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学生服の少年少女は今日も前線で戦います  作者: 彩雨カナエ
Chapter.3 もう三将とは関わりたくない
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09.想定外の訪問者

 神妙な面持ちで、ピンと背中を伸ばし椅子に座るルナ。何やら話があると言われ、僕達3人も席に着く。


「その……今日の夜、帰って来ないかも……」


「「「!?」」」


 彼女の口から出た言葉は、誰もが予想もしていないようなものだった。「え、何? まさか男でもできた?」とグイグイ切り込んでいくエリー。それは、思考が単純過ぎやしないか? 比較的大人しい方だし、ルナに限ってはそんなことあるはずは……。


「何か……誘われちゃって……」


「「「!?」」」


 アキは「ナンパですか? その男叩き潰してきましょうか?」なんて恐ろしいことを口にしている。やめろ、捕まるぞ。ルナ、まさか本当に……。


「あ、そういうことじゃなくて……ミアさんとユーラさんに絡まれて……『今日、飲みに行こうよ!』って……」


「「「……」」」


 アキもエリーも思ったことは同じだろう。「ですよね」と。

 あれ? でも、ルナって……。


「ねえ、ルナってお酒飲んでいい歳だっけ?」


「私、死んじゃったのは19歳のときだけど……1年くらい経ってるから……セーフだと思う……」


 所謂「お酒は20歳になってから」というルールがこの世界にも適用されるのか知らないが、まあ20歳なら大丈夫だろう。ルナが飲みに誘われたということよりも、大人だったことの方に驚きを隠せない。


「でも……確かこっちでは……16歳以上だったような……」


 それを聞いてガッと立ち上がるエリー。何となく、出てくる言葉は予想がつく。


「私もついてい……」


「「「やめて」」下さい」


「なんで!?」


 万が一、エリーが酔ったら何を仕出かすか分からない。なんせ、平常時でもこの謎テンションと空気の読めなさだ(僕も言える立場ではないが)。僕が迷惑を被るのはもうお察しなので、やめて頂きたい。


「というかユーラさん、あの状態でお酒飲んじゃって大丈夫なんですか?」


 確かに、さっき少し寝たとはいえ、いつもより体調が悪いのは事実である。


「ミアさんが言ってたけど……結構……強いみたいで……」


 やっぱり人って見た目だけじゃ判断できないものだな。と改めて思った。




 その後各々の趣味で時間を潰し、現在午後6時。ルナは少し前に「じゃあ……行ってくるね」と言って出掛けていった。


「あー……暇ね」


「……ですね」


 特に目標というものが無い今、立てるべき作戦も無く、3人の趣味が見事に噛み合わないこともあってか、会話が弾まない。いつも、雑談時はルナが緩衝材的な役割をしていたのだ。


「なんか話のネタは無いの……!?」


 エリーの言葉を掻き消すように、鍵を閉めていたはずの窓がバンッと勢いよく開かれた。

 目に映るのは、見覚えのある深紅のドレスと長い金髪。そう、大きめの窓枠に腰掛けていたのは魔王軍三将の1人、ヴァンパイアのグレイスだった。


「あ! 私達が着替えてるのを覗いてた変態ババ……っ!」


 最後に「ア」と発する直前、いつの間にか背後に回っていたグレイスの剣はエリーの喉元に当てられていた。


「貴様、死にたいのか? 一応言っておくが、余はヴァンパイアでは若い方だぞ?」


 どんなモンスターでも煽って怒らせる。そんな度胸は賞賛に値するが、その謎スキルは本当に要らない。


「あのー……鍵閉めといたはずなんですけど……」


 アキがもっともな質問を口に出す。そういえば、現在進行形で住居侵入の被害に遭っているだった。


「余はヴァンパイアだ。霧のような状態にだってなれるのだよ。貴様らが窓から目を離してるうちに、その状態で隙間を通って鍵を開けておいてだな。あとは頃合いを見計らって登場、という訳だ。普通に出てきても面白くないだろう?」


 こちらとしては、別に登場シーンにエンターテインメント性を求めていないのだが。


「蹴破るという選択肢もあったが、それだと鍵が壊れて迷惑だろうと思ってな」


「そこは優しいのね」


 グレイスに首根っこを掴まれながら、エリーは率直な感想を述べた。人を滅ぼそうとする魔王軍の、それも三将とは思えない性格である。


「なっ……優しいだと!? 余は三将の1人、決してそんなことは……」


「でも、人を殺したりはしないんで痛い痛い痛いっ!!」


 グレイスは調子にのるエリーの頭をガシッと掴み、力を入れる。このままだと、グレイスが初めて手をかけることになりかねない。


「あ、今ちょっと手加減したでしょ! やっぱり優しいじゃないのこの変態ババうっ……」


 エリーはその場で崩れ、バタッと床にうつ伏せになって倒れた。完全に自業自得である。


「今、エリーさんに何したんですか……?」


「ババアババアって煩いから、黙らせるために魔法で眠らせただけだ」


 結局、散々グレイスを煽っておいて無傷で済んでいるエリー。「黙らせるために喉を掻き切る」なんて手段を選ばない辺り、やっぱりこの人……いやヴァンパイア、優しいのでは?

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『学生服の少年少女は今日も前線で戦います』スピンオフ第1弾!!
『鍛冶屋を営む大男は今日も少しだけ働きます』
※「Chapter3-01.異世界では何の役にも立たない知識」までお読みになっている前提となっています。

彩雨カナエ Twitter @Rain_Nf3
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