竜の山の攻防
よろしくおねがいします。
おかしい、もっとのんびり展開にするはずだったのに、台風のように話が進んでいく。
ワイバーンにぶら下がる事、約1時間。
竜の山(正確には山脈)の中腹へと連れてこられた。着陸する手前で手を放して、邪魔にならないように距離を取る。
そんな俺たちの周囲にはワイバーンの他にドラゴンも数種類集まってきていて、凄いことになっている。
その内の1匹が光ったかと思ったら一瞬で人の姿へと変わった。
見た目は俺より少し年下の美少年って感じだ。とは言ってもドラゴンだ。かなり年上と見て間違いないだろう。
「偵察に行ったと思ったら、人間を連れてくるとは随分珍しいじゃないか。おい人間、見たところ、使役も隷属も魅了も使われた様子がないが、どうやって彼らを手なずけたんだ?」
そう言いながら俺を上から下まで眺める美少年に俺はここに来ることになった経緯を話した。
「なるほど、そうか。お前は異界の民だな。特殊スキルを幾つか持っているようだが、ここではそのステータスでは撫でられただけで死にかねないぞ。悪いことは言わない。勇者気取りなら帰るんだな」
どうやら俺のステータスを見たみたいだな。
てっきり鼻で笑われて門前払いかと思ったが、俺の身を心配してくれてるみたいだ。
「お心遣いありがとうございます。ですが、俺の所に声が届いたってことは、多少は力になれることもあると思います。なので、まずは一度会いに行ってみます」
「死ぬぞ」
「死なないように上手く立ち回りますよ」
「……まぁいい。それなら好きにしろ」
しばらくにらみ合った所で、向こうが根負けしてくれた。
と、その時。
ギャオオオオッッッ!!!
くっ、近いと大音量だな。
ただその声を聞いて、そこに居たドラゴン達が慌てて飛び立っていった。
俺と話していた少年も慌ててドラゴンの姿に戻って、
「おい、お前。そこまで言うなら敵の場所まで連れて行ってやるから、背中に乗れ! ただし、死んでも知らんからな。邪魔だけはするなよ」
「分かった、ありがとう」
俺が背中に乗るとすぐさま飛び立ち、山に空いた大穴に飛び込んで行った。多分この先が竜の巣になってるんだろう。
そしてある程度進んだ所で人の姿へと変身する。
俺は空中に投げ出されたので慌てて地面に着地した。
「おっと」
「ん、あぁ。すまん。背中に居たのを忘れていた」
「それは構わないですが、なぜ人の姿に?」
「この先は狭い箇所が続くから、人の姿の方が楽なんだ。さぁ行くぞ」
言うやいなや、走り出す少年に付いていくが、流石ドラゴンというべきか、かなり早い。凹凸の激しい道を流れるように走っていくから離されないようにするのがやっとだ。
やがて洞窟の奥から激しい戦闘音が聞こえてきた。
角を曲がった先に見えたのは、犬っぽい魔物とトカゲっぽい魔物がぶつかり合っているところだった。
「どっちが敵ですか?」
「決まってる、コボルドの方だ」
それを受けて俺は、足元の石を拾って、風魔法で威力を高めながらコボルドに投げつけていく。
パッと見、コボルドはこちらの倍以上居て、数で押し込もうとしているようだ。だから1対4くらいになって劣勢な所を優先する。
更に負傷した者が仲間によって後方に下がってくるので、ひとまず命に関わりそうな者には手当てを行っていく。
「オラァッ!」
前線ではドラゴンの少年が自分より大きな剣を振り回しながらコボルドの群れの中に飛び込んで行く。一気に10匹以上のコボルドを両断してしまう姿は、流石ドラゴンと言ったところか。
っと、それを見てトカゲっぽい魔物も浮き足だって突撃しようとしてる。って、それはまずいだろ。
「前線部隊は今のうちに陣形を整えろ!突撃したい奴らは右翼に集まれ!中央と左翼は彼の後ろに敵が回り込まない様に援護。弓と投げ槍隊は奥のコボルドアーチャーを狙え!」
俺の号令に合わせて突撃しようとしていた奴らを含めて一斉に動き出す。
俺の言うことなんて聞かないんじゃないかって思いもしたが、杞憂だったようだ。
右翼の突撃部隊は・・・・・・準備は整ったけど、先導者っぽいのが居ないのか。それもまずいな。
仕方が無い、腹を括るか。
「右翼突撃部隊は俺に続け!一気に奥まで突き抜けるから、後れるなよ」
「「オオォォォ!!!」」
こういうのは最初はノリと勢いだ。
VRの攻城戦でも最前線で啖呵を切った奴に全員が引っ張られる、なんてのはよくあることで、大切なのは怯まないことだ。
だから右翼突撃部隊の先頭まで躍り出て、風魔法でカマイタチを生み出しながらコボルドの群れに飛び込む。
そこからはもう、無我夢中で敵の群れを掻き分けて行った。本当はドラゴン少年みたいに薙ぎ払えれば良いのだろうけど、流石に今の俺にそこまでの膂力はない。なので、切りかかって来る剣をいなし、脇腹や顎に一撃を入れて体勢を崩し、どうにかこうにか先へ進んでいく。止めは後ろから付いてきている奴らがやってくれるだろう。
そしてコボルドの群れを抜けた後は、後方の弓や魔法メインの部隊に急襲を仕掛けながら左翼まで抜ける。
敵はもう撤退間際って雰囲気だな。もう一息か。
「全員無事か?ラスト一撃行けるか?」
「「もちろんです、隊長!!」」
隊長?ってこいつら喋れたんだな。一瞬振り返ると、返り血で凄いことになっているが、大した傷も無くほとんどが無事に抜けてこられたようだ。
「よし、これから敵の後方を突きつつ、撤退させる」
「え、逃がすんですか?」
「そうだ。もちろんただで逃がすんじゃなく、逃げる間に大打撃は加えてやるけどな。いいか、奴らの逃走経路を塞がないように注意しろよ。行くぞ!」
「「はい!!!」」
前面のドラゴン少年、左翼後方からの突撃部隊の攻撃を受けて、コボルド達は右翼後方へと撤退を開始する。
「深追いは不要だ。反攻が無いのを確認して撤収するぞ」
そうしてかなりの数のコボルドを討ち取りつつも何割かには逃げられた。まあ元々こちらの方が数的に不利だったし、既に負傷者も多い。これぐらいが良い所だろう。
今はまず負傷者を回収しながらベースに戻ることにしよう。
ただ、そんな俺達の姿を少し離れた所から観察していた者が居た。
「チッ、なんだあいつは。邪魔しやがって。・・・・・・まあいい。次も邪魔するならトカゲ共と一緒に葬ればいいだけだ」
その呟きは誰に聞かれることもなく消えていった。
この世界ではワイバーンもそれなりに知性が高い設定になっています。
トカゲっぽい魔物(ドラゴニュートとか竜人とか言われる種族)は、魔物ではなく亜人です。
それはまた次回に。
間違った次回予告:
「おぉ、指導者よ!!我らの行く先をお導きください」




