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手当ての達人  作者: たてみん
第1部 第1章:世界探訪「ドラゴン編」
15/63

卵を育てよう

よろしくお願いします。

一部、話のつなぎの為に前々回の話と重なっています。



「えぇぇっ!!たまごぬすまれちゃったの!?」


そう言って目を見開きながら驚く女の子の頭をやさしく撫でてあげる。


「そうだな。今頃あいつは意気揚々と山を下りてる所じゃないかな」

「いいの?だいじなどらごんのたまごだったんでしょ??」

「大丈夫、盗まれたのは偽物の卵だから」

「にせもの?おとーさま、じゃあほんものはどうしたの?」

「それは今ここにあるよ」

「???」


よく分かっていないようで、首をこてんと倒すしぐさが何とも愛らしい。

くっ、これが父性というものなのか。

そんなことを考えながら一連の出来事を説明していった。



########



時間はコボルド対策の協議をしていた時まで遡る。



「ここはひとつ、ジン様の意見も聞いてみましょう」


フレイさんの一言で、全員が俺に注目する。いや、この中で一番状況が分かってないんだけどな。


「えっと、その前に幾つか確認をさせてください。コボルド達の狙いはフレイさんの卵だって言うのは間違いないですね」

「そうですね。人間ならば私達ドラゴンを狙ってくる事もありますが、コボルドが狙う価値のあるものは卵のみです」

「では、卵が無事に孵ればコボルドは手を引くと思うのですが、あとどれくらいで孵るか分かりますか?」

「この部屋の霧のようになっている魔素が全て卵に吸収される頃には孵るはずなので、まだ1か月以上は先になります」


……あれ?


「それって、逆に言えば、この部屋の魔素を全部卵に吸収させたら孵るってこと、ですか?」

「……そうとも言えますね」

「それなら、この部屋の魔素、なんて言わずに皆さんの魔力を卵に送り込めばすぐにでも孵ったりしないんですか?」

「それは無理です。個体に宿る魔力はそれぞれの波長を持っていますから、その波長が合わないと直接受け渡しは出来ないんです」


あー、いや。うん、そうだよな。

周りを見渡せば、魔素の霧が最初に見た時より多少薄くなっているのが見て取れる。


「なるほど、それなら上手く行きそうな作戦があります」

「ほぉ、さすが救世主様ですな。我らが1か月話し合っても出なかった解決策をすぐに思い付いてしまうとは」


いやだから、竜人族の長老。そんなに持ち上げないで欲しい。まだ出来るかどうかも分からないんだから。


「それで、その作戦とは?」

「こんな狭い洞窟の中で戦うからコボルドに苦戦している訳ですよね。なら、卵を囮に使って、コボルドを広場におびき出しましょう。そこでドラゴンのブレスで一網打尽にしてしまえば一気に解決です」

「いや、待て。卵を囮に使うのは危険すぎるし、第一、この部屋から持ち出す事は出来んぞ。そんなことをしたら成長が止まってしまって孵らなくなる危険性がある」

「あ、やっぱりそういう問題もあるんですね。まあ、なので偽物の卵を用意しましょう。適当なサイズの岩を加工して、卵っぽい魔力で表面を覆っておけば、囮にはなってくれるでしょう」

「なるほど、だが本物の卵がある限り、そちらのエネルギーを感知されれば、卵が2つあることになってしまう。勘の良いものが居た場合、偽物だとばれるぞ」


確かに、卵はかなり強力なエネルギーを内包しているから、探知系のスキルがあればかなり離れていても存在を確認出来そうだ。

まあ、だからこそ最初の前提を変えてしまうのが、一番の近道だろう。


「その問題を、というか。そもそもの問題を解決するために、卵を孵してしまいましょう」

「は??いや、だからそれが出来れば苦労はしないし、先ほど無理だと説明しただろう」

「いえ、それが方法があるんですよ」


俺がそう言うと、フレイさんがその方法に気が付いたようで、ハッと俺の手を見つめてくる。


「俺が卵の浄化をしたのは聞いてますよね。あの時、俺の持っている特殊スキル『手当て』で大気中の魔素を取り込んでろ過して卵に送り込んでいたんですよ。

さっきは浄化が出来た所で止めましたが、そのまま続ければ、すべての魔素を卵に送り届ける事も可能です。そうすれば1か月かかるはずのところを1日2日に短縮出来るはずです」


フレイさん以外は、とんでもないものを見る目で俺の事を見てくるが、しばらくして納得したのか腰を落ち着けてくれた。


「なるほど。話は分かった。では我の方で偽の卵は用意しよう。グレイ、お前は囮役のジン殿が無事に逃げられるように、かつ、コボルド共を効果的に誘導出来るような逃走経路の選定を行え。終着地点は西の虚構大地が良かろう」

「おいおい、ゼンさん。囮をジンにさせるってのは無理があるんじゃねえか?多少強いとは言っても、卵を抱えてコボルドのただ中に飛び込ませるのは危険すぎるだろう」

「だが、我らドラゴンや竜人族が卵を持っていく訳にもいかんだろう。他に適任がおらんのだ。だから我らが追手のふりをして、不測の事態に備えておこうではないか」

「ちっ、分かったよ。だけど、すぐに囮作戦を決行するって訳でもないんだろ。その間に、身体強化や念話のやり方、あとはプライベートルームもついでに教えておこうぜ。そうすればステータスも相まってコボルドキングにだってやられることはないだろ」

「ふむ。グレイにしては気が利く。よし、それで行こう」


とんとん拍子で話が決まっていく。

まあ、それもまずは俺が卵を孵せるかにかかっているので、早速、卵のところに行って『手当て』を行ってみる。

既に一度行った動作だから、かなりスムーズに行けそうだ。外の魔素を一度体内に取り込むところを改良すればもっとうまく出来るはずだ。

前は呼吸だけだったけど、今回は足元からも地脈を引き上げていく。

道場長は『大周天』とか『小周天』って表現をしていたけど、つまりは外から取り込んだ気や魔力を一度丹田(へその少し下の位置)に集約して、全身に流し込んでいくらしい。

息を吸うタイミングで外から丹田へと魔素を取り込み、ろ過して、吐く息と共に右の掌から卵へと送っていく。ついでだから、また濁ったりしないように左の掌から老廃物というか排泄物?っぽいエネルギーを引き出して外に出していく。

そうして自分、右手、卵、左手、また自分と流れを作ると、いつの間にか自分と卵が一体になったような不思議な感覚になって来た。


ドクンっ!


鼓動?? あ、そっか。卵だから当然生きてるんだな。

じゃあもしかして話掛けたら聞こえたりするんだろうか。胎教ならぬ卵教、かな。


「トントントン(こんにちは)」

トクンッ♪(うみぃ)


「トトン、トン(魔素、あ、ご飯は美味しい?もっと食べる?)」

くるんっ、くるんっ♪(おいしいの♪もっとほし~い。あ、でも……)


『手当て』と『自動翻訳』スキルに期待して指先でノックしてみたら、鼓動や中で揺れ動く動きで、無事に会話が出来てしまった。

指先から流れてくる感じでいうと、2歳くらいかな。ちょっと眠たげな女の子の感情が流れてくる。


「トントン(でも、なにかな?)」

トクン(んと、ずっとおなじあじなの)


ふむ。意外とグルメなのか?

いや、人間で考えればずっと白米とみそ汁を食べているようなものか。

嫌いじゃないしまずくは無いけど、たまには違うおかずも欲しいって事だな。

であれば、そうだな。まずは送る魔素に自分の魔力も載せてみるか。


「トントントン(こんな感じでどうかな?)」

トクンッ♪トクンッ♪トクンッ♪(うわぁ。すごいの。おいしいの。うひゃーー♪)


凄い、もう卵自体がカタカタ動くほどの喜びようだ。

じゃあ、もっと欲しいってことなら気合入れてどんどん送ってあげよう。


パパと、お父さんと、お父様。

悩みましたが、お父様に軍配が上がりました。


ちょっと違う次回予告:

「こんにちは、赤ちゃん。私がままよ」

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