10.魔法少女の推理ショー
終わりの見えない迷路を、腕にかかった日傘を揺らしながら、勘に頼って進んでいく。私の足音だけが狭い通路に響いていた。
「痛っ! 壁か……」
下を向いて歩いていたら、いつの間にか分かれ道に辿り着いていた。よそ見してて額を壁に打ち付けた、なんて……誰かがいたら笑われるに決まっている。
でも、今は笑ってくれる仲間が欲しかった。
少し前までは、冒険は独りでするのが当たり前だった。だけど、つい最近になって、仲間と一緒に冒険する楽しさを知ってしまった。
だから、寂しかった。
この世界に来て、少しは外交的になれただろうか。
色々な人と会話を重ねていくうちに、マシにはなったのかもしれない。でも、その根本にあるのは、カズヤとの思い出に違いない。
2つに分かれた道を前に、過去の記憶が蘇ってくる。
――迷路で迷わないようにするには、どうすればいいかって? そんなの、片側の壁にそって進めばいいんだよ――
私が小説を書いていた時、分からず質問したこと。それを思い出し、不思議と笑いが込み上げてきた。
「ふふっ……私、カズヤに助けられてばっかり……」
直感で右を選び、そちらにつま先を向ける。その時だった。
迷宮内に轟く爆発音と、立っていられないほどの振動。それが分かれ道の先、すぐ近くから伝わってきた。
誰かいるかもしれない。そんな希望を胸に、前に歩みを進めた。
「何、これ……」
漂う物が焼けた臭いと、焦げ付いて真っ黒になった床と壁。そしてバラバラになったモンスター……のようなもの。
爆発したのがここだということは瞬時に理解できた。でも、どうして……。
推理とかそういうの、昔から苦手だけど……どうしてだろう、見逃しちゃいけない気がする……。
床に転がっているガラクタの山の中に、一際大きい金属の板があった。爆発で凹んではいるけれど、サイズは壁の穴と同じくらい……これは扉かな。
穴の先にあった一層焦げ臭い空間。さっきのが扉なら、ここは部屋なのだろう。炭化した木材が転がっているということは、この辺りに火の元があるはず。
光の球を出して、暗い足元を照らす。
部屋の中をうろうろしていると、カツンと何かがブーツに当たった。ガラスの欠片……どうしてこんなところに……。親指と人差し指でつまみ上げる。
どうしてもヒントが見つからない時は、前のマップに戻る。探索ゲームならよくあることだ。
一度、外に出て辺りを見回す。やっぱり、ガラス製のものなんて……不意に視線が上に向く。そうだ、灯りの周りがガラスで出来ているじゃないか。
ここの灯りは、火の結晶をガラスでコーティングしている構造だから……中身が床に落ちたんじゃ……。
老朽化……でも、それなら部屋が燃えて終わりなはず。爆発したということは、人為的に壊された。そうに違いない。
だが、どうして爆発するのかが分からない。単に敵の攻撃によるものだろうか。いや、ここまでの破壊力がある攻撃は、迷宮の中では見てないし……味方を巻き込んで攻撃しなそうだし……。
でも、私達の中にこんな魔法を使える人は……私しかいない。ユーラさんの魔法だと、部屋は跡形もなく消し飛ぶだろうし、炎を伴うものではない。ミアさんは使えるけど……魔力が尽きて動けなくなりそうだ。
無論、私ではない。「じゃあ今までの時間は何だったんだ」って話になる。
だから、魔法による爆発ではない気がする。この世界は魔法要素さえ除けば元の世界と変わらない。そう聞いたことがある。
異世界で魔法を使わずに爆発なんて、こんな器用なことをやってのける人を、私は1人だけ知っている。
――ねえ、このシーン。ドアを開けて中の女の子を助けてるけどさ。火災現場でこんなことしたら、主人公爆発で死ぬよ――
私のライトノベルの、とあるシーン。主人公が燃えている城から姫を救出するというものだった。むしろ「主人公爆死エンド」でいいんじゃないかと持ち掛けられて、笑いが止まらなくなった記憶がある。
バックなんとかって専門用語っぽいものも言ってたような気がする。
「ホントにこんなことしちゃうなんて……カズヤ、凄いなあ……」
当時は「知ってて何になるんだよ」と思っていた知識を、今はフル活用して異世界で戦ってるなんて……。
「こっちにいるんだよね、カズヤ」
拾ったガラス片をガラクタの中に投げ捨てて、彼が進んだであろう方へと駆け出した。