11.救世主はピンチになってから出てくる
通路の両端が塞がれていて、その外側には敵がいるかもしれない。こうなってしまった以上、「どちらかに敵がいない」ことに賭けるしかないのではないだろうか。
そっち側の氷の壁だけを破って、逆側は厚くして、走って逃げれば何とか……。
「ねえ、その氷……破れるんだよね?」
「それが……必死だったからぶ厚くしすぎちゃったんだよなあ……」
氷が破れないとなると、例え敵がいなかったとしても……氷が解けるまで出られないってことじゃ……。もう助けを待つしかないじゃないか。
そう諦めかけたその時、通路の奥から爆音が響き、粉塵を貫くように光が……こっちに向かってきていた。
今から逆演算していたら間に合わない。そう思ったのだが、不思議とその魔法は過去に経験済みだったようで……。
僕の手から出た微かな青い光が、その魔法を打ち消した。
煙の奥に見えてきたのは、何やら見覚えのあるシルエット。こちらに向かってきている。
「キャタピラー付いた変なのは壁ごとぶっ壊したけど、まさか自滅しそうになってるなんて」
そこから現れたのは……エリーだった。魔法の時点で分かってたから、そこまで驚きはしないけど。
「助かった。それにしても、よくここが分かったね」
どうせテキトーに歩いていたら偶然僕達に出くわしたのだろう。そんな皮肉を込めて言ってみたのだが……。
「魔法無しで爆発起こすなんて、アンタくらいしか考えられないでしょ!」
ま、まさか真面目に考えていたとは……。何を張り合っているのか、さらなる難題を突き付けてみたいと思ってしまう自分がいた。
「でも、カズヤがいなかったら辿り着いてない……かも……しれない……し……」
「もう、めんどくさいやつだなー!」
後ろから勢いよくエリーに抱きつき、髪の毛をわしゃわしゃと撫でるリンカ。こんな光景、1年前に想像できただろうか。
男子とは勿論のこと、女子とも学級委員の職務以外で一切の関わりが無かったエリー。お互い、友達が1人しかいなかったのに……。
リンカに弄られている彼女を目にして、別に僕は保護者では無いのだが、謎の感動と安心感を覚えた。人って変わるものだなあ。
「それで、他の皆は?」
ようやく解放されたエリーが一度溜息をついた後、僕に質問してきた。
「アキとルナとは会ったんだけど、効率を考えて別れた」
「エリーは、途中でミアとかユーラに会わなかったのか?」
それを聞いたリンカが先程とは打って変わって、いつにも増して真剣な表情でエリーに聞き返した。
「いいえ……」
「そっか……でもまあ、あの2人ならきっと大丈夫だよ」
神妙な面持ちのリンカを、ここにきて初めて見た。やはり、内心では2人が心配なのだろう。もしもミアが独りだったら……攻撃手段がないわけではないけれど、その後誰かが助けなかったら……。
そして、それ以上に気になって仕方がないのだが……どうして会話の中にアレンの名前は一度も出てこないのだろう。確かに見た目と反して存在感が薄いのは分かるのだが、本気で忘れられているのだろうか。
ここは、それに気付いた僕が彼の名前を言ってあげるべきなのか。でも、話の流れを断ち切らない方がいいのか。
「それにしても、出口みつからないな……」
リンカが前を歩きながら、話題を変えようとそう言い終える直前、天井から何かが落ちてきて土煙が舞い上がった。
徐々に晴れていくにつれて、どんな状況かが明らかになってゆく。僕達2人とリンカの間が……鉄格子で断たれていた。
「ちょっと、どいて」
一応魔法なのかそうじゃないのかを握って確認していた僕を退け、それに向かって傘を向けるエリー。
数分前に僕が打ち消したいつもの光魔法を放つも、再び煙るだけで鉄格子には傷1つ付かなかった。
「やっぱりね。これ、かなり高級な魔法金属で出来てるもの」
城の地下に閉じ込められた時も、エリーの魔法で壁を壊して脱出した。彼女の魔法の破壊力には定評があるのだが……。
「ユーラさんとかルナなら、いけるんじゃない?」
「ルナは、どうだろう……ちょっと分からない」
咄嗟に提案するも、一瞬にして半分を潰された。しかも「分からない」で。否定するときは、根拠を提示してキッパリと言って欲しいのだが。
「でも確かに、ユーラさんなら壊せるかも!」
おお、前半が採用された。
「そうと決まれば、ユーラを探すしかないな。アタシはこっちを探すから」
金属の壁に阻まれている以上、2組に分かれるしかない。いつの間にか歩きだしていたリンカが、振り返ってこちらに手を振ってきた。
それを見て、やっぱり頼れる人なんだなあと、そう思ったのだが今すぐにでも訂正したい。小声で「ひ、独りでダンジョンとか……寂しい……」と聞こえてきた。