14.気弱な少女の幸福論
眩しいくらいのライトが上から照らされる、そんな最後に目にしたものとは真逆の、永遠の暗闇の中に私はいた。
見えない地面の上に立っていた。周りに何もないその空間は、イメージしていた死後の世界にそっくりだった。
緊急手術で失敗したのか、遅れたのか、そもそも手遅れだったのか。そんなことはどうだっていい。結局、初めから私は死ぬ運命だった。ただそれだけだ。
ずっとそう思ってきたはずなのに……どうしてだろう、涙が止まらなかった。
一生懸命、勉強したから? 仲の良い友達が出来たから? それとも、何も自由にできなかったから?
「泣いていたら、君の可愛い顔が台無しだよ?」
突然、後ろから聞き覚えの無い声がした。振り返ると、そこにあったのは……よく分からないぬいぐるみだった。
え? 今なんて……。
「ごめんごめん、言ってみたかっただけさ」
まるで心を読んでいるかのように、聞き返す前にあしらわれてしまった。しかもその声は、ちょこんと座ったぬいぐるみから発せられたようだった。
「なーんて、からかってごめんね。そのぬいぐるみ、どうかな? 可愛くない?」
いつの間にか背後に立っていたのは、ゆったりとした黒いフード付きの服を纏った女の人。真っ暗闇の中で、その銀髪と紅い目が際立って見えた。
「継ぎ接ぎだらけで……ちょっと……怖い……」
「えー……じゃあ次までに新しいの作らなきゃ」
一体、彼女は何なのだろう。こんな場所にいるのだから、人間じゃないのかもしれない。
「そんなことは置いといて……私はテディ。死んだ人を異世界に送る女神だよ」
女神……明らかに非現実的な話ではあるけれど、今いる場所だって非現実。何の躊躇いもなく、彼女の言うことを受け入れた。
「それでね。君のお願い、叶えてあげるよ。だから、よーく考えて言ってみて」
私の願い……生きている間、何か夢を持ったことはあっただろうか。私が記憶している限りでは、そんなことは1度もなかった。
ほんの少しの間だったけど……死をもって、幾つもの大切なものを失った。
だから、思いつく私の願いはもう、これしかなかった。
「今までできなかった……色々なことを……経験したい……」
外を走り回ったり、友達とはしゃいだり、殆ど何もできなかった人生を……取り戻したかった。
「そっか。じゃあ、向こうに送るよ」
私を支えていた見えない何かがスッとなくなり、体が宙に投げ出されたような感覚に陥る。いや、違う。私は落下していた。
これが私の、第二の人生の始まりだった。
「これで役者は揃った。さあ、物語の幕開けといこうか……」