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学生服の少年少女は今日も前線で戦います  作者: 彩雨カナエ
Chapter.3 もう三将とは関わりたくない
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12.絶叫→鼻歌→絶叫

 窓の外の喧騒も、どんな音だって今の僕の耳には入って来ない。


「そんなことがあったんだね」


 机を挟んで向かい合うアキが、この世界に来た、つまり「どのように死んだのか」を話してくれたのだった。


「なんか……さっきまで楽しい雰囲気だったのに……ごめんなさい、壊しちゃって……」


「いや、頼んだのは僕だから。アキが謝る必要なんてないよ」


 夕食をとった後、ルナ達をおいて僕とアキは先に宿屋に戻った。帰り道にその話題を振ったことで、今に至る。

 エリーのそれは、こちらの世界で会ったその日に聞いたし、思い出したくもないが実際に目撃している。よそ見をしていて階段から落ちたのと、友達を庇ったというのには大きな差があるが。


 この異世界に転生した人というのは、今のところ僕達4人以外には会っていない。探せば他にもいるのかもしれないけれど。


 それにしても、何故ここまで上手く事が進んでいるのだろうか。エリーはノナテージ周辺で、アキはもう少し北の町で、ルナは森の中で、それぞれが別々に行動をしていたはずなのに、この短期間でパーティとして集まっているのだ。

 これには違和感を覚える。


 この世界に来た日、僕は偶然にもエリーと出会い、モンスターに襲われたところを助けてもらった。あの時は所謂「感動の再会」のようなものだと思っていたが、今となっては明らかに不自然な気がするのだ。


 沢山の人々が生活するこの世界で、あの草原のど真ん中で、しかもモンスターに襲われている時というベストタイミングで、偶然にもエリーと会う確率なんて、限りなく0に近いだろう。

 あれは、初めから定められていた運命のような、必然的なものだったのではないかと思っている。そうでもしないと、説明がつかない。まるで、神のような存在がこうなるように仕組んだような……。


「……ズヤさん、聞こえてますか?」


 そんな突飛な思考を遮るように、アキが呼びかける。


「ああ、ごめん。エリーのこと考えてた」


「えっ……」


 先程、2人がかりでソファの上に戻したのに、いつの間にか床に落下しているエリーの方に目を向けてそう言うと、アキが顔を赤らめ、驚いたような表情を見せた。


「やっぱり……2人はそういう関係だったんですか?」


 そういう関係、とはどういう関係のことだ? 直前に該当するような言葉もないし……。


「カズヤさん、流石に察して欲しかったのですが……。えっと、2人は付き合ってたんですか? ってことです」


 考え過ぎて思考停止する寸前のところで、アキが言い方を変えてくれた。ああ、そういうことか。


「別に、エリーと僕はクラスメイトで、2人で学級委員やらされて、同好会作っちゃっただけの関係だし、そういうのじゃないよ。勉強教え合ってただけだし」


 大体、僕から見た彼女は、文系教科を教えてくれる比較的話しやすい女子に過ぎない。2人きりのことが多かったのは事実だが、恋愛感情などを持ったことは一度も無かった。


「それ、ほぼ付き合っているのと変わらないような……」


「まずは『付き合っている』の定義から考えないといけないね」


「あ、長くなりそうなのでしなくていいです」


 残念。結構面白い話にはなると思ったんだけどな……。


 会話が止んだ部屋に、「ぐぅー」というエリーのいびきだけが響く。とにかくうるさい。

 無言で僕とアキは目を合わせ、同時にうんと頷き、床に寝そべった体を協力してソファに持ち上げる。そして、僕は親指を立ててゴーサインを出した。


「えいっ!」


「……ん……? って、痛い!! やめてっ!!」


 包帯がグルグルと巻かれた左腕に容赦なく飛びつくアキ。そして痛みで絶叫するエリー。何ともカオスな空間である。

 腕を動かし「放してよ!!」と振り落とそうとするが、アキも踏ん張って中々離れない。起こすのが目的だから、そこまでしなくても良かったんだけど。


 すると彼女は腕を振るのを止め、痛みを我慢しながらアキに質問を投げかける。


「……で、誰に言われたの?」


「カズヤさんに頼まれました」


「正直でよろしい」


 ちょっと待て、僕はただ「エリーを起こして」と頼んだだけだ。ソファから立ち上がり、指をぽきぽきと鳴らしながらこっちに向かってくる。嫌な予感しかしない。


「覚悟はできた?」


「いや、ちがっ……う゛っ」


 いつものように、僕のお腹に叩きこまれるグーパンチ。寝起きだからか、通常よりも威力は弱めな気が……って何で分析してるんだ。

 僕を殴って満足したのか、エリーは棚から着替えを取りだしてシャワールームに入っていった。


「あ、殴られたくなかったので嘘ついちゃいました」


 平然と罪を擦り付けたことを自白するアキ。末恐ろしい小学生だ。


「うーん、アキらしい……のかな。でもまあ、被害に遭うのがアキじゃなくてよかったよ」


「えっ、あ……えーと、カズヤさんも……カズヤさんらしいですね。……優しいところが」


 最後の方が、シャワールームから漏れる鼻歌のせいで上手く聞こえなかったのだが……前も聞いたが、「僕らしい」というのは褒め言葉なのか?


「痛っいぃぃぃぃぃぃ!! しみるぅ……」


 またもや長考に入りそうになった僕を引き留めたのは、そんなエリーの叫びだった。多分、傷口にシャワーを当ててしまったのだろう。取り敢えずさっきのパンチの仕返し、ということにしておく。


「ふっ……エリーさんも、エリーさんらしいですね……」


 この場合に関しては、「らしい」は全く褒めていないな。その前に苦笑が入っていた時点で、皮肉たっぷりなのは明らかだ。

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『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』スピンオフ第1弾!!
『鍛冶屋を営む大男は今日も少しだけ働きます』
※「Chapter3-01.異世界では何の役にも立たない知識」までお読みになっている前提となっています。

彩雨カナエ Twitter @Rain_Nf3
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