02.滅びた都市と隠された真実
バラバラに潰れた家に、折れ曲がった鉄の門。噴水の水は枯れ、石像は砕け散っていた。中央にそびえ立っていたであろう城も、土台と塔の一部しか残されていない。
王都駅から徒歩30分のところにあったのは、荒廃した都市だった。
「まさか、ここが王都なんて言わないよね?」
「その、まさかです」
神妙な面持ちのミアがそう答える。ここまで歩いている間、彼女はずっと俯いていた。何か、心に抱え込んでいるのだろうか。
「グレイス、僕達にこれを見せて何になるのかな」
「……今、グレイスって言いましたか?」
しまった。魔王軍三将と親交があるということが、冒険者を管理しているというギルドの結構偉いポジションのミアにバレたらマズい。
「えっと……町に……グレイスって……女の子が……いて……」
確実に無理をしながら、僕の発言を誤魔化すルナ。後でお礼を言わないと。
「ああ、そういえば昨日、途中から来た方がそんな名前でしたね」
よく考えてみればミアとグレイスは昨晩、一緒に飲んでいたのだった。となると、あの女性がグレイズの化けた姿であるとは到底思わないだろう。
と、視線を斜め下にずらすと、アキが何か言いたげな表情でウズウズしていた。何か喋りたいのを我慢しているに違いない。
「アキ、何かあるなら言っていいよ」
「流石、カズヤさん。よくお分かりで」
彼女はその言葉とともに、こちらを向いて1度笑顔を見せた後、いつものように饒舌をふるい始めた。
「まあ図書館で得た知識なのですが、王都がこのようになってしまったのはある事件のせいなんです。今から12年前、平和だったこの町は突如魔王軍の襲撃に会いました。それも、3つの騎士団が一斉に攻めてきて、三将達も参加したそうです。その圧倒的な戦力に耐えられなかったこの町は破壊しつくされ、特に城への被害は甚大でした。その結果、王都にいた人々の殆どが命を落とし……」
「やめてっ!!」
アキの話を拒むかのように、今まで聞いたこともないような声色でミアが叫んだ。それを聞いた小鳥たちがバサッと木から一斉に飛び立つ。
「ごめんなさい……。少し頭が痛いので、駅に戻って休んでいます……」
彼女はそう言い残し、歩いて来た道を引き返していった。かなり距離があるし、近くの木陰に座っていればいいと思うのだが、ここに居たくない理由でもあるのだろうか。
「……アキ、続けて」
「あ、はい……分かりました」
王都襲撃の真相を、そしてミアが何を拒絶したのかを知るためにも、これは聞いておく必要がある。そんな空気じゃないのは分かっているが、話してほしいのだ。
「……それで、見れば分かると思いますが城は特に集中して被害を受けました。この国を治めていた王も、女王も王子も、結婚間近で偶然この城に来ていた姫も、皆が亡くなったそうで、この事件によって王族の血は絶たれたと言われています」
確かに、町の中心を集中的に攻撃するというのは当然のことだが、それはあまりにも酷いものだった。魔王軍の目的は、ただ王都を潰すことだったのか。それとも、他に何か理由があったのか。
「でも、王が亡くなったら誰がこの国を統治するの? そういえば今って……」
突然、エリーがいつもと違いごもっともな質問をした。確かに王が居ない現在でも、法律を作ったり市民を守るような機関があるはずなのだ。というか、無かったらマズいと思う。
「ノナテージのギルドですよ。あの町、王都を除けば1番大きな町ですからね」
「「「えっ」」」
アキ以外の3人が考えていることは一致しているに違いない。「あれで1番大きい町だったの!?」である。
「本屋が想像以上に小さかったのにっ……!」
「話しやすい相手が……全然見つからない……のに……」
「町の壁が綺麗な円に見えたけど、調べてみたらほんの少しだけ楕円だったのに」
「ノナテージを愚痴るのは自由ですが……カズヤさんに至っては町の大きさ関係ないですよ」
きっと大量に転がっていたであろう瓦礫は殆ど片づけられ、歩きやすくなった王都に足を踏み入れた。ギリギリ形を保っているような、丈夫な石造りの建物の間を進んでいく。
水の無い噴水に腰掛け、無意識に空を見上げると、不穏な灰色の雲が少しずつ北側から流れて来ていた。