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学生服の少年少女は今日も前線で戦います  作者: 彩雨カナエ
Chapter.1 できれば平穏に異世界を満喫したかった
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08.あの寝言は神をも殺せるだろう

 案内されたのは2階の階段横の部屋だった。扉を開け明かりをつけると、丁度良いサイズのテーブルに椅子が2つに大きなベッドが1つ。トイレやシャワーも扉で仕切られた先にあるようだ。小さめの宿屋だったから、これくらいの設備が妥当か。


「あれ? 照明とかシャワーってどういう原理なの?」


 正直、魔法が存在する世界で科学技術が進んでいるとは思えない。例えば、熱を必要とするとき。わざわざ燃料を燃やさなくても、魔法で加熱すれば良い。その方がエネルギー効率もいいだろう。


「それはね、この中に結晶が入っているからなの」


 エリーは天井から吊るされた照明を指差した。確かに、ガラスの中に石が入っている。

 彼女曰く、「結晶」の正式名称は「魔力吸収可能属性結晶」で、長すぎるから現地民は略すのだとか。結晶はこの世界の地中に存在するもので、色が属性を、大きさが強度を表しており、対応する属性の魔力を吸収及び放出することができるらしい。

 でも、「何故スイッチを押したら光ったのか」と聞いたら「分からない」とのこと。このような技術は「結晶科学」と言われており、結晶を使った魔力の回路などを作るには、かなりの知識と魔力を要し危険を伴うため「結晶技師」という資格が必要なんだとか。日本で言えば電気工事士みたいなものか。


「えっと、その……ベッド、どうする?」


 僕が「エリーがベッド使えば? 僕は床で寝るから」とでも言うと思ったのか。残念、その逆だ。何故そんな問いをするのか考えていると、エリーの口から出たのは、予想外の言葉だった。


「その……カズヤなら多分「2人で寝るのが最も合理的」って言うだろうなって」


 なるほど、そう来たか。だが、これも残念ながらあり得ない選択肢である。とある原因が無ければそうするのだが。


「そんなにベッド使いたいなら、僕は床で寝るから」


「え、ホントに? カズヤのくせに珍しく親切ね。嬉しいような……悲しいような……?」


 断言した僕はさらに、その原因を言い放った。


「だってエリーの寝相、酷過ぎるから。横に寝たら明日の朝に生きているか分からないくらいだよ。寝言もうるさいし」


「な、何で知ってるの!?」


 あ、地雷踏んだみたい。こっちに傘向けてきたよ。


「いつ? どこで見たの?」


 言わないと殺されそうなので、仕方なく話すことにした。というか本人覚えてないのか。


*****


 文芸同好会設立から一週間後のこと。この日も僕は襟井の小説の執筆を手伝っていた。手伝うといっても、読んで感想を言ったり間違いを直す程度のことだが。


「……で、ここは空気抵抗を考慮すると明らかに……ん?」


 なんと、僕が長々とミスを指摘している間に寝落ちしているではないか。さっきまで一生懸命ノートに向かって頭を悩ませてたのに、今はそのノートの上に顔を乗せ目を閉じている。

 わざわざ起こすのも面倒だったので、そのまま放置することにした。


 30分経っても1時間経ってもなお起きず、それどころか両足を机に載せて頭は床についているという不思議な体勢になっていた。分かったことその1、彼女は寝相が悪い。

 そして彼女の頭の横には小さな水たまりが。同好会室の床にヨダレ垂らしてるんだけど。分かったことその2、彼女は口が緩い。

 最終下校時刻が近づき、流石に起こさないといけないので取り敢えず腹を軽く叩いてみた。多分、「寝ている女子のお腹を触る」というのは非常によろしくないことだろうが、僕的に襟井は友達感覚だったから気にしてなかった。よい子はマネしちゃだめだよ。

 すると彼女の口から漏れたのは衝撃の一言。


「かずやぁ~……なぁにたべてんのぉ~…………え~のどにつまったぁ~……あれぇ~しんじゃったぁみたい……」


 僕、彼女の夢の中で窒息死した模様。しかも喉に食べ物詰まらせたのが原因なのか。分かったことその3、彼女の寝言は内容が酷い。


*****


「これがその理由なんだけど……」


「え……私、そこまで寝るとヤバかったの?」


 僕が「うん」と首を縦に振ると、エリーの傘を持つ手は下がらず、そのまま弱めの炎を放った。


「何でちゃっかりお腹触ってんのよ変態!」


「わざとじゃないから! あと危ないから止めて!」


 ギリギリ壁には引火しなかったがテーブルの端にススがついている。僕は避けようとしてドスッと尻もちをついてしまった。あまり下に響いてなければいいけど……。すると突然ドアの外からノックの音と聞いたことのない人の声がした。


「エリーさん居ますか? ちょっとお話が……」


「私? こんな時間に誰だろう……」


 エリーが扉を開けるとそこに立っていたのは、やはり僕が知らない女性だった。


「あら、男の方と…………お楽しみのところ大変失r」


「何もしてないですから!!」


 女性の言葉はエリーの大声によってかき消された。いや、こっちは殺されかけているんだが「何もしていない」とは一体……。


「あ、カズヤ、この人はギルドの人ね。で、そのお話っていうのは……」


 ギルドって確か、冒険者が集まるところだよな。あの小説に出てきた記憶がある。


「申し遅れました。この町の冒険者ギルドでクエストの管理を担当しているミアと申します。」


 そう言ってこちらにぺこりとお辞儀をした。同じく僕もお辞儀で返す。床に倒されたままだけど。特にそれには触れず、彼女は話を続けた。


「町の北側にある遺跡の周辺にモンスターが大量発生していまして、それの討伐を明日にお願いしようかと。金欠だと聞いたのでもってこいだと思いますが」


 それを聞いたエリーは親指と人差し指で丸を作り、スッと前に出す。


「勿論報酬はありますよ。えー……30万シルンですね。交通費は全額支給されます」


「受けます」


 即答。その差、僅か0.6秒。結局大事なのはお金か。まあ、お金があれば部屋別々にできるし、受けて損はないだろう。明日からはよく眠れそうだ。

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『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』スピンオフ第1弾!!
『鍛冶屋を営む大男は今日も少しだけ働きます』
※「Chapter3-01.異世界では何の役にも立たない知識」までお読みになっている前提となっています。

彩雨カナエ Twitter @Rain_Nf3
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