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手当ての達人  作者: たてみん
第1部 第2章:世界探訪「ハーフエルフ編」
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森の掃除人

よろしくお願いします。

最近魔物よりも人の方を多く殺してる正義の主人公(あれ?)

さて、ハーフエルフの子供たちは村に返してあげるとして、色々と方針を決めないといけないな。


「そういえば、まだ名前を名乗ってなかったな。俺はジン・バンリだ」

「私はラ・・・・・・ララと呼んでください」

「じゃあ、ララ。言いたくなかったら言わなくて良いんだが、君は他の子とは色々と違うよな」

「!!?」


そう指摘してやると、目を見開いて驚かれた。


「・・・・・・あの、どうして分かったんですか?」

「一人だけ魔力の質が全然違うからな。ということは、もしかしてわざと捕まって人の町に潜入するつもりだったとか」

「そこまで分かるんですね。はい、先日から妹が行方不明になっていて、もしかしたら人間に攫われたんじゃないかと思って探しに行く所でした」

「無謀だな。逆にそのまま愛玩奴隷として高値で売られて終わりだろう」


俺がそう指摘すると、意気消沈して頭を垂れてしまった。

自分でも無理だって思ってたのかもな。


「それでも、どうしても妹を助けたいんです」

「そうか。俺はまずその子達を元の村の近くまで送り届けてこようと思う。

何日か遅れることになるが、もし手伝ってくれるなら、その妹さんを探して助け出すのも手伝うぞ」

「え……よろしいのですか?一歩間違えば捕まって命を落とすことにもなりかねないですよ」

「それを言ったら、奴隷商を殺して君たちを助けた時点で手遅れだな」


人間の法で考えれば、向こうは黒すれすれのグレーかもしれないが、こっちは間違いなく黒だ。

始まりからして、異世界召喚という誘拐されてきた身分だし、こちらの世界に来てから敵対した人間を殺すのも日常茶飯事だし、色々今更だ。


「それで、どうする?すぐに人間の街に向かいたいって言うなら止めないけど」

「いえ、お手伝いさせてください。正直、私一人で乗り込んでも妹を見つける前に捕まる危険性の方が高いですから」

「わかった。じゃあ、これからよろしく」

「はい、よろしくお願いします」


そう言って俺たちは握手を交わす。

今更だけどこっちの世界でも握手はあるんだな。

さ、そうと決まれば馬車の中の4人も動いても大丈夫なくらいまで回復させてあげようか。


馬車に入ると4人は静かな寝息を立てていた。多分、食事を摂って体力回復のために直ぐに寝たんだろう。

その内の一人、例の一番酷かった子に寄り添うようにもう一人のあの子も寝ていた。

まあ起こす必要も無いし纏めて回復させてしまおう。

外の子達にも馬車の横に居てもらうようにして、馬車全体をすっぽり覆うように魔力で魔法陣を形成する。

魔法陣と言っても、ただ○に☆を書いただけのもので、要は自分の魔力はこの中で完結させるぞっていうイメージを固定化するためのものだ。

そうして魔方陣の線に合せて魔力を循環させれば、その上に居る人たちの間で魔力の活性化が行われる。

卵を育てた時の経験は色んなところで応用が利くな。


「ふあぁ」

「ああ~~」

「なにこれ~」


馬車の外からまるで温泉につかった様なふやけた声が聞こえてくる。


「ジンさんってこんなことも出来るんですね~」


ふっ。ララも例外なく癒されているようだ。

後は日暮れまで魔力が持つか耐久勝負だな。


そうして日が暮れたら夕飯の用意をする。

今度はみんな体力もだいぶ回復したようだし肉を入れても大丈夫だろう。

一応確認してみたが、エルフも普通に肉を食べるらしい。

そうして出来た肉入りスープを全員に配っていく。

今度は10人全員がゆっくりではあるが、自分で食べられるようになっていた。


と、その時、街道を進む馬車の一団が見えた。

こちらは街道から離れているとはいえ火を起こしているから、向こうからも見えているだろう。

念のため、みんなには馬車の中に隠れてもらう。


一団は……ちっ、程近い街道脇に止まったか。

向こうで何か揉めてるようだが、それが治まると男性が1人こちらにやってきた。

見たところ20代前半の冒険者ってところか。


「やあ、こんばんは」

「こんばんは。もう日も暮れたっていうのに、あれはまだ走るつもりかい?」

「まあね。クライアントの意向で夜通し走るそうだ。危険だから止めるように進言したんだがな。商売敵に先を越されるからって、頑として譲らねえんだよ」


そう言って肩を竦めている。さっきの言い争ってたのはそれか。

軽薄そうではあるが、言動に嘘は無さそうだな。


「商売敵、ね。そんなに急ぐものってなんだろうな」

「さあ。俺はエルフの森近くの村に買い付けに行くとしか聞いてないな。そういうあんたはこんな所でどうした。馬車ならここから町まで半日と掛からないだろう」

「ああ。妹が体調を崩してしまってな。回復した頃には日が暮れてきたんで、無理せずここで1泊していく所だ」

「そうか。元気になって良かったな」

「ああ、ありがとう」


ふむ、嘘は言ってないし本当に知らないのだろう。こいつ自身は悪い奴では無さそうだ。

ただ、このままだと明日の俺とぶつかるな。

どうせ護衛している商人の目的もエルフの森に暮らす住人を攫う事なんだろうし、最悪殺し合うことになるか。


「そういえば、風の噂で聞いたんだが、明日辺り、エルフの森近郊で嵐が起きるらしい。もし可能なら強行軍にイチャモン付けて護衛から抜ける事を勧めるぞ」

「なに、それは確かな情報なのか」


だから俺が訳有り風にそう伝えてみる。これで無理なら、それはこいつの運命だろう。

幸い、俺の言葉を聞いてさっきまでの軽いノリが消えて真剣な眼差しになった。


「……マジみたいだな。貴重な情報をありがとよ」

「いいさ。その代わり町で会えたら一杯奢ってくれ」

「ハハッ、いいぜ。っと、クライアントがお呼びだ。じゃあな」

「ああ。また町で会おう」


一団に戻って行く男を見送ると、また口論が聞こえてきた後、全員で街道の先へと進んでいった。

……また町で会えればいいが。



そうして俺たちは日の出と共に移動を開始した。

みんなには馬車2台に分かれて乗ってもらった。

前の馬車はララが、後ろが俺が御者をして、ララには誰かが居たら止まるようにだけ伝えておいた。


「ララが馬車の扱いに慣れていて助かったよ」

「そういうあなたこそ上手なのね」

「俺の場合は手綱で操ってるんじゃなく、口頭で指示してるからな」

「???」


まあ、馬と会話が出来るなんて言っても信じてもらえないよな。

ララのお陰で、窮屈な思いをさせることなく、エルフの森の麓まで移動出来たのは正直助かる。

まだもう少し安静にしていてほしい子もいるし。


「ララ、エルフの能力で森の中の様子って分かったりするか?」

「ええ。森の妖精に聞けば大まかなことは分かるわ」

「なら森の中に人間達がいるか聞いて見てくれるか?出来れば獣を狙いにきた狩人が居るかどうかも」

「任せて」


ゆっくりと目を閉じたララは、恐らく念話で交信を行っていた。


「……うん、ありがとう。……分かったわ。

森の中にはかなりの人数が入り込んでいるらしいけど、いつも狩りをしてる人は居ないって」

「そうか、それは良かった」

「あと、森が怒ってるから気を付けてって」

「?森が怒るとどうなるんだ?」

「以前お婆様が、森が怒ると森の掃除人が活動するから、私達は村から出ては駄目だって言ってたわ。

実際に何が起きるのかまでは知らないの」


つまり、こういう時にのみ活発に活動する存在が居るって事か。

それもエルフ達が恐れる程の存在って事なんだろうな。


「分かった。ならララ達は森の怒りが鎮まるまでここで待っていてくれ」

「あなたはどうするの?」

「掃除の手伝いをしてくるよ」


そう言って皆に隠蔽魔法を掛けてから森に入ると、森はうっすらと霧に包まれていた。

って、この霧、ほとんど魔素で出来ているな。

それなら、俺の魔力を混ぜて広げてみる。よし、思った通り、これで森の中の状況が手に取るように分かる。

人間は……15組200人くらいか。確かに多いな。ん?今3人減ったか。

さらに10人、別々の場所で人の気配が消える。

ということは、掃除人っていうのは数人、いや数十体は居るようだ。

霧の魔素に気配が紛れて分かりにくいが、地上にも上空にも何者かが飛び交うような魔素の流れを感じる。


ビュッ!!

「ッ!!」


横合いから飛んできた何かを慌てて避ける。これは……糸か。

触れるとくっつきそうなので、手をかざして魔力を送り届ける。


「(こんにちは。俺の声が聞こえますか?)」

『汝は誰か』


お、応えてくれた。


「(俺はジン。この森の住人の救援に駆け付けました。あなた方の敵ではありません)」

『不要。我らだけで十分。森の敵でなければ即刻立ち去るがよい』


と、その時、


ボオオッ!!


少し離れたところで火柱が上がる。

おいおい、森でそんな盛大な火魔法を使うなよな。


「(えーと、良かったらあれの処理とか鎮火とか手伝いますよ)」

『……ふむ、良かろう。ただし、くれぐれも我々の邪魔はせぬことだ』

「(了解)」


よし、どこかの馬鹿どものお陰で活動の許可は取れた。

ちらほらと先ほどの声の主と同じ気配があったけど、再び糸が飛んでくることは無かった。

そうして10分後。森を縫うように進まないといけないから少し時間がかかったが、何とか焼け野原になる前にたどり着けた。

そこは広場を中心に盛大に木が燃えていた。

ひとまず消火するなら雨かな。そう思って水魔法で上空から大量の水を降らせる。

って、失敗した。『バケツをひっくり返したような雨』なんて表現があるけど、これじゃ雨じゃなくて滝だ。地面に盛大に水たまりが出来てるし。

まぁ火は消し止めたから今は良しとするか。今後は慌てても魔法の威力を調整できるように訓練しないといけないな。

さて、火事を起こしたのは気配からしてあの3人組か。おー見事にずぶ濡れになってるな。

俺の姿を見て、水の原因が俺だと分かったみたいだな。


「この水はてめぇの仕業か!! ふざけやがって」

「せっかくの一張羅が台無しじゃねえか」

「そうだそうだ。どう落とし前付けぶぎゃっ!」


しまった。あまりの三下っぷりに、口上の途中で石弾を打ち込んでしまった。

ま、いいや。どうせ聞いてもやることは変わらないし。


「山で火遊びする馬鹿は死んで反省しろ」


と言いながら、更に石弾を1発ずつ打ち込む。


「ぐはっ」

「ちっ」


お、リーダー格っぽいのだけ無事に防いだ。少しはやるらしい。


「ふざけやがって。灰になりやがれ!!」


そういってまた火魔法を使おうとする馬鹿。

まったく馬鹿の一つ覚えというか、馬鹿だから仕方ないのか。

ただこれ以上森を荒らされると、掃除人の方々に怒られそうなので早急に対処しよう。

魔法でも良いけど、直接の方が早いな。そう思って一気に踏み込んで貫手を放つ。


「チッ(ゴンッボキボキ)ぐああっ!!」


首筋への一撃を見事左腕を差し込んで防がれた。

おぉ。いくら真っ直ぐ打ち込んだとは言え、よく反応出来たな。

ただ耐久力が足りなさ過ぎて、防ごうとした腕が砕けてるけど。


「くそ。オートガードで防いでるってのにその防御を貫通してくるとか、化け物か」


オートガードか。スキルか魔法かは分からないけど、それで反応出来てたんだな。

ただ素のステータスが足りないせいで余り意味がなさそうだ。

そして、ガードキャラに有効なのは昔から投げ技だって決まってる。

俺がもう一度突きを放つと今度は右手で防ぎに来る。まあ、左手が動かないんだからそうだよな。

予想通りのその右ひじを横から押して、更に足払いをかけてやることで、相手の体がぐるっと回転しながら崩れ落ちてくるので、それに合わせて後頭部に膝を入れると、今度こそ倒れた。

え?投げてないって?いや、駒落としっていうれっきとした投げ技だから。

彼らの死体は横から飛んで来た糸が回収していった。


さて、他の場所は……ああ、もう軒並み終わりそうだな。

ならこの辺りの焼けてしまった場所を出来る限り修復するか。

そう思って、まだ原型の残っている草木に手当てを施していった。

予告とかで引っ張ったくせに声しか出ない森の掃除人。

いや、裏ではかなり頑張ってるんですよ。

本当は主人公にもっと攻撃を仕掛けようかとも思ったのですが、字数の兼ね合いと敵対はしないので、パスっと切られました。


########


無事に森を焼いた冒険者を撃退したジンの前に現れる、森の掃除人。

森の平和は守れたが、それも一時的なものに過ぎない。

恒久的な平和を創り上げる為に、いざ人の町へ。


次回:ハーフエルフ達との約束


人間なんて滅べばいいって、それどこの魔王ですか!?

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