12.迷宮に潜むオーパーツ
目の前に広がるのは、迷宮内で見た中で最も大きな空間。リンカと別れた後、エリーに振り回されながらテキトーにウロウロしていたら自然と行きついてきた。一体どうしてこうなったのか、僕には全く分からなかった。
空間の中央に置かれていたのは……玉座のような形をした構造物。でも、サイズが明らかに人用ではなかった。
「ワレヲタオシニキタノカ」
密閉された部屋の中に、何者かの大きな声が響く。その声は……まるで合成音声のような、あまりにも人間味がないものだった。
「私達が倒そうとしてるのはラスターよ。アンタなんかに構ってる暇は……って、私誰に向かって言ってるのかしら……」
未知の存在に対して真顔で答えておいて、それに自分で気づいているバカが横に1名。それにしても、声の主は一体どこにいるのだろうか。辺りを見回しても、それらしきものは目に付かないのだが……。
「ナラバソノチカラヲワレニシメセ」
その言葉が耳に入るのと同時に、ガッと壁を強く蹴るような音と衝撃が伝わった。いや……壁じゃない。
「エリー、上っ!」
キョロキョロと周りを探している彼女の腕を掴み、思いっ切り引っ張った。先程まで僕達が突っ立っていた場所に、ドスンと何かが落ちてきた。
「あ、ありがと……カズヤも、や、やればできるじゃない!」
「そういうのいいから! 前!」
彼女のよく分からない茶番に付き合っている暇などない。ソレが目の前で翼を広げ、その下についた幾つもの砲台がこちらを向いているのだから。
「コイツがラスターね。いいわ、ぶっ壊しちゃいましょ!」
エリーが傘の先をラスターの頭に向け、勢いよく魔法を放つ。赤属性強めなのか、着弾と同時に激しい爆発と熱風が巻き起こった。
がしかし、ラスターには……1つの傷も付けられなかった。
「まさか、あの鉄格子よりも凄い金属使ってるんじゃ……」
彼女の実験と結果、既知の事実を纏めて要約すると、「詰んだ」ということだ。
まず僕には攻撃手段がない。よって僕はラスターにダメージを与えることはできるはずがない。
次にエリー。彼女の攻撃が効かないとなると……もうお手上げである。「逃げるが勝ち」と言いたいところではあるが、案の定、入ってきた通路はいつの間にか閉ざされていた。
「と、取り敢えず攻撃を避けながら考えようか」
「そうね」
両翼の下から放たれる光の弾丸。割と大きめのそれらは、エリーは言うまでもなく、僕でもなんとか見切って避けることができた。
だがそれを察知したのだろうか。ラスターは大きな口をガバッと開き、中の砲台を覗かせていた。確か、ラスターは機械だったはず。そう、結晶で組まれただけの……。
それなのに、こちらの動きを完全に把握し、行動を変えているのだ。かなり性能の良い人工知能を積んでいるかのように。
「カズヤ、これ結構ヤバいんじゃ……」
翼下のそれと比べると数倍も大きい上に、頭という方向を変えやすい場所に取り付けられているものだ。単体の弾なら避けれるかもしれないが、連続性のある光線だと、確実に逃げ切れない。
だけど、エリーの魔法で相殺できるかどうか……。
「ちょっと、何やってんの!」
できるだけ遠くに離れろと諭されるも、それに意味がないことに気付いている僕はその場から動かなかった。
勿論、ノープランではない。そのプランというのも、たった今気付いたものだが。
迷宮の通路で遭遇した敵達。あれらの攻撃は全て「魔法で生じた力によって放たれる」ものだった。魔法があくまでも「間接的に」使われているから、僕が打ち消せなかった。
だけど、ラスターは違う気がする。光弾を撃ち出すなんて、魔法をあれらと同じように使って可能なものではない。
前にルナが言っていた。
回路を構成する結晶には、コンデンサーのように「魔素を溜めるもの」と導線のように「魔素を流すもの」、ボタンのように「魔素を感知するもの」、そして電球や電熱線のように「魔素を魔法に変えるもの」があると。
魔力吸収可能……なんとかってやつも「魔素を溜めるもの」に分類される。
魔法は、言わば魔素の流れ。その定義に従えば、結晶が媒介して発現するものも、魔法なのではないだろうか。
この答えが正しければ、ラスターの攻撃は僕が防げるはずだ。これもルナが言っていたように「気付かなかった」だけ。魔法だと認識していないから、逆演算が働かないだけなのだ。
考えが纏め終わると同時に放たれた光線に目を凝らす。すると、ほんの一瞬の間に大量の情報が頭に流れ込んできた。
情報量は膨大、だけれど整理すれば単純な、まるで綺麗に因数分解できるn次関数のようだった。
読み取った魔法の式を、打ち消すための逆魔法の式へと変え、それを前に向かって撃つ。2つの魔法が接触した瞬間、乾いた音ともに辺りが青い光に包まれた。
「できた! エリー、これなら……」
「防御できたとしても、攻撃できなきゃ意味ないでしょ」
「あっ……」
そうだ、エリーの攻撃でも一切通用しないんだった。比較的弱そうな関節部分を重点的に攻めれば何とか……待て、何かが引っかかる。
ラスターは機械、すなわち動力源が必ずあるはずだ。天井に止まったり飛翔したりしているのだから、ケーブルのようなものは無いだろう。つまり、内部に魔素を溜めこんだ結晶があるはずだ。
そして、その中身は魔法を撃って入ればいずれ底をつく。
「そうか、充電切れを狙えば!」
「確かに……カズヤらしいセコさね」
動けない機械龍など、ただの金属の塊に過ぎない。こうして僕達は、エリー曰くセコい耐久戦に持ち込むことにしたのだった。