∞.コレカラ
いつも通りの朝を迎えたノナテージの街並みを、部屋の窓から眺めていた。
これまた、いつも通りベットから床に落ちているエリーを叩き起こし、朝食をとろうと1階に降りる。
あの直後、彷徨っていたユーラが僕達を見つけてくれたお陰で、壁を突き破り、どうにか迷宮から脱出することができた。
アキはテディが消えてすぐに目を覚まし、ルナの怪我も彼女の再生能力によって、命に関わるまでの傷を負わずに済んだ。
リンカが出来立ての朝食を机の上に並べてくれていた。各々の席につき、食器を手に取る。
「あのさ……カズヤ君……」
手を止め、何やら深刻な話でも切り出すかのようなトーンで、ルナが話し始めた。でもまあ、このテンションはいつも通りか。
「私……ちょっと……パーティ抜けるね……」
「え?」
「あのね……実は……グレイスに、剣を教えて貰うことに……なってて……」
しばらく、そっちに泊まるから戻ってこれない、と。というか、そこまで仲良くなっていたとは。魔王も居なくなったことだし、グレイスはただの優しい吸血鬼。特に心配はない。
しかしながら、近接攻撃役がいなくなるのは……。
「か、カズヤさんっ!」
それをルナの横で聞いていたアキが声を上げる。このタイミングで……まさか!
「わ、私も……挑戦したいことがあるんですっ!!」
目を輝かせて、こちらを見つめるアキ……こ、断れない。
「皆さんと冒険して、ある程度のお金も集まったので……元いた町で、宿屋をやってみたいなって」
はあ、と僕は溜息をつきながらも、その笑顔に免じて首を縦に振った。
あれ? もし2人がパーティを抜けたら……。
自然と顔が左へと向く。朝食を綺麗に平らげていたエリーと目が合った。
「……何?」
「いや、ルナとアキがいなくなったら……僕とエリー、2人きりだなーって」
それを聞いたエリーが、喉を詰まらせ咽る。
「じゃあ、そろそろ……あっ、エリーさんガンバです!!」
「え、えっと……末永く、お幸せに……」
急に何? どういうこと?
チラッとカウンターの方に目を移すと、リンカがこちらに向かって「グッ」と親指を立てていた。
「も、もう……カズヤのバカっ!!」
僕の肩辺りをポカポカと叩くエリー。今回に限って、左ストレートではなく助かった。いや、痛いのには変わらないのだが。
「そういえばカズヤ、昨日アレ届いてたぞ」
リンカがら受け取ったのは、落ち着いた空色の紙と赤いリボンで丁寧にラッピングされた、直方体のものだっだ。
「何、それ」
エリーが興味有り気に、椅子から立ち上がって寄ってくる。そんな彼女の方を向いて、それを突き出した。
「これ、エリーへのプレゼント」
「え? ぷ、プレゼント!?」
スルスルとリボンを解き、包装紙を剥がす。その中にあったのは……どこか見覚えのあるタイトの、1冊の本だった。
「カズヤ、これ……どうして……」
「勝手に見ちゃってごめんね。エリーの棚にあったノートをこっそり見たら、あの時一緒に書いた小説、こっちの世界で書き直してたって分かって……だからこっそり本屋の人にお願いして、1冊だけ製本して貰ったんだ」
ペラペラとページを捲り、パタンと本を閉じる。袖で目元を拭い、両手を広げて飛びついてきた。
「やっぱり、カズヤ……大好きっ!!」
こんにちは、『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』作者の彩雨カナエです。
ちょっと不思議な彼らの異世界冒険譚、いかがでしたか?
この小説の案を思いついたのは、幾つかの異世界転生系小説を読んでいた時でした。
「何故、主人公はほぼ確実に事故に遭うのか」と。
そして、「それに理由があっても良いんじゃないか」と考えたのがキッカケです。
さて、ここでメインキャラクター達について、少し話しておこうかと思います。
まずは、カズヤ。主人公です。
きっと、皆さんも思ったことでしょう。「こいつ、やべえぞ」と(笑)
視点となるキャラクターである彼の思考回路に合わせ、地の文をガチガチに書いてみました。
カズヤの扱いづらさには、考えた私でも苦しみました。
それについてはこの後。
次は、ヒロインのエリー。
この物語が過去に絡むものであることから、ヒロインと主人公に面識を持たせるため、クラスメイトにしました。
でも、「こんな性格のカズヤが、自然と女子と仲良くなれるわけがない」ですよね。
ですから、学級委員という強制的な接点を持たせました。
また、主人公とヒロインは対になる存在にしたかったので、カズヤは防御、エリーは攻撃特化となりました。
続いて、アキ。
チェス大好きな小学生の彼女は、当初は「癒し系キャラ」として入れる予定でした。
だったのですが……それでは、何だかフニャフニャしたパーティになってしまいます。
最終的に、「唯一の常識人」的なキャラになりました。時々毒舌を吐かせるのが楽しかったです。
そして、ルナ。
パーティ内でただ一人の大人です。そうです、年上キャラです。
彼女がコミュニケーション下手であることと、カズヤと話の合うキャラにしたのには、これまた変わった理由があります。
この物語の本筋は「死んだ理由を解き明かすこと」にあります。
その一方で、エリーの恋心というものがありまして……。
言ってしまえば、アキとルナの2人は、エリーをカズヤから少し遠ざける為に必要なキャラです。
ですが、それには勿論、2人が好意を持ってしまっては面倒なことになってしまう……これにより、カズヤが非常に捻くれた性格になったのでした(笑)
一応、所謂「ハーレム」を形成しているカズヤですが、まあ、はい。何も起きていませんよね。
第一、カズヤに恋愛感情なんてものはありません。エリーのことも、ずっと友達だと思っています。
時々、エリーのパンツを目撃していますが、彼は「君のパンツに何の価値があるのか」みたいなことを考えてる人なので……。
そんなカズヤを孤独にさせないため(笑)にルナの性格がこうなりました。
キャラクター紹介はこの辺で。
結論から言いますとこの物語は、テディの思い描いたシナリオを、その中では脇役であるカズヤの視点でぶち壊していくもの。
ですが、黒幕がテディであることは2話目の最後でバレバレだったことでしょう。
これはもう、書いていて「まあいいか」って思いましたね。大事なのは黒幕ではなく、この物語の真相ですから。
Twitter等で宣伝するときも『ふくせん』と略してきたこの小説。
漢字に直すと「服戦」なのですが、「伏線」たっぷりな仕上がりになっちゃいました(;´∀`)
「エリーの書いた物語の内容」等、明らかにしていない部分が幾つかあるので、ぜひ考察してみて下さい(笑)
と、後書きはこれくらいにして、彼らの物語もここで終わりです(あ、でもスピンオフも幾つか書きたいなーって思ってます)。
最後までお読み下さり、ありがとうございました。