、その後ろの子は?」

「俺の妹分だ。同じ村で育ってな。一緒に出てきたんだ。話を聞くのは俺一人で十分か?」

「そう、だな」


なんだろう。悪いやつではなさそうなんだけど、何か後ろ暗い事はありそうだ。

念のためララには宿に戻ってもらって、俺だけ付いて行くことにするか。

と、その前にこれまで手に入れた魔物の魔石を換金しておく。

竜の山での修行中にも魔物を狩っていたのでかなりの金額になった。

買取窓口の人には、この魔石はどこで手に入れたのかと聞かれたが、北のほうでと誤魔化しておいた。

この調子だと素材は時間が掛かりそうだから次の機会にしておくか。


「それでは、ジンさ、ん。私は私で町を周って来ます」

「分かった。気をつけてな」

「はい」


心配な部分はあるが、俺が行動を規制する事でもないだろう。


冒険者ギルドの説明は省略しました。大体あんな感じだろうとイメージしてもらえれば十分です。

ランクはF~S(FとEは見習い、Dで半人前、Cで一人前、Bでベテラン、Aでトッププレイヤーです。Sは伝説級)

Cの人口が多いのでC1~C3みたいに格付けされたりもします。


########


グリランドに付いて行った先は場末の酒場。

そこは町の状況を憂いた市民団体の隠れ家だった。

意図せず町の抗争に巻き込まれるジン。

さらにそんな折、ララが誘拐されてしまう。


次回:領主館襲撃


手を出さなければ穏便に済んだのに。

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