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学生服の少年少女は今日も前線で戦います  作者: 彩雨カナエ
Chapter.4 最前線では善処する
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09.約束は必ず守る と仮定する

 底の見えない程深い谷の上に掛けられた2本のレールの上を、蒸気機関車が走り抜ける。現実なら絶対にない光景だろう。最低でも橋はあるはずだ。


「だ、大丈夫なのよ……ね?」


「分かんない」


 ビビりまくりのエリーに何の保証もないことを告げる。だって本当に分かんないんだもん。


「レールが壊れることは、計算上はあり得ないので!」


 対岸から自信をもってそう叫ぶユーラ。少しは安心できるけど、「計算上」なんだよな。

 ちなみにユーラはミアが伝達魔法で呼び出したのだが、丁度そのタイミングで昼寝をしていたらしく、全然気づいて貰えず20分のロス。これは痛い。


「まあ風とか吹かなければ大丈夫でしょ」


「カズヤさん、言い終えた瞬間から吹き始めましたよ。フラグ回収の天才ですか?」


 風は不可抗力であり、タイミングも偶然なのに僕に文句を言ってくるアキ。どうせすぐ止むだろうと思っていたが、一向に止まないどころかさらに強くなってきた。


「時間もあまり無いし、このまま行くしかないね。ルナ、客車1両だけ残して連結器斬っちゃって」


「風が当たる部分を……減らすってことね……分かった……」


 警戒中で剣を出したままだったルナは、そのまま目的の連結器に大剣を降ろし、重い金属音を立てて真っ二つに切断した。


 今更ながら、どういう原理で金属をここまで綺麗に斬れるのか甚だ疑問ではあるのだが、僕はもう学習している。この世界で起こる事象に一々ツッコミを入れていたらキリがないことを。


「エリーは火をお願い」


「もう、本当に疲れたんだけど……」


 それは勿論分かっているし、できるだけエリーに無理をさせたくないとは思っている。でも蒸気機関車を動かすのはエリーにしかできない以上、ここは頑張って貰わねばならない。

 あまり使いたくは無かったが、最終手段だ。


「魔王軍を追い返せたらさ、エリーの言うこと1つ聞いてあげるから、頑張って!」


「え、ホント!? じゃあ頑張るっ!!」


 言い方は悪いが、相変わらずチョロかった。相変わらず、というのはこれと同じことを高校1年生の時にも何度か使ったからである。


 僕と彼女が一緒にプールに遊びに行ったことがあると言ったが、あれも最終手段による代償だ。しかも僕が溺れるという事故まで起きた。

 ファミレスのときもそうだ。一回目の時は割り勘にしたのに、二回目は……まあ、分かるだろう。全額奢らされた。

 何故だか例外なく、この手段をとると僕が被害を受けるのである。


 と、悲しい過去を思い出しているうちに蒸気機関が動く状態に達したようだ。ユーラが魔法で作った疑似レールが繋がっているか、もう一度目視で確認し、レバーを動かしていく。

 そして、客車1両だけが繋がった短い列車は、ゆっくりと全身を始めた。


「ねえ、本当に大丈夫なの? 落ちて死んだらさっきの約束どうなるのかしら」


 本当にそうなったらあの世永遠に付きまとわれそうだ。それは困る。


 一番前の車輪が地面から離れ、谷の上に差し掛かる。特製のレールがバキッと折れることは無かったが、横からの風を受けてガタガタと客車が揺れ始めた。

 まあ、万が一のときはルナがどうにかできるだろう。彼女なら谷底から這い上がって来れそうだよね。あ、物理的な意味で。


 だが、そんな恐怖の時間も僅か数秒で終わった。谷の幅、精々20メートルくらいだったからだろう。客車1両が20メートルで列車の速度が時速36キロと仮定すれば、客車が疑似レール上にいるのは僅か4秒間だけだ。


「はあ……ここ暑いのに、冷や汗が出たわ……」


「あとはノナテージまで走り切るだけだから。エリー、火もっと強く」


「疲れた……けど、約束の為なら……」


 エリーの放つ炎が、王都を出てすぐの時よりも強くなっているように感じた。わざと体力を残しておいたようには思えないし、まず彼女がそういう発想に行きつかないと思うので、やはり例の約束の力だろう。


 緊急事態という名目が有れば怒られないとのことなので、ユーラも乗せて、再びフルスロットルでノナテージへと走り始めた。




「ちょ、カズヤさん早くブレーキをっ!!」


「ブレーキかけてるんだけど……もしかして壊れちゃった……り?」


「ええええええええええええええええええええ!?」


 もうすぐノナテージの駅についてしまうというのに、まさかこのタイミングでブレーキが故障すると誰が思っていただろうか。


 このまま停まれずに町のど真ん中にある駅に突っ込んでしまったら、脱線だけでは済まないだろう。多分、周辺の民家に突っ込んでしまう。


「ちょっと危ないかも……しれないけど……停まれば……いいんだよね……」


 緊張感を微塵も感じさせないいつも通りのテンションでそう言ったルナは、客車の窓をパリンと割り外に飛び出した。


 窓の縁に手足を掛けながら、いつの間に切断したのかヴァンパイア達と戦った時と同じように、金属の手すりを車輪に向かって投げ入れた。


 力行はしていないので速度は徐々に落ちていくが、それでもまだ時速70キロくらいはあるだろう。だが、駅まではあと400メートル程。残された時間はたったの20秒だけ。


 間に合わない。そう思った瞬間、ルナは列車と同じ方向に向かって走り出したのだった。


 そうか、今のスピードなら列車よりルナの方が僅かに速い。つまり追い抜けるということだ。

 列車の前に出たルナはさらにその差を広げていき、そして思いっ切りレールの1本を蹴飛ばしたのだった。その衝撃で犬釘と枕木は弾き飛ばされ、レールはぐにゃりとひん曲がった。


 あれ? これってまさか……。


「エリー! はやく客車の方に!」


「まさか強制的に脱線させて止めるってことですk……わあぁぁぁぁぁぁ!!」


 機関車が大きく右に傾き、ドスンと強い衝撃を感じた。揺れでバランスを崩したアキの手を握り、ドア横の手すりをガッチリと掴む。

 地面に点々と存在する岩にぶつかりながら徐々に減速していき、最後は町を囲む石の壁に側面衝突。流石は人々を守っている壁、列車がぶつかろうと貫通することは無かった。つまり、ちょっと凹んでヒビが入った。


「カズヤさん……町の修繕費、ギルドの予算で足りればいいんですけど……」


 いつも以上に深刻な顔のミアが僕に向かってそう言った。えーと、機関車の客車を2両と蒸気機関車を1両ダメにして、窓や手すりを破損し、レールを走行できない状態にして、町の壁を破壊……これは、仕方ないことだよね。そうだよね!?

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『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』スピンオフ第1弾!!
『鍛冶屋を営む大男は今日も少しだけ働きます』
※「Chapter3-01.異世界では何の役にも立たない知識」までお読みになっている前提となっています。

彩雨カナエ Twitter @Rain_Nf3
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