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学生服の少年少女は今日も前線で戦います  作者: 彩雨カナエ
Chapter.4 最前線では善処する
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03.下を向いて降りよう

 城の跡地を探索していると、塔があったであろう部分に居たルナが第一声を上げた。


「ここ……下に何かありそう……」


 彼女の足元を見ると、タイルが敷き詰められた床の中で一か所だけ、金属製のハッチがあった。崩れた壁の端にかすかに布の破片が残っていることから、絨毯でも被せて隠されていたのだろう。

 ということは、何か重要なものをこの下に仕舞っていたのかもしれない。


「……重っ」


 1辺が約1メートルの正方形の形をした金属板は、僕の力ではびくともしなかった。それを見たエリーが横から手を伸ばしてくる。


「はあ、カズヤには無理よ。私に貸して……あ、これは無理だわ」


 と、自分から言っておいて早々に諦めるのだった。


「よく考えたら私達、生きていた頃は引きこもり気味だったものね……」


 そう、僕とエリーの出会いとも言える学級委員決めの時も、「2人ともいつも本読んでいるから頭良さそー」という理由で勝手に推薦された程だ。

「中学のときの体育の成績なんて出席点オンリーだったくらいよ」


「同じく」


 50m走は最も遅く、バスケのシュートは1度も入らず、リフティングは最高1回で、1500m走は途中棄権。酷過ぎてむしろ誇れるレベルだ。


「運動しないと駄目ですよ……帰ったら、腹筋でもしたらどうですか?」


「「無理」」


 即答する僕達に「論外です」と言わんばかりの呆れた顔で溜息をつくアキ。腹筋、やりたくないんじゃなくて本当に1回もできないんだよ。まあ、できてもやりたくないけど。


「……普通に開いたけど」


 そんなやり取りをよそに、ルナが重いハッチを軽々と開けて見せたのだった。いや、あなたが普通じゃないので。


 覗いてみると、暗闇に向かって梯子が続いていた。底は、見えない。


「これは私の出番ね」


 そう言って、エリーは洞窟の時と同じように光の球を魔法で作り出し、穴の中を照らしてくれた。


「これで下が見え……ないんだけど。どこまで続いてんのこれ」


 煉瓦を丸く組んで作られた穴は10、20メートル……いや、それ以上はあるだろう。エリーの光には動かせる距離に限界があるらしく、底まで照らすことができなかったようだ。


「ビームとか打ち込めば見えると思うけど」


「壊れるのでやめて下さい」


 城をさらに破壊しようとするエリーをアキが制止する。照明代わりにビームを打ち込んで穴を破壊し自ら道を閉ざすくらいなら、床ごとやってしまった方が良さそうだ。


「ほらカズヤ、早く行きなさいよ」


「え、何で僕なの?」


 エリーだけでなく、アキもルナもじっと僕に目を向けている。えぇ……まさか「男子だから」って理由じゃないよな?


「あっほら……万が一モンスターが居ても、カズヤなら逆演算すれば魔法撃たれても大丈夫でしょ?」


「凄く後付けっぽいね、それ」


 しかし、この場で硬直していても仕方がないので、ここは率先して降りてみることにした。まあ、物音が聞こえたら戻れば大丈夫だろう。


 金属の梯子に足を乗せる度に、カンカンという音が穴の中で反響する。それ以外の音が何も聞こえず、少し不気味だった。

 ある程度降りるとエリーの光も届かなくなり、周りは完全な暗闇になる。梯子の横棒が等間隔に配置されているので、暗くても足を置く場所は何となく把握できた。だが、流石にこのまま進むのは危ないだろう。もしも、梯子が途中で終わっていたら底まで真っ逆さまだ。


「エリー、今のところは大丈夫だから降りてきて。もう少し下を照らしてくれないと困る」


 足の下の方を見ながら彼女を呼んだ。この暗さでは、どうしても警戒しておかないと不安なのである。


「分かったわ、今行く」


 そう彼女が言った後、上から金属音が同じように響いてきた。光の球もそれに合わせて下がっていき、僕が居る辺りも微弱ながら照らされてきた。


「あっ……」


 金属音に混じって耳に入ってきたのは、エリーが発した声。


「か、カズヤっ! 絶対に上見ちゃダメだからねっ!!」


「えっ?」


 急に大声を出されたために、言葉を聞く前に顔を上に向けてしまった。嫌でも目に入るのは、スカート中の黒い布。あ、どうしよう。


「ちょ、見ないでって言ったでしょ!!」


 スカートを腕で押さえ、赤面しながら怒るエリー。それでも若干見えている。僕の目線をシャットアウトしたいなら消灯すればいいのに、彼女がとった行動はその逆だった。


「うっ、前が……」


 光の球を思いっきり発光させたのだった。目を閉じれなかった僕の目は眩んで何も見えなくなる。


「きゃっ……」


 それと同時に上から聞こえてきたのは彼女の悲鳴だった。それから1、2秒で僕の頭にドサッと何かが落ちてきた。

 流石に耐えられず、梯子を掴んでいた手が離れてしまう。


 偶然にも底に近かった場所のようで、足から着地して倒れたものの何とか助かったが……何だか凄く重い。


「いてて……」


 視界が戻ってくると、現在の状況が良く分かった。倒れた僕の上にエリーが仰向けで寝そべっていたのだ。


「早く退いてくれないかな」


「わ、分かってるわよ!」


 彼女が避ける前に、アキとルナも梯子を降りてきた。多分2人とも、この惨劇を目撃したに決まっている。


「下着が見えてしまうことに気付かないカズヤさんも悪いですが、自分で光らせといて、驚いて落ちるなんてエリーさんも中々……」


 多分、それには「バカですよね」と続くのだろう。さて、僕に「先に降りろ」って言ったのは誰だったかな。


「ねえ、重いんだけど」


「分かったから、重いって言わないで。何か傷つく」


 ようやくエリーが離れてくれたので、立ち上がろうと膝を折り曲げ立とうとするが、右足を地面につける度に激痛が走るのだった。


「あ……足、捻ったかもしれない」


 痛みを我慢すれば立てはするだろうが、到底歩けそうにはなかった。すると、ルナが僕の右足と背中に手を当てながらひょいと持ち上げ、右手を掴んで肩に乗せる。


「歩けないよね……肩、貸してあげる……」


「あ、ありがとう……」


 本当に動けないくらい痛いので、ここはお言葉に甘えておく。これでは完全に足手まといかもしれないが。


「あの……みんな……ごめんね……」


 急に僕達3人に向かって謝るルナ。特にエリー以外は謝ることなど無いと思うが……。


「私が降りる時……誰かが入ってきたら大変だから……扉、閉めたんだけど……そしたら……」


「そしたら?」


「鍵がかかって……開かなくなっちゃった……」


「「「!?」」」


 つまりは「閉じ込められた」ということだ。そんな仕掛けがあるということは、やはりこの場所は何かを守っていたに違いない。

 だが、出口など他にあるのだろうか。この暗い中で探すとなると、かなり苦労しそうだ。

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『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』スピンオフ第1弾!!
『鍛冶屋を営む大男は今日も少しだけ働きます』
※「Chapter3-01.異世界では何の役にも立たない知識」までお読みになっている前提となっています。

彩雨カナエ Twitter @Rain_Nf3
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