08.水でなくとも溺れる
「はあ……やっと会えました……」
ルナの大剣によってぽっかりと空いた壁の穴の先に、2人は立っていた。その溜息から、アキの疲れが容易に推測できる。
「この子小さいのに凄いね。迷わないようにどう歩けばいいか考えてたときにも『ずっと壁伝いに歩けばいいんですよ』って言ってくれたし」
そう、迷路のような場所で迷ってしまったとき、左右どちらかの壁に手をついて進めば、同じ道を何度も通ってしまうことなく、正解の道に辿り着ける。まあ、かなりの時間はかかるだろうが。
流石はアキ、いつも通り頭の回転が速い。
「それで、この後どうするんだ?」
「うーん……やっぱり、もう一度別れた方がいいんじゃないでしょうか」
このまま1つに纏まっていた方が安全なのは確かだが、捜索するには非常に効率が悪い。アキとリンカがいることは把握できたから、何れ合流できれば大丈夫だろう。まあ、その方法が思いつかないのだが。
「組み合わせはどうするの?」
リンカの質問に対し、アキが間を置かずに答えた。
「カズヤさんとルナさんのペアは微妙ですよね」
まるで、僕とルナが今から言おうとしていたことを察していたかのような発言。それ、エスパーってやつですか? そんな魔法、いつの間に覚えたんですか?
と、ツッコミたくなるくらい先のことを考えているアキでした。
「この4人だと、カズヤさんはリンカさんとがベストなのでは?」
「え……あ、でも……そうかも……」
アキの提案に、一瞬迷いながらも賛成するルナ。
でもリンカの魔法は氷。遠距離攻撃だって可能なのだから、2人と相性が悪いとは思えないのだが……。
「そっか。アタシが君達2人と組んだら、邪魔になっちゃうからか」
「邪魔……?」
どういう意味だろうか。アキとルナの仲を考えて……そしたら僕はどうなるんだよ。
「その……リンカさんの魔法、使った後に氷が残っちゃうじゃないですか。私の駒とか、ルナさんは動き回って戦う訳で……」
ああ、つまり「氷で滑ると危ないから」か。あんな勢いで飛び上がって、着地した場所が凍ってたら、そりゃ転ぶだろうな。
アキの魔法は遠近両用だし、ルナとの相性も悪くないだろう。
「じゃあ、この組み合わせで。何かあったら、もう一回ここに集合にすればいいよな」
一番年上のリンカがこの場を仕切るが、何かが引っかかる。そう、「どうやってここに戻ってくるか」である。
「そういえば、伝達魔法って使えないのか?」
エリーに魔法の式を送る時以外使うことがないので完全に存在を忘れていたが、伝達魔法という便利なものが有ったじゃないか。ある程度の距離なら離れていても、テレパシーのように思ったことを直接相手に送ることができる。
「あー……カズヤさんはエリーさんと繋がってるので使えますけど、アレ結構難しいんですよ」
「エリーちゃんって……魔法に関しては……凄いんだよね……」
さらっと「魔法に関しては」と限定しているのが妙に面白く、笑いそうになったのを必死に我慢する。アキに見られたらエリーに告げ口されかねない。
伝達魔法が難しいということは初めて知った。でも何故、エリーはそれを使えるのだろうか。
一度、彼女に聞いたことがある。どうしてそこまで強い魔法を使えるのかを。誰かが伝授したとは聞いたことが無いし、転生したのだから「潜在能力」で括っていいものなのかも分からないからだ。
その問いに、彼女はこう答えた。
――全然分からないの。初めて魔法を使ったときも、周りの冒険者達より強かったから――
エリーはこちらの世界の人間ではない。僕もそうだ。アキも、ルナだって。
それなのに、どうして……僕達4人はこんな力が使えるんだ?
伝達魔法の話を基に湧き出た大量の情報の波にのまれていく、そんな僕の肩を何かがポンポンと叩いた。ハッと我に返り、振り返ると、アキが背伸びをしながら手をこちらに向けていた。
「急にボーっとして、どうしたんですか?」
「ごめん、少し考え事をね」
今はそんなことをあひている場合じゃない。敵が近くに来ているかもしれないし、早く話を元に戻さなければ。
「……となると、マーキングしながら進んでいくしかなさそうだね」
ほら、僕でも知っている某童話みたいに何かを落としていったりとか。森とかだったら縄を結んだり、木の幹を傷つけたり、色々な方法があるのだが……ここは石の壁に囲まれた通路だ。
「だな。それじゃ、また後で」
「了解です!」
そんなこんなで、僕とリンカ、アキとルナはそれぞれ別の道に進んだのだった。