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学生服の少年少女は今日も前線で戦います  作者: 彩雨カナエ
Chapter.5 この戦いに終焉を
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07.幻影の地下迷宮

 あれ……?

 どれだけ走っても、さっきまで乗っていた馬車が見つからない。走っても走っても、寝ていたはずの6人が見当たらない。どうして……方向は間違ってないはずなのに。


 なんとか逃げ切った僕はその場にしゃがみ込み、疲労を一切感じさせない……というか疲れていないルナに尋ねた。


「はあ、どうして……。ルナ、こっちで合ってるよね?」


「うん……こっちから……来たはず……」


 暗いとはいえ、ここは殆ど障害物のない草原だ。馬車から喋っていた岩まではもちろん一直線。真っ直ぐ走っていれば、いずれは衝突するはずなのだ。

 向こうは灯りを消しているが、僕達は光源を持っている。万が一、横を通り過ぎそうになったとしても、気づかない訳がない。


 流石に、連れ去りなんてことはないだろう。馬車ごと動かしたら誰かが起きるだろうし、この静かな草原のど真ん中だ。音がすれば僕達だって気づくはずである。


「ねえ……もしかして……」


 ルナが、何かを思いついたかのような素振りを見せた。


「何か分かったの?」


「ここ……草原じゃ……ないのかも……」


「え?」


 彼女の言っていることの意味が、いまいち理解できない。確かに、さっきまで僕達は草原にいたじゃないか。足元だって、草が生い茂っていて少し歩きにくいくらいだ。

 何を言ってるんだという目で彼女に目を移すと、何かを触るかのように空中で手を動かしていた。えーと、あれだ。パントマイム的な。


「いいから……ここは草原じゃない……ってことを疑わないで……信じてみて……」


 このままでは埒が明かないので、あきらめて彼女の言う通りにすることにした。でも、信じるって具体的には何をすればいいのだろうか。

 別の何かを頭に思い浮かべればいけるのか? それとも単に、ここが草原ではないということを暗唱でもすればいいのか?


 ああ、もう。どうすればいいのか全然分からない。こうなったらもう一か八か……。


「ここは草原じゃない」


 イメージするという目的を超え、音読してみた。なんかもう、一番簡単なんじゃないかと思ってのことだった。声に出すってことは一度思考しているってことだもんね。


 脳内で理論展開をしていると、突然視界がぐにゃりと歪みだして……治った瞬間、目に映った風景は全く別のものだった。


 見事に切り出され磨かれた、直方体の石を積み上げて作られた通路の壁。ルナはさっきからここを触っていたのだ。


「ここに来た時から……ずっとこの場所に……いたのかも……」


「じゃあさっきまで見えていたのは……」


「幻影……それが偽物の風景だって気づかないと……解けない……」


 成る程。だから、「草原ではない」ということを認知した瞬間に、見えているものが幻であることに気づいて、本当の場所が分かったってことか。


「じゃあ、これも魔法なの?」


「うん……魔素の量が多い場所だと……自然に起きることがあるみたい……」


 おかしいな。魔法だったのなら、見るだけで逆演算できるはずなのに……いや、違うな。

 この能力、僕自身が「魔法であることに気付いている」という条件があるに違いない。例え目に映っていても、それを魔法だと気付けなければ使えないのだろう。

 広い空間に影響を及ぼす魔法には注意しなければ。


「そういえば、皆はどこに?」


 幻影のことで頭がいっぱいになっていたのだが、今急ぐべきは6人の捜索だ。皆も僕達と同じように、この通路を彷徨っているかもしれない……起きていればの話だが。


「でも……そんな魔素がある……ってことは……ここって……」


 僕達の目標は何だったか。そう、魔王軍三将の1人……ではなく1体の機龍ラスターの討伐だ。そのラスターが住んでいる場所が「地下迷宮」と呼ばれるダンジョンである。

 何故、「迷宮」と付くのか。そりゃ、迷いやすいからに決まってる。でも、それってもしかして……。


「「あっ……」」


 僕とルナが、同時に勘づいて声を漏らす。さっきみたいな幻影のせい……つまり、ここが地下迷宮ってことだよね。


「私とカズヤ君……の組み合わせで……ダンジョンって……」


「……取り敢えず、早く誰かを見つけよう」


「分かった……」


 急がねばならない理由はもう一つある。草原だと思っていたときに遭遇したバリスタだ。あの時点でもう幻影を見ていたということは、すなわち地下迷宮内、それもすぐ近くにあのバリスタが構えているということなのだ。


 だが、そう簡単には上手くいかないのだった。連続で続く分かれ道に、壁に仕掛けられたトラップ。どれも危うく死ぬところだったのをルナに助けられた。流石は「迷宮」と言ったところか。


「うーん……動かないで待機してた方がいいのかなあ……」


「でも……敵が……来ちゃうから……」


 もしも、この狭い通路で遠距離攻撃型の敵に挟まれたら一巻の終わりだ(主に僕が)。じゃあ十字路になっているところで待っていれば……ってバカか僕は。遭遇する確率が上がるだけじゃないか。しかも注意する方向が増えてしまう。


「だ、誰か……いるんですか……?」


 疲れて一旦もたれかかった壁の丁度裏側から聞こえたのは、いつも笑顔で僕のクイーンを叩き潰しにくる、アキの声だった。


「僕だけど」


「か、カズヤさんっ!! はい、います! あとリンカさんも!!」


「私もいるからなー」


 そこまで特徴的な声じゃないと思うんだけど……判定の要素、「僕」なのか?

 って、そんなことはどうでもいい。今は壁の向こう側の2人と1秒でも早く合流したいのだ。


 たかが壁一枚、されど壁一枚。距離は近くても、きっと道のりは凄く長い。単純に道を探したところで、相当な時間がかかってしまうのは明白だ。


 僕は何事でも慎重にいきたい派であるから、全ての道を試したいところなのだが、あくまでも今は急いでいる。こんな時、そうだな……エリーなら何と言うだろうか。


――はぁ? そんな面倒なことしなくても、壁ぶっ壊せばいいじゃない!――


 ああ、絶対そういうに決まってる。というか、ぶっ飛んだエリーの思考を容易に想像できてしまう自分が恐ろしい。


 ただ、この時間は無駄ではなかった。だって、こちら側にはルナがいるのだから。


「ルナ、この壁壊せる?」


「え……壊す……の……?」


 彼女は一度たじろいだが、スッと2つの剣を出すと列車で戦った時のように、それらを1本の大剣に変えた。それを軽々と持ち上げて、大きく振りかぶる。


「アキちゃん……危ないから……ちょっと下がってて!!」


 ギリギリ奥に聞こえる声を出したルナは、一度深呼吸をして、壁に向かって大剣を振り下ろす。

 天井の灯りで輝いていた石たちは轟音とともに、彼女の一撃によって砕け散っていった。

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『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』スピンオフ第1弾!!
『鍛冶屋を営む大男は今日も少しだけ働きます』
※「Chapter3-01.異世界では何の役にも立たない知識」までお読みになっている前提となっています。

彩雨カナエ Twitter @Rain_Nf3
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