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学生服の少年少女は今日も前線で戦います  作者: 彩雨カナエ
Chapter.4 最前線では善処する
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04.最初に選ぶのは最後の手段

 塔の大きさに合わせて作られたであろう円形の地下空間を、エリーが放つ光を頼りに捜索する。だが、梯子以外にここから出られそうな道が見当たらない。


「うーん……このままだと強行突破するしかないかもしれませんね……」


 誰も住んでいない以上、メンテナンスなどしている訳がない。となると、壁に魔法なんて打ち込んだら崩れる可能性だってあるのだ。出来る限り、強行突破は避けたいところなのだが。


「ねえねえ、ここに変なのあるけど」


 その声の主は、こういう場で最も役に立たなそうな強行突破推しのエリーだった。

 僕もルナに肩を貸りながら、彼女の居る部屋の中心へと向かう。


「これなんだけど……」


 エリーの指が差す先にあったのは……えっと、何もないんだけど。


「ここよ、ここ! よく見て!」


 ルナに屈んで貰いその1点に目を凝らすと、灰色の煉瓦の中に一か所だけ円形の切れ目があった。床が黒系の色をしているせいで見え辛かったのを考えると、これも隠したかったのだろう。


「ぽちっ」


 効果音を自ら言いながら、そこに指をのせてグイッと押すエリー。本当にボタンだったようで、1センチメートルほど沈んだ。

 すると突如、金属で出来た巨大な歯車がグルグルと回るような轟音が鳴り始め、丁度エリーの真上の天井が下り始める。


「わっ!」


 間一髪、バックステップで回避してドヤ顔をしているエリーをよそに、降りてきたものに目を向けた。

 何やら黒い石で出来た台座のようで、中心部分には牙のような形をしたパーツが4つ、球体を固定するかのように配置されている。その底面には経年劣化で分かりにくくはなっているものの、何やら紋章のような絵が描かれていた。


「これ、何なのかな」


「何か引っかかるんですよね。この隠そうとしている感じ……あっ、もしかして!」


 パッと閃いたような顔をしたアキはルナに「分かったの……?」と聞かれ大きく頷く。本当に、アキは賢い子だ。


「多分ですけど、これは白の宝玉を隠す為の台座ですよっ!!」


 アキのその言葉に彼女以外の3人が一斉に首を傾げる。「白の宝玉」って何のことだ?


「とにかく凄いお宝だと思っておいて下さい。かなり話が長くなりそうなので、帰ってから話します。それよりも出口を……」


 「探しましょう」とアキが言いかけた時だった。突然、広間にビーッという警告音のようなものが鳴り響く。

 何となく犯人が分かってしまい、そっちの方に目を移す。


「あ、えーと、そのぉ……」


 僕の、いや皆の目に映るのは台座の牙のようなパーツに指で触れているエリーの姿だった。


「興味本位でここに指乗せたらビーッ……って」


 彼女の声量が減衰すると共に、歯車のような機械の音が更に音量を増していく。この空間にも揺れが伝わってくるほどだ。


「は、早く止めないとっ! 絶対罠ですよこれ!!」


「止め方なんて知ってるわけないでしょ!? 逆にここ引っ張ったら止まったり……あ、無理っぽい……」


「嫌な……予感がする……」


 逆に、この状況で嫌な予感がしない奴はどれだけ頭がハッピーなのだろうか。と、思うくらい僕も嫌な予感がする。

 王都の城の地下でここまで厳重に保管しているということは、相当大事な宝なはずだ。ならば、そこに仕掛けられている罠は……進入者を殺すものの可能性だってあるのだ。


「なんか……変な音がしませんか?」


「変な音?」


 耳に意識を集中させている余裕も無いし、他の音がうるさすぎて聞き取れやしない。ただ、それは自ら聞く必要も無かったようで……。


「このピチャピチャって音……水ですよ、水っ! でも、堀の水は抜けてたのにどうして……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 丁度アキが立っていたタイルにヒビが入り勢いよく水が噴き出すと、それを追うかのように床に割れ目ができては水が湧いてくる。


「どうしよう……このままじゃ……」


 ああ、そうだ。水が増え続ければ空間が水で満たされ僕達は……溺死してしまうだろう。

 だが、出口を探している時間など残されていない。


「エリー!! 壁に向かって魔法を!」


「えっ、でも、危ないよね……?」


 確かに、壁に魔法を打ったとして壊せるとも限らないし、天井が崩れてくるかもしれない。でも……。


「どうせこのままじゃ死ぬんだ。思いっきりやっていいよ」


 膝の高さくらいまで水は上がってきていた。この速さだと持ってあと3分くらいだろう。

 エリーが僕達3人を順に見つめる。彼女と目が合うたびに、皆が首を小さく縦に振った。


「……分かった」


 そう言って左手をゆっくりと上げ、手のひらを壁に向ける。無数の光の粒が彼女の手へと集まっていき、大きな球体を形成していく。


 水位はもう、アキが苦しくなるくらいまで上がってきていた。彼女は泳げるのでまだ何とかなるだろうが……。


「僕、泳げな……」


「いっけぇぇぇぇぇぇっ!」


 その声を掻き消すように爆音が鼓膜を揺らし、放たれた光が目を眩ます。

 だが驚いた勢いで、口元まで来ていた水をうっかり飲んでしまった。


 呼吸ができない。

 前も見えない。

 水の音しか聞こえない。


 そんな中で、僕はあの時のように意識を失った。




「……て、カズヤ……ねえ、起きて……」


「ん……」


 ゆっくりと目を開くと、至近距離にエリーの顔があった。僕の顔を上から見下ろすかのように。

 そうか、僕は溺れたんだった。で、何とか脱出できたという訳か。


「あ、カズヤ起きたよ!」


 あれ? 横になっているはずなのに、首が胴体より高い位置にあるような……。


「……エリー何してんのっ!?」


 地面にしては柔らかいなぁと思っていたが、僕の頭が乗っていたのは……彼女の膝の上だった。


「え、あ、その……アキが『膝枕でもしてあげたら早く起きるんじゃないですか?』って言ってたから……」


 それ、確実にふざけて言ってみたやつだよね? 絶対そうだよね?

 やけに頬を赤らめながら話しているが、アキに遊ばれていることを知ったらどうなることやら。


「……まあいいや、ありがと」


 そうお礼を言って、体を起こそうと足を地面につけた瞬間、強烈な痛みが体を駆け抜ける。足、捻っていたんだった。上手く立てず、頭がエリーの膝の上に戻る。


「か、カズヤっ……もう少し膝枕して欲しい……の?」


「違うから」


 即答で拒否した結果、サッと膝を抜かれタイルに頭を打ち、割れそうなほどの痛みを味わうこととなった。

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『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』スピンオフ第1弾!!
『鍛冶屋を営む大男は今日も少しだけ働きます』
※「Chapter3-01.異世界では何の役にも立たない知識」までお読みになっている前提となっています。

彩雨カナエ Twitter @Rain_Nf3
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