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学生服の少年少女は今日も前線で戦います  作者: 彩雨カナエ
Chapter.5 この戦いに終焉を
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01.ミユリア団、再び集結

 エリーが希望した「1日デート」から返ってきた僕は、ドッと疲れを感じ椅子に腰かけた。町中を散々振り回された挙句、最後に寄った店でお高いバッグを買わされたのである。

 まあ報酬金がある程度は残っているのでお金には困っていないのだが、エリーに何か買ってあげるくらいなら、壊れた壁の修理費を出してあげた方が断然有意義な気がする。


「暇だな……ルナ、アレやろう」


「分かった……」


 この場合の「アレ」が具体的に何のことを指しているのかはルナに伝わるはずがないが、「アレ」が属する括りがどんなものかは大体分かって貰えるだろう。理系同士のシンパシーというやつか。


「それじゃあ、3.141592653」


「えっと……5897……932384……」


 次に続く10個の数字を声に出そうとしたとき、口を挟んできたのはいつものように1人チェスをしていたアキだった。


「あのー……急に何が始まったんですか?」


「円周率を10桁ずつ言うゲームだけど」


 何も捻らず、そのままのゲーム内容を伝えただけなのだが、場がシンと静まった。エリーが紙にペンを走らせる音が良く聞こえる。


「次は、6264338327かな」


「それ、やっててどんな気分なんでしょうか……」


 どんな気分なのか、と問われても……よく分からない。

 別に、楽しいという訳でもないし、一種の暇つぶしに近いのだが……あ、強いて言うなら知識比べに近いかもしれない。

 他にも、素数にフィボナッチ数列、√2やネイピア数eとか、色々な数値でできるし……誰がやるのか分からないけど。


 すると突然、部屋の扉がコンコンとノックされたのだった。

 最も扉に近い場所に座っていたエリーに向かって「出て」とアイコンタクトを送るが、気づいているはずなのに完全無視。

 アキもその場を離れず、クイーンをイジイジしながら「今チェスしてるので無理です」感を出していた。


「950……2884197……」


 次の10桁を言って立ち上がったルナが、ドアを開けに行く。何なんだ、このパーティは。


「夜遅くにすみません、ミアです」


 まあ、何となく予想はしていた。今までこの部屋に来たことのある人はミアくらいである。グレイスはヴァンパイアなので不適。


「1つ、話がありまして……下に来て頂けますか?」




「えっと……これは何の集まりなのかしら……」


 宿屋の1階、置かれた大きなテーブルの先に立っていたのはユーラと、宿屋の受付のお姉さん……は別に変ではないのだが、どうして例の門番も居るのだろうか。


「取り敢えず、座って話をしましょう」


 僕達の反対側に座った4人に一体どんな共通点があろうか。ギルドマスター、研究員、宿屋、門番……全く分からない。


「そっか、エリー達には一度も言ってなかったね」


「そういえば、確かに言ったことないな」


 この2人が僕達に言っていないこと……そういや、彼女らのことは全然知らないな。というか、よくよく考えたら名前すら教えて貰ってないではないか。


「アタシはリンカ、こっちのおっさんはアレンね」


「何で皆そろって『おっさん』呼ばわりなんだよ。まだ20代だぞ……『お兄さん』じゃないのか?」


 いつもの門番改め、アレンの悲しい訴えは7人全員にスルーされ、話題はこの4人の関連性へと移った。


「私達ですか? そうですね……何て言えばいいかな」


 僕が彼らの関係を尋ねると、ミアがそう言って他の3人の方へ視線を送った。彼女が敬語を使っていないのを見るのはこれが初めてだった。

 ということは、実はこの人達……仲が良いのか!?


「うーん、そうだなあ……アタシ達4人は子供の頃、一緒に冒険してたんだよ」


「「「「!?」」」」


 予想の斜め上を行く衝撃の事実に開いた口が塞がらない。受付のお姉さん改め、リンカがモンスターと戦っていたというのも驚きだが、それ以上に、ミアが冒険をしていたというのは思ってもみなかった。


「冒険といっても、私はギルドの仕事がありましたし、なんせ魔力が無く戦闘に全く役に立たなかったので、出かけていたのは時々ですけどね」


 王女であることを隠していたのだから、きっとあの能力も使えなかっただろうし、昔は相当苦労したに違いない。「もはやパーティに必要なのか」と考えてしまうのは、攻撃に参加できないという同じ境遇の僕も、なんだか分からんでもない。

 少なくとも防御手段はあった方がいいんじゃないかな……と思っているのが現状だ。


「何だったっけな、パーティに変な名前つけてなかったか?」


「ミユリア団……でしょ?」


 アレンが頭に手をやり思い出そうとしていると、ずっと黙っていたユーラがボソッと、またもや徹夜明けのようなテンションで呟いた。


「思い出してみれば、アレすっごいダサいよねー。あ、考えたのって確か……」


 リンカがその名前にかなりストレートな感想を言い放つと同時に、ミアの方をちらっと見る。横の2人の視線も彼女に向いていた。


「あ、あれは私の黒歴史だからっ! やめてっ!」


 手で顔面を覆い、紅潮しているのを隠そうとするミア。プライベートの彼女がこんな感じだったとは。


「その黒歴史って、どんなのですか?」


「『名前考えてきて』ってミアに頼んだらさ、徹夜してまで色々案を出したらしいんだけど、最終的に持ってきたのが『ミユリア団』だったんだよね。まさか全員の名前の頭文字を組み合わせてくるとは……」


 ギルドマスターであるミアを本気で弄りにいくアキに、ノリノリで黒歴史を暴露するリンカ。就任直後なのに彼女の立場が危うくなっていた。


「それで……話って……いうのは……」


 ダラダラと長引く雑談にルナが終止符を打った。頭を抱えてテーブルに突っ伏していたミアが、顔を上げて一旦咳払いをし、再び話を始めた。


「簡潔に纏めますと、この8人で明日、ラスターの討伐に出かけようと考えています」


「ラ、ラスターって三将のですか!?」


「はい。私達とエリーさん達が一緒になって戦えば、機械龍ラスターも倒せる気がするんです。ギルドマスターとして何ができるかを考えたら、やはり直接倒しに行くことではないかと」


 正直、僕達4人だけでラスターを倒せる訳がない。ロザインと戦った時もノナテージを守った時も、殆どはミアとユーラのお陰なのだ。なら、協力する義務がある。

 僕がエリーとアキ、ルナの方に顔を向けると、3人とも首を縦に振ってくれた。


 魔王のところまであと1歩。最後の砦となるラスターを倒せれば、この戦いの終焉も近いだろう。

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『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』スピンオフ第1弾!!
『鍛冶屋を営む大男は今日も少しだけ働きます』
※「Chapter3-01.異世界では何の役にも立たない知識」までお読みになっている前提となっています。

彩雨カナエ Twitter @Rain_Nf3
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