04.円を描く関数は僕を地獄に落とす
あの後必死の説得で何とか誤解は解けたが、エリーの僕に対するイメージに色々な影響を及ぼしたに違いない。
「……じゃ、練習しましょ。適当に式作って、送ってみて」
「適当にって……何でもいいの?」
エリーが頷くのを確認し、僕は脳を逆演算モードに切り替える。といっても、目を瞑って魔法を頭に思い浮かばせるだけだ。魔法の式に含まれる要素は主に3つ。属性、軌道、強さである。
エリー曰く「私は赤属性か黄属性の攻撃魔法が得意」だというので、属性は限定されている以上、配合は半々にしておく。強さは攻撃魔法の場合、破壊力を表すから……ちょっと弱めにしておこう。理由は後程。そして軌道だが、僕は円を選択した。具体的には「x^2+(y-1)^2=1」みたいな……簡単に言うと原点を通る円だ。
お分かり頂けただろうか。逆演算は、魔力がほぼ無い僕がエリーにやり返すための唯一の手段といってもいいだろう。
そして僕はこの魔法を逆演算し、エリーに送った。都合がいいことに、魔法の式の演算結果は魔法を使用するまで分からないらしい。
「えっと、これを撃ってみればいいのね……」
「うん、早く撃ってみて」
この後の展開が楽しみ過ぎて僕はエリーを急かす。絶対キレるだろうが、そんなことはどうだっていい。
「それじゃ……えいっ!」
日傘の先から放たれた弱々しい赤い光の束は、前に進むと思いきやどんどん角度を変えて、エリーの頭上を通過する。
「えっ……?」
だがもう遅い。完璧に構築されたその魔法はまだまだ角度を変えて、エリーの背中にどーん。その熱さで飛び上がるくらいのリアクションはしてくれるだろう…………と思ってた時期が僕にもあった。
なんと赤い光はエリーの足元にどーん。地面との衝突による小爆発の勢いで飛び上がったのはエリーではなく…………彼女が穿いているスカートだった。一瞬、白いものが僕の視界に入る。あ、これはマズい。殺される。
背中にぶつかるのは地面と水平に魔法を撃った時に限られるのをすっかり忘れていた。エリーはスカートの端を両手でピシッと伸ばすと、顔を赤らめ……
「これが目的かっ! このド変態!」
予想通り、俺の方に傘を向けたエリーは細かい炎の弾丸を連射。20分くらい続いたこの下らない揉め事によって、何体のモンスターがとばっちりを食らったのだろうか。気づいた時には辺りが焼け野原になっていた。これは僕の責任ではない。否。断じて否。
その後数回、至って真面目に逆演算の練習をした。機嫌を取り戻す為にどれだけ謝ったことか。もしかしたら今日が「人生で一番謝罪した日」になるかもしれない。だが次は、本当に命が危ないだろう。
「そろそろ町に戻りましょ」
「いいけど……町ってどこにあるの?」
「あっち」っとエリーが指した方向にあったのは横に大きく広がった石の壁。存在には気づいていたけど、あれって町だったんだ。
2人で草原を歩く途中、僕はずっと気になっていたことを口に出した。
練習している時に考えてはいたが、やはりエリーとは何処かで会ったことがある気がする。それ以前に、よく見たら彼女が着ている制服は「僕と同じ学校のもの」だったのだ。
エリー……エリィ……エリイ……えりい……えり、い…………。まさかとは思った。でも、答えは聞いてみなければ分からない。
「あのさ、エリー……」
「何よ」
さっきの事故を未だに引き摺っているエリーは何だか冷たかった。
「その、君って…………桜子だよね?」
いきなりの質問に驚いたようだ。正直、人違いだったら物凄く恥ずかしいのだが。
「まさかカズヤって……姫乃数八!?」
ご名答。異世界で僕の名前を知っているということは、会ったことがある人に決まっている。するとエリーは潤んだ目を擦ってこう言った。
「また……会えた」
襟井 桜子。去年、つまり僕が高校1年生の時のクラスメイト。彼女こそ僕が唯一まともに話すことが出来る、心を開いた女子。そして…………享年16歳。
「また、数八に会えた!」
そして、僕に思いっきり抱き着いた。さっき変態呼ばわりしたのに、とは思ったが僕は抵抗せず、彼女の気持ちを受け止めた。