01.微小な記憶のカケラ
動かなくなったラスターの金属板を持ち帰ろうと、関節の隙間に剣を突き刺して、てこの原理で外そうとしているルナとアキ。
その横で、口の中の砲台を興味有り気に覗いているエリー。
早く出たいのだが。
とはいえ、止めさせるわけにもいかないし……この時間を使って、考えを纏めておこうか。
無論、魔王との戦いのことではない。この世界に……異世界に来てからずっと、考え続けていたことについてだ。
『僕達は何故死んだのか』
僕達4人は、確かに一度死んだ。そして気づいたらこの世界にいた。
エリーは階段から落ちて。
アキは工事現場の足場が外れてきて。
ルナは病気で。
僕は……机の角に頭をぶつけて。
どれも、偶然起きたものだ。不注意と言ってしまえばそれまでだが、自ら望んだものでもなければ他人によるものでもない。
ここまでは、別に違和感はないことだ。
でも、やはり僕は偶然だとは思えない。
何故、今、この場所に、この4人が集まっているのか。
元々はバラバラだったのに、そんな偶然があるのだろうか。
どうしても不可解な点があるのだ。
「ねえ、みんな……聞きたいことがあるんだけど……」
それを聞いた、ラスター解体班の2人は作業をやめ、機械を眺めるのに飽きた1人は面倒そうな表情をこちらに見せてきた。
「僕と初めて会った時、どうして『そこにいたのか』教えてほしい」
突然、こんなことを聞かれても困るのは分かっている。でも、これさえ分かれば……謎が解けるはずだ。
「よく分かりませんが……カズヤさんの言うことですから、何か考えがあるんですよね」
しゃがみ込んでいたアキが、そう言って立ち上がった。
彼女と会ったのは、遺跡のモンスター討伐に夜行列車で向かった時。車内でチェスの熱戦を繰り広げた。全部負けたけど。
実は私、王都の近くの町で暮らしていたんです。宿屋のお仕事を手伝う代わりに泊めさせてもらっていて。
でも、お客さんは段々減っていって……潰れてしまいました。もう泊めてあげられる余裕はない、そう言われて……思ったんです。国の中心であるノナテージにいけば仕事があるかも、って。
でも、雇ってくれるところなんて全然見つからなくて……諦めちゃいました。
その帰りの列車で、エリーさんとカズヤさんに会ったんです。
それを聞いたルナも、剣を仕舞ってこちらに口を開いた。
海に遊びに行く途中、森の中で迷っていたらバッタリ出会ったのだけど……思いっ切り怪我をしているのに平気な顔でいたのは、鮮明に記憶に残っている。
ほら、私……1人暮らしとか……できなかったから……してみたかったの。
何故だか力もあるし……冒険者でも稼げるかなー……ってね。
だから……長いこと見れていなかった……海の近くに住みたくて……小屋を借りてたの。
あの日たまたま……モンスターを倒してたら……足を木に引っ掛けちゃって……怪我をしたときに……道に迷ってたみんなと会ったの。
はあ、と溜息を吐き、「仕方ないから話してあげる」と露骨にアピールしながらも、エリーは寄りかかっていた壁から背中を離した。
僕がこの世界に来て、モンスターに襲われそうになった時、助けてくれたのは彼女だった。1年ぶりの再会に、お互い大喜びだった。
私はただ、この世界に来て、目が覚めた場所に戻ってみただけよ。あの日は……私が死んでから丁度1年だったもの。
自分でもどうしてだか分からないけど……その時はただ、そこに戻らなきゃ、って思った。
そしたら、モンスターと対峙してる人を見かけてね。明らかに押されてたから、助けてあげたら……カズヤだったの。
3人の証言を全て纏めると……エリーだけおかしくないか?
アキとルナの話は、納得のいく理由が存在しているし、論理に問題はない。それなのに、エリーだけは「なんとなく」じゃないか。
「エリー、それ……理由はないの?」
「理由? うーん……その時は『行かなきゃ』って。どうしてなのか、全然分からないけど、『1年待った』から……何かが出かかってるんだけど……ダメ、思い出せない……」
彼女を突き動かした義務感、1年という期間、そして失われた記憶。
「ちょっと待って……ねえ、まさか……『1年待つ』ように誰かに言われたの?」
「え?」
「1年経ったからって、行く必要は別に……あ、でも、死んでからすぐにこの世界に来てるから、そんなことは有り得ないのか……」
そう、死んでから話しかけてくる人なんているわけないじゃないか。当たり前だ。というか、そんなの人には無理だ。
「ちょっと待って……肝心な何かを、忘れてる気がするの……」
エリーは頭を抱え、記憶の奥底に眠る何かを、捻りだそうとしていた。
そして、その言葉が、この謎を解く最大の鍵となった。
「まだ、あやふやな記憶だけど……私……」
どんな欠片でもいい。微小なものだって、足し合わせれば完全なものになれる。
「死んでから、この世界に来るまでの間に……誰かと話した……」
「本当に!?」
「ええ……何か、話した覚えがあるの……」
そんな、まさか……。
本当に誰かが関わっているんじゃ……。