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学生服の少年少女は今日も前線で戦います  作者: 彩雨カナエ
Chapter.1 できれば平穏に異世界を満喫したかった
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07.エリーの財布事情

 2分くらいあのままだったので、流石に苦しくなってきた僕は強引にエリーを引きはがした。町に着くまで、僕達は1年前の約3か月間の想い出を語り合った。


「でも襟井だからって、エリーって名乗るのはうっ」


「カズヤが『桜子より襟井の方が呼びやすい』って言ったんでしょ!」


 ちょっと弄ってみたら腹パンされた。え、原因は僕ですか?

 その後は魔法について説明で分からなかったところを聞いたりした。


 日没と同じ頃、ようやく町の入り口に辿り着いた。エリーはいかにも硬そうな鎧を着た門番と話している。化けたモンスターとかの侵入を防ぐために本人確認をしているのだとか。


「おう、エリーか。あそこで煙が上がってたから心配していたんだ」


「あ、あはは……」


 笑って誤魔化そうとしているエリーをよそに、門番はこっちに目を向けた。


「ところでコイツ、見ない顔だな」


「私とパーティを組んでいるんです。別に入っても問題ないですよね?」


「ああ、そういうことなら通っていいぞ」


 検査、超緩いね。これで意味があるのだろうか。それとも、エリーがこの町の人に信用されているのか。確かに魔法の腕は凄いみたいだけど。

 そこで、僕はエリーにある違和感について聞いてみた。


「ねえ、ここ異世界だよね。なんで日本語通じるの?」


「あー……それ私も最初気になっていたんだけど、元々公用語が日本語らしいの。『翻訳スキルを持ってる』とか『世界が私に合うようにできてる』とか思ってたから残念だったわ」


 さすが自称「らのべ作家」。そういえば結局あの小説、投稿できなかったんだよな。それについても、あとで聞いておくか。それにしても公用語が日本語って……。異世界間で言語が伝わるなんてあり得ることなのか。町の建物はレンガ造りだし、どう見ても西洋風なのだが。


 町の中心部は人々で大いに賑わっていた。武器屋の壁には立派な斧や杖が掛けられ、飲食店では酔っ払い共がバカ騒ぎしていて、広場ではギリギリな衣装の踊り子が舞っている。目に見えるもの全てが現実とかけ離れたものだった。いや、2番目は見たことあるな。


 エリーは呆然と立ち尽くしていた僕の手をぐっと引き、近くのレストランに連れ込む。そこにはお洒落……とは大変言い難い光景が広がっていた。冒険者と呼ばれるであろう人達が酒を飲みまくっている。しかもうるさい。カウンターの方から「おじさんー! いつもの2つー!」「あいよー」とエリーが注文する声が聞こえた。「いつもの」って、アンタ常連客なのか。


 席に着くやいなや、ドンと料理が運ばれてきた。魔法を使った調理は圧倒的な速さを誇る。やっぱ魔法凄いな。

 プレートの上に載っていたのは、パンみたいなものに「よく分からない肉」とこれまた「よく分からない野菜」。野菜に限っては模様が顔みたいに見えるのだが……エリーが容赦なくフォークを突き刺して食べてるからきっと大丈夫だろう。勇気は必要だが。

 思い切って口に入れてみると、想像以上に美味しかった。何故か味が濃く、ドレッシング無しでもいける。謎の肉も焼き加減が絶妙だった。パンはすんごい硬かった。

 

「あのさ、これ何なの?」


「うーん……そう言えば知らないわ」


 エリーさん、あなた度胸あり過ぎでしょ。その点だけは尊敬します。

 店を出るとまたエリーに腕を掴まれ、連れていかれたのは比較的小さめの宿屋だった。確かに、泊まるところ考えてなかったね。エリー曰く「パーティ組んだ以上お財布は一緒」とのことなので、2人分の宿泊費は足りるのだろう。


「えーと、1人部屋2つだと1泊いくらですか?」


「2人? あ、そこの男の子ね」


 エリーと話していた受付のお姉さんがこっちに目を移してきた。この町に来てからやたらジロジロと見られている気がする。制服が目立つのかな。


「それだと、1万シルンになるけど」


 「シルン」というのはこの世界のお金に間違いない。横には「一泊5000S(朝食付き)」と書かれているから、「S」がその略称だろう。

 エリーはポケットから取り出したポーチの中を漁り、顔を上げてこっちを見つめてくる。まさか、とは思ったが、そのまさかだった。


「8000シルンしかない……」


「は?」


 1人だけ野宿確定ですか。じゃあ、お前が野宿な。と、言おうとする前にお姉さんが横から口を挟んできた。


「だったらさ、2人1部屋にしちゃえば? それなら7500シルンだけど」


「ふ、2人部屋!? 流石にちょっと……ねえ?」


 再びこっちを見てくるエリーの視界に入った僕の顔には「良いじゃん。2人とも野宿しなくて済むし、一番合理的な選択でしょ」と書いてあったに違いない。


「ま、まあカズヤがいいなら……それで……」


 何故か顔を真っ赤にしたエリーがポーチから硬貨を出し、僕達が部屋に向かおうとすると、またお姉さんが口を出してきた。


「ほかの客もいるから、できるだけ夜は静かにね!」


「な、何にもありませんから!!」


 静かにと言われても、特に騒ぐこともないような……あ、でもエリーことだから部屋で魔法撃ったりとかしそうだな。怒らせないように気を付けよう。

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『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』スピンオフ第1弾!!
『鍛冶屋を営む大男は今日も少しだけ働きます』
※「Chapter3-01.異世界では何の役にも立たない知識」までお読みになっている前提となっています。

彩雨カナエ Twitter @Rain_Nf3
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