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学生服の少年少女は今日も前線で戦います  作者: 彩雨カナエ
Chapter.3 もう三将とは関わりたくない
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13.プロモーションなのです

 目が覚めると私は、辺り一面真っ黒な空間の中にいた。一瞬、目を瞑ったままなのかと疑ってしまったが、自分の体だけはしっかりと見えている。


 結局、私は死んでしまったのだろうか。足場が上から落ちてきて、頭に当たって……奇跡的に一命を取り留めた、何てことはないのだろうか。そんな淡い期待を抱いてしまう。


「ないよ」


 声の主は、いつの間にか私の背後に立っていた。光を反射して輝く銀色の髪を靡かせる、赤い目をした女性。光源も風も見当たらないのだが。


「君は死んだよ。だから、ここにいるの」


「そ、そうですか……えっと、あなたは……?」


 急に現れた見知らぬ人に、「死んだ」と宣告されても信じられない。というか、それ信じたくない私がいる。生きて、また実乃梨さんとチェスがしたいから。


「まあ、信じてくれないかもしれないけど……私は女神のテディ」


 職業「女神」によってさらに胡散臭さを増しているが……でもさっき、しれっと私の頭の中を読んでいたような……。そうなってくると、信じざるを得ない。

 じゃあ、やっぱり私は……死んじゃったのか。


「ここで一つ、提案があるんだけど……」


 彼女は口元に人差し指を当てて、怪しげな雰囲気を漂わせながらそう言った。


「提案……ですか?」


「そう。異世界、行ってみない?」


 そんなぶっ飛んだ提案を突きつけてくるテディさん。でも女神なら可笑しくはないのか……?

 最近、そんな感じの小説が人気らしいが、私は読んだことがない。というのも、私の本棚にあるのは教科書等を除けば、チェス関連の書籍だけだ。


「チェスができるなら行ってもいいです」


 それが異世界に行く第一条件だ。チェスが無い世界に行かなきゃいけないなら死んでやる。って私、もう死んじゃってたか。

 ちなみに第二条件は、最低限度の生活を保障してくれることかな。と、憲法の一部からとって知的アピールをする。実際問題、私一人じゃお金稼ぎようが無いし。


「そういえば君、チェス好きだったね。流石に異世界にチェスがあるかは何とも言えないけど……なら、君にチェスができる魔法を授けるよ」


「魔法とかはよく分かりませんが、それならオーケーです」


 どんな形であれ、チェスができることが分かり即答する。それなら、異世界に行っても楽しくやっていけそうだ。


「チェス盤を強く思い浮かべてごらん? そしたら、駒の動きを言ってみて」


 テディさんに言われた通りにすると、私の目の前に、水色に輝く64マスに区切られた四角形と32個の駒が現れた。これだけでもびっくりしたが、「Nf3」と呟くと、右側のナイトがポーンの上を飛び越えて、独りでに左前に進んだのにはそれ以上に驚いた。


「普通の小学生が、魔法使いにプロモーション……何て面白いでしょ?」


「確かに、ポーンからクイーン並みの変化はありますね」


 自身のポーンを相手側の最奥の列まで持っていくと、キング以外の好きな駒に変わることができ、これをプロモーションという。

 相手の駒を取る時以外、前にしか進めないポーンでも、頑張れば最強のクイーンにだって成れるのだ。


「じゃあ、そろそろお別れだね。あ、これ渡さないと……ほいっ」


「わっ!」


 テディさんがポケットから取り出し、こちらに投げてきたものを慌ててキャッチする。両手を広げてみると、そこにあったのは黒いルークのキーホルダー。

 間違いない。私が実乃梨さんの誕生日にプレゼントしたものだった。


「一緒にいた女の子がね、泣きながら君のランドセルにこれを付けてたよ。意識を無くした後だったから、私の手元に来ちゃったけど……」


「実乃梨さん……ごめんなさい……」


 私の目から零れた涙が、2色のキーホルダーを濡らす。最後の勝負が、よりによって私のミスで引き分けに終わってしまったことが、悔しくてたまらなかった。

 でも、今となってはどうすることもできない。私は死んだのだから。制服の袖で涙を拭い、意を決して立ち上がる。


「私を……異世界に連れていって下さい!」


「覚悟はできたみたいだね。それじゃ、向こうに送るよ」


 彼女がこちらに手を振るとすぐに足元の見えない床が抜け、体が空中に放り出される。底の見えない闇のトンネル。重力に身を委ね、新たな世界への期待を胸に、ゆっくりと目を閉じた。




「これで2人目か……次はどんな子にしようかな」

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『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』スピンオフ第1弾!!
『鍛冶屋を営む大男は今日も少しだけ働きます』
※「Chapter3-01.異世界では何の役にも立たない知識」までお読みになっている前提となっています。

彩雨カナエ Twitter @Rain_Nf3
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